「仮放免者」と呼ばれる人たちをご存じだろうか。
非正規滞在のために入管施設に収容されたが、病気などの理由で一時的に収容停止となり、身柄の拘束を仮に解かれている外国人たちを指す。
仮放免者は日本政府から帰国するべきとされているが、出身国で迫害を受けるなど多くは様々な事情を抱え帰国できない人たちだ。
就労を認められず、健康保険にも加入できないことから、生活困窮や健康状態の悪化といった問題が生じている。
こうした仮放免者のうち、未成年の子どもは全国に300人ほど暮らしているとされる。紛争などで出身国を追われて一家で来日後、難民申請するも認められず、子どもが中学生、高校生と成長していくケース。日本で生まれ育ったが、親に在留資格がないため子ども本人も在留資格を持たない場合もある。
仮放免中の子どもたちもまた、親と同じように暮らしの中で様々な制約を課されている。
<私は、日本で産まれ、日本の教育を受け、今も暮らしています。なので、私にとって日本は母国であり、とても大切な場所です。そんな大好(き)な日本で私はこれからも暮らしていきたいです>
日本やペルーなど5つの国旗の下に、笑顔の5人家族と富士山。
8月19日、仮放免中の子どもたちの絵と作文を展示する東京都内のイベントで公開された、ペルー国籍の子どもの絵だ。
企画展は、仮放免の状態にある子どもたちの存在を知ってもらおうと、入管収容者の人権問題に取り組む弁護士たちでつくる団体が主催した。
この絵とともに寄せた作文には、富士山を描いた理由について「大好きな日本を表すため」との説明があった。
<笑っている家族には、この先もずっといっしょにいたいという気持ちを込めました。私と兄、母はビザがなく、とつぜん家族が離ればなれになるかもしれません。なので、みんなでずっと笑ってすごしていきたいと思っています>
仮放免者たちは不安定な立場に置かれ、いつ再収容や強制退去処分とされるか分からず、家族たちは別離の不安を抱え続けている。
さらに在留資格がないことで、子どもたちが望む進路を閉ざされることもある。
前出のペルー国籍の子どもは作文で、きょうだいの体験を明かした。
<私の兄は、勉強することが好きで、大学進学の道を選びました。しかし、その大学はビザがないと入学許可がおりない為、兄は進学を諦めるしかありませんでした。
兄も私も周りの子と同じ、日本で産まれ、日本で育ちました。なのに、在留カードがないだけで、こんなにも人生が変わるのです>
企画展を主催した「入管を変える!弁護士ネットワーク」の指宿昭一弁護士によると、在留資格がないことから仮放免中の子どもの入学を認めない対応を取る大学もあるという。
企画展には、フィリピン、ガーナ、ナイジェリア、トルコ(クルド人)といった、東南アジアや中東、アフリカなどにルーツをもつ子どもたちが計約40点の絵や作文を寄せた。
7人きょうだいの長男で、日本で生まれ育ったという少年も応募者の一人。将来の夢はプロのサッカー選手という。
少年が在留資格の存在を知ったのは小学6年の時。サッカーチームでの活躍が見込まれ、監督から海外留学を勧められたが、在留資格がなく諦めた。中学時代は強豪クラブに所属したものの、「どれだけ努力しようと、練習試合で結果を残してもビザがないので入団から卒団までの間、一度も公式戦に出場できずに終わりました」と作文に悔しさをにじませた。
仮放免中の子どもたちをめぐる問題は、健康保険に入れない、国内の移動を制限されるといった現在の制約に限らないと、指宿弁護士は指摘する。
「親たちは様々な事情で日本に来ている。さらにその子どもたちの場合、自分の意思に関わりなく日本で生まれたか、物心がついたときにすでに日本にいて、成長する中で在留資格がないことに気づきます。学校を卒業しても就労できないという未来の制約が子どもたちに与える影響は深刻です」
同ネットワークのメンバーの駒井知会弁護士は、「仮放免の状態で、何年も先が見えないまま耐え続けなければならない子どもたちがいる。日本に定着しきっているこの子どもたちを幸せにすることは、日本社会に生きる大人の責務だと考えています」と訴えた。
♢ ♢
<私にとっての母国は日本です。それ以外はありえません>
<「私は普通の日本人だよ」と胸を張って生きていける日々を待っています>
フィリピン出身の両親をもち、日本で生まれ育った18歳の子どもが作文で記した言葉を思い返す。
すでにこの社会に生き、ともに暮らしている仮放免中の子どもたち。「いないこと」にされ続けた存在から、この先も目を背けたままでいるのか。子どもたちのメッセージは、そんな問いを突きつけている。
<取材・執筆=國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版>
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「母国は日本。それ以外あり得ない」夢を閉ざされ、家族との別離を恐れて生きる“仮放免”の子どもたち