「空母打撃群」は1日700万ドル(約10億円)という途方もない維持費がかかります。
なぜ、このような高額な維持費がかかるのかを、海外YouTubeチャンネル「The Infographics Show」が解説しています。
*Category:テクノロジー Technology|*Source:The Infographics Show,wikipedia
空母打撃群の維持費がとてつもなく高くつく理由
空母1隻、駆逐艦3隻、巡洋艦1隻、潜水艦1隻からなる空母打撃群は、毎年新たな駆逐艦を2隻購入できるほどの維持費がかかっています。
艦船や航空機の代金はすでに支払われているのに、なぜこれほどの高額な維持費がかかるのでしょうか。その答えを知るには、1日700万ドル(約10億円)という数字の内訳を知る必要があります。
まず、この価格には空母だけではなく、攻撃隊全体が含まれています。さらに、空母に所属する空母航空団と、その装備の運用に必要な約6,700人の人件費も含まれています。
海軍の「OFRP」と呼ばれる艦隊対応計画には、空母を含む艦船の整備から訓練、配備に至るまでのサイクルが決められています。OFRPによると配備から帰還した艦船は、造船所で整備されます。そして、再びこのサイクルを開始します。この全工程を終えるには、約2年半から3年かかるようです。
船のそれぞれの部分には、固有の費用がかかるため、コストを決定する上で重要な指標となります。
艦船が配備から戻ると、艦船会社や請負業者によって整備されます。電子機器や繊細なハイテク機器を搭載した巨大な金属の船は、海水環境下では急速に劣化します。船に乗ったことがある人ならわかると思いますが、水、湿度、暑さ、寒さ、その他環境や人的要因によって、物は常に壊れ、漏れ、破裂し、劣化しています。
そのため、船舶を建造当初の状態に戻すためには、膨大な作業が必要となるのです。
作業が行われる造船所は、主に民間所有で何十年もの間、海軍のために設備と修理サービスを提供しています。その中にはBAE、MHI、NASCO、Vigorなどの大手企業がありますが、これらの企業は何千もの下請け業者を雇っています。海軍は最も安い入札者と契約するため、これらの企業は常に下請け業者に見積もりをどんどん下げるように圧力をかけています。
このように大企業が底値競争をし、海軍との契約を獲得すると、ようやく船は造船所に運ばれ修理が開始されます。
しかし、下請け業者は、賃金が低いため苦労しています。そのため一旦作業が始まると、海軍と契約した企業は、作業の大部分を行う下請け業者によい支払いができるように、価格を吊り上げます。
海軍はすでに契約を結んでいるにもかかわらず、そのツケを払わされることになります。また、契約解除をしようにも他の会社を選ぶ作業は、多くの時間を費やすことになります。この無駄な時間は、吊り上げられた価格よりも高くつくでしょう。
また、造船所が価格を人為的につり上げるもう1つの方法があります。それは、新しい仕事を発見したり、船に必要な仕事をピックアップしたりすることです。
これは、作業が進んでいるときに、海軍が作業範囲を広げたいと考えたり、予想以上のダメージがあった場合に起こります。このような契約変更は、意図的に価格を吊り上げるような悪質なものではありませんが、頻繁に起こることです。
また、当初の契約では指定されていない仕事を海軍が追加することもあります。海軍がその依頼をしたい場合、政府に認可を申請し、企業にお金を払うという流れになります。
このように、船の修理は非常に非効率で、何十年も海軍を苦しめてきました。
しかし、海軍は自前の造船所から民間の造船所に移ってしまったため、この少数の企業が独占状態を作り出し、海軍を窮地に追い込んでいるのです。
これらの相当なコストと時間超過は、空母打撃群の維持費に大きな影響を与えています。海軍のトップは何年もこの業界を非難していますが、現状ほとんど変化はありません。
艦船の1隻がようやく造船所を出ると、訓練が始まります。訓練では、個々の艦艇の能力を向上させ、配備されたときのために協力体制を構築していくことに重点が置かれています。
この間、船はさまざまな訓練や点検のために頻繁に出航します。その際に、最もかかるコストの1つが燃料費です。
軍は年間約200億ドル(約2.8兆円)の燃料費を支払っていますが、海軍はその5分の1程度を負担しています。空母や潜水艦は原子力発電で推進しますが、それ以外の攻撃隊や航空機は燃料が必要です。
ただ、造船所とは異なり、海軍は燃料費を低く抑えることに長けています。国防総省は18ヶ月ごとに燃料の価格を予測し、政府レートとして設定しています。
この方式は、海軍にとっていくつかの点でメリットがあります。それは、燃料市場の大きな変動から海軍を守ることができるという点です。
