想像してみてください。もし家の近くに、自分の地元に、風力発電の風車が建つとしたら?
気候変動対策は「待ったなし」。国内でも再生可能エネルギーの拡大が求められており、太陽光発電に加え風力発電にも期待が寄せられています。
一方、いざ「自分ゴト」になると、「自然破壊される?」「地元の風景が変わってしまうのでは?」「鳥が風車にぶつかってしまうのでは?」と気になることがたくさん出てくるのではないでしょうか。
そんな素朴な疑問から、地域住民との合意形成から自然や鳥への影響といった風力発電のリアルを、再生可能エネルギーの発電事業を行う「グリーンパワーインベストメント(GPI)」の事業開発本部対外連携推進グループグループ長・力石晴子さんに、Z世代の環境活動家・中村涼夏さんが聞きました。
中村涼夏(以下中村) 私は気候変動問題に対して、一人の若者として声をあげる活動をしています。再エネというと太陽光発電のイメージが強いですが、GPIはなぜ風力発電を中心に行っているのですか?
力石晴子(以下力石) GPIは30年以上風力発電に携わっているスペシャリストたちが立ち上げた会社なんです。太陽光と風力を比べた時、一番の違いは面積あたりの発電量。少ない面積でたくさんの電力を発電できるのが風力発電の強みです。
一方、風力発電を作るには、高層ビルを建てるぐらいの建築基準や公共事業並みの厳しい環境影響調査(アセスメント)が必要で、調査だけで5年くらいかかります。太陽光発電は2019年まで環境アセスメントの対象外だったので、普及のスピードが早かったですね。
中村 気候変動対策はスピード感を持って進めなければならない一方、実際にどう再エネを拡大していくか、想像できていない部分もあります。素朴な疑問なんですが、例えば気候変動で台風の威力が増していくと見られる中、風車って安全なんですか?折れちゃったりしませんか?
力石 風力発電を建てる場所を決める時には、地域ごとの「環境特性」が厳しく審査されます。もちろん、台風の風速に耐えられるかも審査基準です。さらに、例えば弊社が運営する青森県つがる市の風力発電所「ウィンドファームつがる」は、風速25mで自動停止したり、風の強さによって自動で羽や顔の向きを変えたりして、安全性を高めています。太陽の方を向くひまわりみたいに、風車も風の方を向くんですよ。
中村 風車って頭がいいんですね!私は大学で害虫学も学んでいるのですが、風車で風向きが分かると、農家さんが農薬をまく時にも役立ちそうです。
もう一つ、私は生物多様性にも興味があります。風力発電といえば風車に鳥がぶつかって死んでしまう「バードストライク」が気になります。どのように対策していますか?
力石 希少猛禽類や渡鳥の経路に影響がないか調べることも環境アセスメントの審査基準の一つです。今のところ弊社の発電所でそれほど大きな被害は出ていませんが、どれくらい回避できるかどうかは「確率論」になってしまうのも事実です。
また、風力発電を建てた後に生き物が生息地を変える可能性もありますので、常にモニタリングをしています。風車の近くに生き物の生息地がありそうな場合には、専門家と相談しながら、生き物を別の場所に寄せ付けるような取り組みもしています。
中村 リスクゼロのエネルギーはない、と聞いたことがあります。目の前で鳥が死んでいたら「生態系を破壊している!」と思いますが、例えば石炭を採掘している場所の自然や生態系の破壊にはなかなか実感が湧かない、というのも問題だと思っています。
中村 再エネについて学校で授業を受けた時、「効率が悪い、不安定だ」と聞きました。また、普段気候変動に関する活動をしていると、「日本は再エネを作れる場所が少なくて向いていない」と考える人も多いと感じます。実際どうなんですか?
