保育園や幼稚園に通っていない「無園児」を抱える親は、子育てで孤独を感じやすいーー。
認定NPO法人フローレンスや子育て中の母親らが6月15日、東京都内で記者会見を開き、そんな窮状を伝えた。フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんは「保育園の間口を広げ、希望する全ての家庭が保育園を利用できるようにしてほしい」と訴えた。
全国145万人の無園児。「いつか殺してしまうんじゃ…」
子どもが保育園に通う必要があると行政に認められるためには、保護者が「月64時間以上働いている」といった要件を満たさなければならない。フローレンスの推計によると、こうした壁に阻まれるなどして普段から保育園などに通っていない無園児は、2022年度時点で全国に145万人いるという。
無園児を抱える親は、子育てで孤立し、追い詰められてしまうこともある。
東京都で5歳の娘と4歳の双子の息子を育てる髙濱沙紀さん(30)は、長女の出産前に勤めていた会社で「産休を取らないでくれと遠回しに言われ」、あえなく失業。子どもを保育園に入れることもできず、それから2年以上にわたり、自宅で子育てをしていたという。
毎日1、2時間しか睡眠をとれなかった日々。「自分の子どもをかわいいと思いたいのに、その余裕もなかった」。いっぱいいっぱいになり、泣き止まない子どもに対して「殺意に近い気持ちで、お尻を叩いてしまったことがありました。いつか殺してしまうんじゃないか」と危惧したこともあったという。
関西地方で3人の子どもを育てているという女性も、出産を機に、産休や育休を取得せずに勤め先を退職した。アレルギーを抱え、通院も多かった長男の世話に追われた。ほぼ2人きりの生活で、孤立感が膨らんだという。
「働いていない母親が自分だけで四六時中、子どもを見るのは、いくら愛情があっても限界があります。
子どもとともに孤立している親は、社会から断絶され、先の見えない長く真っ暗なトンネルの中、今日1日をどうやり過ごそうか必死ではないでしょうか」
「子どもが選べることではない」
切実な声は、氷山の一角だ。
フローレンスは3月、第一子が未就学児という保護者2000人を対象に、インターネット上でアンケート調査を実施した。第一子が定期的に保育園などに通っている保護者800人、そうでない無園児の保護者1200人に尋ねた。
「子育ての中で孤独を感じる」と回答した無園児の保護者は43.8%を占め、保育園などを利用している保護者の場合(33.2%)よりも10ポイント以上高かった。特に、無園児の保護者のうち10〜20代の若年層の孤独感が高い傾向にあった。
子育てで孤独を感じている家庭や、「子どもに手をあげてしまいそうなことがある」「子どもを怒鳴ってしまうことがある」など「虐待リスク」を抱える保護者ほど、「定期的に保育サービスを利用したい」と答える割合が高かったという。
全ての無園児が保育園などに通える計算
駒崎さんは「親が働いているか否かは、子どもが選べることではない。全ての子どもが良質な保育や幼児教育を受ける権利を持つとするならば、親の就労次第で未就学児の体験に差が生じるのは、権利の問題としてどうなのか」と疑問を呈す。
フローレンスの推計によると、2022年度時点で全国の保育園などの「空き」はすでに46万人分あるという。定員割れしている保育園で無園児を受け入れれば、全ての無園児が週1日、保育園などに通える計算だという。
駒崎さんは「今こそ保育園を、保育を必要とする全ての子どもや親のセーフティネットとして間口を広げていく必要がある。まずは待機児童問題が解消している地域で、専業主婦家庭などでも希望する誰もが週1〜2日からでも保育園を利用できるようにしてほしい」と訴えている。
〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉
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「いつか殺してしまうんじゃ…」保育園に通えない「無園児」は全国145万人。孤立し追い込まれる親たちを助けて