ウクライナ東部で親ロシア派が一方的に独立を宣言する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を7月13日、北朝鮮が国家として承認した。これを受けて、ウクライナ政府は北朝鮮と国交断絶すると宣言した。
これらの「人民共和国」の独立を承認するのはロシア、シリアに続いて北朝鮮が3カ国目。自称国家「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」とは何なのか解説しよう。
■ウクライナ侵攻の2日前にロシアが独立承認していた
「ドネツク人民共和国」はドネツク州、「ルガンスク人民共和国」はルガンスク州で親ロシア派の武装勢力が名乗っている自称国家の名前だ。2014年に一方的な独立宣言をして、ウクライナ政府との間で内戦になっていた。
ロシアのプーチン大統領は2月22日、「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認。これらの地域に「平和維持」を目的としてロシア軍を派遣することを指示した。その2日後に、ウクライナ全土に軍事侵攻を始めている。
ロシア国営のタス通信によると7月13日、「ドネツク人民共和国」の指導者・デニス・プシーリン氏はSNS「テレグラム」に「朝鮮民主主義人民共和国は今日、ドネツク人民共和国を承認した」と投稿。「ドネツク人民共和国の国際的地位とその国家はますます強くなっている。これは私たちにとってもう一つの外交的勝利である」と続けたという。
同日には「ルガンスク人民共和国」の「外務大臣」を務めるヴラディスラフ・デイネゴ氏は、北朝鮮から送られた手紙について「ナチスの侵略とアメリカの衛星国家からの独立のために戦っている私たちへの支持の言葉を提供している」とタス通信に述べたという。
■2014年に独立宣言。ロシア軍の支援を受けてウクライナ東部の実効支配を続けてきた
2つの「人民共和国」があるドンバス地域は、ドネツ炭田の周辺に広がるウクライナ屈指の重工業地帯。旧ソ連時代に多くの労働者が移住してきた関係で、ウクライナでも特にロシア系の住民が多い。
ワシントン・ポストによると、2022年のロシア軍のウクライナ侵攻前の時点で「ドネツク人民共和国」には230万人、「ルガンスク人民共和国」には150万人が住んでいると推定されていた。クリミアを除くウクライナ全体(4159万人)の1割程度の計算だ。住民の多くはロシア系で、日常的にロシア語が話されている。
ロシアがクリミア半島を併合した翌月の2014年4月7日、ドネツク州で政府の建物を占拠した親ロシア派勢力が「ドネツク人民共和国」の建国を宣言。同年5月11日には、ルガンスク州でも親ロシア派勢力が「ルガンスク人民共和国」の独立を宣言した。
この2つの「人民共和国」をウクライナは承認せず、ウクライナ軍との間で激しい戦闘になった。小泉悠さんの『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)によると、一時期は「人民共和国」がドネツク州とルガンスク州の大半を勢力下に収めたものの、やがてウクライナ軍に対して劣勢になった。しかし同年8月、約4000人のロシア軍を両地域に投入されて、ウクライナ軍を押し返したという。
ロシアとウクライナなどは、2014年から2015年に2回に渡って「ミンスク合意」を結んだ結果、戦線は膠着状態になった。
ワシントン・ポストによると2022年2月のロシア軍侵攻前の時点で、内戦による死者は1万4000人以上。国家分裂と暴力、景気後退が地域にダメージを与えた結果、200万人以上が逃亡したという。
■ルガンスク州は全域を制圧。ドネツク州では約6割を支配
池上彰さんの記事によると、2つの「人民共和国」はドネツク州とルガンスク州の全域を自分の領土だと「憲法」で定めているいる。しかし、2022年2月までの支配地域は、両州の3分の1程度に過ぎなかった。
ロシアは2つの「人民共和国」が「憲法」で定めた国土を支配できるように支援するという理屈で、2022年2月24日からウクライナ全土への軍事侵攻を始めた。
この結果、7月3日にはルガンスク州全域を制圧したとロシアが主張。ウクライナも撤退を認めており、今後は全域を「ルガンスク人民共和国」が支配するとみられる。
ドネツク州でもロシア軍の侵攻で要衝マリウポリなどが陥落。6月末時点で「ドネツク人民共和国」の支配領域が州全体の約60%まで広がっている。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
北朝鮮が独立承認した「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」とは何か?