2022年、国民の多くが燃料の値上げに痛みを感じていますが、海軍は1年以上前からレートを固定しているため、依然として燃料を安く支払っています。こうすることで、海軍の指導部はより効率的に予算を組み、燃料に支払う価格を低く抑えることができるのです。
海軍は燃料代を固定料金とすることで経費を削減することができていますが、物流部門の機能が低下した場合、非常に大きな損失を被ることになります。
空母打撃群は巨大で、燃料、食料、物資、兵器などを搭載する能力は高いですが、艦内にはスペースが限られています。そのため、海軍は食料、弾丸、燃料などを世界の遠く離れた場所に運ぶために、物流基地と物流船を組み合わせて利用しています。
ただ、ここ数年、海軍はその点で苦労しており、悪化の一途をたどっています。冷戦終結後、海軍は前方展開の物流基地を大量に閉鎖し、艦隊の物流船を大量に退役させたり売却したりしました。
このような行動をとった理由は、米海軍が海洋において世界一の無敵の超大国であり、誰も追いつくことができないと考えていたからです。
1990年代の米海軍は、ロシアや中国の海軍が米海軍を追い越すかもしれない存在になるとは想定していなかったのです。その結果、物流基地と物流船は縮小の一途をたどることになったのです。
海軍はスポーク方式に移行して以来、より高いコストで頻繁に展開することを優先させています。スポーク方式とは、バージニア州ノーフォーク、カリフォルニア州サンディエゴ、グアム、バーレーンといった地域を中心に貨物を集約させ、拠点毎に燃料や部品などを仕分けて運搬する輸送方式のことです。
船や飛行機は、必要な場所に到着するために膨大な距離を移動をする必要があります。例えば、中東の攻撃隊に燃料を補給する場合、スペインのロタ、あるいはバージニア州のノーフォークまで行って燃料を補給し、再び戦場に向かわなければならないのです。
部品に関しては、海軍は頻繁に民間航空会社と契約し、世界各地に運んでもらっています。海軍には空軍のような物資輸送能力がないため、この方法は非常にコストがかかります。
海軍は燃料や弾薬、食料を備蓄できる基地の権利がなかなか手に入らないため、このような方法を取らざるを得ないのです。
また、補給のために寄港する国と協定を結ぶのは、思っているよりずっと複雑なことのようです。なぜなら、海軍の艦船を受け入れることができる港が少ないからです。こうした港を見つけるには、何年もかかることがよくあります。
もし、米国が基地の権利を得ても、外国ではこれらの艦船をサポートする市場は非常に限られています。その結果、海軍は地方公共団体や企業の要求する価格を支払うことを余儀なくされ、コストが増えていくのです。
このほかに、物流コストを押し上げる要因として、米国の商船員の数が非常に少ないことが挙げられます。通常、空母打撃群に補給を行うのは、このプロの船員だけです。
船員が少なく、船も少ないため、この船員たちは割高な料金を請求します。そして、米海軍はそれを受け入れるしかありません。
しかし、米議会と海軍が米艦隊への補給を助ける物流部門に重点を置くようになってから、商船員のコストは下がり始めています。両者は近年、より多くの物流船、遠征基地艦、基地権、そして米国商船隊の再建を約束しています。
ただ問題は、これらの改革が完全に実施されるには20年もかかるという点です。そのため、まだ海軍は艦船への補給に高いコストを払い続けることになります。
そして、空母打撃群が海上での維持に多大なコストを要する最後の大きな理由の1つは、航空機に依存していることです。
戦闘力の中心は、空母航空団です。しかし、最新鋭の航空機を維持するにはコストがかかります。
空母の動く甲板への着艦は非常に難しく、ちょっとしたミスが命取りになります。そのため、平均的なパイロットは、月に約32時間飛行しなければ、熟練度を維持することができないといわれています。
また、空母打撃群が展開されると、パイロットは着陸技術や夜間の発進・回収能力を維持するために、最低でも月に40時間近くの飛行を行います。さらに、長時間の飛行を行うことによって整備を必要とする機会も増えます。
航空機を安全に運用するためには、このような訓練が必要です。その結果、燃料費だけではなく整備費もかさむのです。
船には部品が常備されていますが、もし、手元に無い部品が必要になった場合は、米国から空輸する必要があります。
また、航空機が投下する兵器も非常に高価です。対テロ戦争の前半だけで、米海軍は推定1万6千発の爆弾を投下しました。この量もすごいですが、投下された爆弾の平均的なコストは、あなたを驚かせることでしょう。
航空機の維持費、燃料費、飛行費などを考慮すると、F-18戦闘機から1発の爆弾を落とすのにかかる費用は平均800万ドル(約11億円)にもなるのです。このため、空母打撃群が攻撃作戦に従事するたびに、米国の納税者の負担は天文学的に増えていくのです。
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空母の維持費が「1日10億円」を超える理由