「気候危機との闘いは、これからどう生きるかの闘いでもあるんです」
そう語るのは、環境活動家で鹿児島大学3年生の中村涼夏さん。グレタ・トゥーンベリさんの学校ストライキから始まったムーブメント「Fridays For Future(FFF)」を日本でも立ち上げたメンバーの1人だ。
高校生の頃から約4年間、FFFでの活動を軸に、気候危機に対して声をあげてきた中村さんは、11月6日からエジプトで開かれる国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)のドキュメンタリーを撮るためにクラウドファウンディングを行っている。なぜ今、新たな挑戦に踏み切ったのか。
内側から見た日本の「若者の気候危機運動」と、葛藤を抱きながら気候危機を訴え続ける心情を吐露した。
内側から見た日本の「若者と気候危機」
気候危機への運動を続けてきたこの4年間。
「気候危機を知る人が増えたり、陰謀論という言葉が減ったりするなど、変化の手応えは確かにあった」
そう思う一方で、中村さんにもどかしさが募る。友人や家族など“足元”の意識や行動が変わっていないように感じるからだ。鹿児島市の環境審議会委員を務める中でも、彼女が住む地域の住民に思っていたより変化がないことを突きつけられた。
「内側から見ると鹿児島市役所の人たちは本当に頑張っているのに、気候危機や環境問題の対策が進まない。『市民の認知が足りないから』だと言われました」
そんな時、フォトジャーナリストの佐藤慧さんが「世界を変えるのはシステムではなく人間の精神的な成長であると信じて」とTwitterに書いているのを読んで、ハッとさせられたという。
「システムを変えることはもちろん大事。でもシステムチェンジを求めすぎた結果、『人々が変わらなければならない』という意識が追いついていないのではないかと思いました」
気候危機が解決したより良い社会を目指すために、本当に変えたいのは人々の意識だった。システムが変われば、人々の意識も自然と変わると思っていた。けれどこれまでの運動を通して、「周りから駆り立てられた危機感」が「自分自身のもの」にならなかった人の方が多いのかもしれない、と中村さんは振り返る。
「自身の内側に危機感を持たない人に『がんばれがんばれ』と言うより、彼ら自身の根底にあるものを、彼ら自身で探るためのコンテンツが必要なんだと強く思いました」
そうして2022年9月、中村さんと山本大貴さん(大学1年生)の2人を中心に立ち上がったプロジェクトが、気候危機とその対策現場をドキュメンタリーで伝える「record1.5」だ。
エコサイド、ジェノサイドの「加害者」は自分
今でも耳に残っている声がある。
「あなたは(先進国の大人として)何をしているのか。ジェノサイド(大虐殺)やエコサイド(環境破壊による大虐殺)を止めるために何もしていない。誰も政府をとめてくれない」
今年6月、スウェーデンで開かれた環境会議「ストックホルム+50国際会議」でパキスタンから来た少女が、壇上にいる大人たちに向かって叫んだ言葉だ。
中村さんは、その言葉を「若者」というマイノリティとしてではなく、「先進国で生きる人間」として受け取った。
未来世代を生きる「被害者」であると同時に、環境破壊をし続ける先進国の「加害者」でもあると、頭では分かっていたつもりだった。しかし、中村さんはその時になって初めて被害者の「顔」が見える形で、「あなたは加害者だ」と突きつけられた気がしたという。
隣に座る先進国の若者たちを見渡しても、少女の言葉をただ黙って聞いていて、何も言わない。
「そんな自分の加害性に泣けてきてしまって…じゃあ日本は、自分は、何ができるのかとすごく考えさせられました」
この出来事がきっかけとなって立ち上がったrecord1.5。最初に手がけるのは、11月にエジプトで開催されるCOP27のドキュメンタリー制作だ。
record1.5では、COP27に集まる人々のリアルを記録する。「若者」と一括りにしたり、行動の「結果」だけを映したりしない。
「COPでは、いろんな若者たちが出会って、運動を計画していって、立ち上がる流れがあるんです。立ち上がった結果のアクションだけじゃなく、立ち上がるまでの葛藤も追っていきたいなと思っています」
また、ドキュメンタリーに映すのは「発言している人」だけではないという。発言を「受け取った人々」の姿や、撮り手である中村さんたちの姿も映し出す。
「ストックホルム+50国際会議のパキスタンの少女も、後で会うと結構楽しそうな子なんです。『solidarity(連帯していこう)!』と明るく声をかけてくれました。例えば彼女がスピーチをしているところだけでなく、笑って話したり、葛藤したり、その周りの人々や繋がりなどを多面的に映し出すことで、“リアル”を見せていきたい」
そんな“点”ではなく“帯”で見せていくことで、見た人が「自分だったらどうするか」「どの立場に自分は立つか」など、自身と対話するきっかけになってほしい、と中村さんは期待を寄せる。
「『この世界の片隅に』という映画がすごく好きなんです。日常の、人生の一部に戦争がある描写がリアルですよね。気候危機も“日常”の中にあるんだと伝えたいです」
気候危機の闘いは、これからどう生きるかの闘いでもある
「環境運動に関わる若者たちの多くは、約3カ月周期で変わっていきます」と中村さんは言う。受験や留学、就活の節目に運動から離れて、その後戻ってこないことが多いそうだ。
高校から大学3年生の今まで活動を続けてきた中村さんにも、その節目はもちろんあった。それでも気候危機との闘いをやめなかったのは、「消えない怒りがあるから」だと中村さんは言う。
その「怒り」とはなんなのか。中村さんは「気候危機の闘いは、これからどう生きるかの闘いでもあるんです」と話す。
「小学校から中学校にかけて水泳に打ち込んでいましたが、練習では強くても大会ではすごく弱かった。中学2年生のある時、コーチに『なんで伸びないんだろうね』って言われたのを今でもよく覚えていて…大会で結果を出すことが“幸せ”で、それができない私はダメなんだって思いました」
「大学受験に失敗した時も、自分としては結果がどうであれ、勉強をして偏差値を20も30も上げられたことが幸せでした。自分が幸せを感じた努力の過程や成長を受け入れてほしかった。でも『第一志望に受からなかったら幸せじゃない』と親や周りの大人に決め付けられて、その結果主義的な価値観にすごく違和感がありました」
そんなことが積み重なる中で、グレタ・トゥーンベリさんがCOP24で、「あなたたち(大人)は、自分の子どもたちを何よりも愛していると言いながら、その目の前で、子どもたちの未来を奪っています」と言い放ったスピーチを聞いて、深く共感したそうだ。
トゥーンベリさんの言葉をきっかけに、大人たちが行動を変えないことで高まる気候危機の問題と、個人的に感じていた「これまで通りの幸せの形」を押し付ける大人への怒りが重なった。この時自覚した怒りは、自分が“大人”となった今もなお消えないと中村さんは言う。
「親や大人は、彼ら自身が幸せだと思って歩んできた道を、子どもにも同じように歩んでほしい、もしくはもっと良い道を歩むことで幸せになってほしいと思っているんだと思います。でも私は、今までの延長線上にある幸せの中で生き続けている人々の意識が変わって、気候変動が解決した社会は、絶対にみんなが生きやすい社会だと信じています」
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中村さんが自身のコアとなる体験や感情と気候危機運動の繋がりを打ち明けたのは、メディアで取り上げられる時のような「若者代表の特別な存在」としてではなく、等身大の姿で新たな挑戦をしたいと思ったからだろう。これからはシステムチェンジだけでなく、人々の意識がどう変わっていけるのかにも注目しながら、中村さんは気候危機に立ち向かう。
record1.5では、COP 27のドキュメンタリーを作るためのクラウドファウンディングを10月21日(金)午後11:00まで実施中。詳細はこちら。
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「あなたは加害者」と突きつけられ、“葛藤”を記録すると決めた。環境活動家・中村涼夏さんの新たな挑戦