力石 環境省は、再エネのポテンシャルは現在の電力供給量の最大2倍あると試算を出しています。まだまだ可能性はあると思う一方で、再エネって無敵じゃないんです。太陽光や風、水や熱を使うので、自然に左右されます。複数の自然エネルギーなどを組み合わせて、全体でどうバランスをとっていくか、24時間安定して供給するにはどうすればいいかは、発電事業者にとって挑戦です。
GPIの北海道石狩湾の洋上風力発電所では、大規模な蓄電池の設置と、余った電力を水素に変えて貯めておく挑戦をしようとしています。
中村 再エネを溜めて使う計画がすでに動いているんですね。風力発電自体のポテンシャルはよく分かったのですが、実は私の周りでも、大規模な太陽光発電や風力発電の建設に反対運動が起こっています。いざ自分の身の回りで発電所が建つとなると、抵抗感がある人もいる中で、どのように地域の方々とお話しされていますか?
力石 前提としてよくお話しするのが、私たちが払っている電気代のほとんどが海外にいってしまっているということです。
日本の一次エネルギーの自給率は約11%。海外から石油、石炭、天然ガスなど燃料を買うために、2020年度に日本全体で11兆円かかっています。再エネは気候変動対策だけでなく、海外にいってしまっている電気代89%のうち、数%でも自分たちの手に取り戻すことができる手段だと思っています。
また、GPIが発電所を作る時は、その地域に本社となる会社を新しく作って、法人税も固定資産税も地域に支払われるようにしたり、売り上げの一部を地域活性化のために使うなど、自分たちの地域で作ったエネルギーの恩恵が、地域にきちんと戻ってくる取り組みをしています。
中村 スーパーで野菜を買う時、なるべく地元産の野菜を買って応援しているのですが、エネルギーでも同じように地元を応援できるってことですね!とはいえ、実際の「合意形成」には大変なことも多いと思うのですが……。
力石 「魔法」はなくて、本当に地道に理解を得ていくしかないです。一軒一軒住民の方の家を回ったり、環境アセスメントで決められている説明会以外にも、住民の方々と話す機会を作ったり、難解な調査結果を分かりやすい資料で説明したりしています。
最近の例でいうと、岩手県の風力発電の建設予定地の近くで太陽光発電所の土砂崩れがあって、住民の不安が高まっていました。そこで工程をさらに増やして土砂崩れ防止や雨水対策を追加でやったり、建設現場の様子を住民の方に実際に見てもらったりしています。その現場をどう捉えるかは人それぞれなので、ある意味、地元の方にどう受け取られるか反応が「怖い」と思うこともあるのですが、住民の方に知ってもらうためにやっています。
風車はどこでも作れるわけではありません。厳しい環境アセスメントをクリアした場所にしか作れないからこそ、社会的な重要性を理解してもらった上で、誇りに思ってもらえるように対話を積み重ねています。
中村 「魔法はない」という言葉はとてもリアルですね。発電所ができたら、そこから何十年と発電所と付き合うことになります。長期的な視点で地域住民との関係を考えているんだな、と感じました。
中村 最後に、エネルギーや電気は、制度や政治など大きな視点が多くて、一人一人ができることってなんだろう、と悩む人も多いと思います。何かできることはありますか?
力石 近年、ジェンダーや働き方、生き物など、よく「多様性」が語られていると思います。そこにエネルギーが語られてもいいのではないかと思います。エネルギーが多様であることが、自分たちの国や生活をどれだけ豊かにするだろう、と考えてみてほしいです。再エネの良いことも悪いことも受け入れた上で、これからの社会像を考えていけたらいいなと思います。
中村 企業では手が届かない部分もあると思います。政府に求めることはありますか?私たちは政府へ呼びかけをすることも多いので、ぜひ声を届けたいと思っています。
力石 風力発電所から発生する低周波や騒音と健康影響の明らかな関連性は、現段階では見当たらないことや、周囲の生態系への影響は何が考えられるかを伝えるなど、再エネへの正しい理解を促すための発信を一緒にしてほしいです。
また、再エネの発電所を受け入れる側の自治体への支援が必要だと思います。例えば地球温暖化対策推進法の改正で自治体に温暖化対策の努力目標を作るように促していますが、自治体によってはエネルギーや電気の知見が十分ではない事もあり、対応に時間がかかってしまったりする場合もあるようです。それぞれの地域に合った温暖化対策ができるよう、私たちも頑張りますが、政府にも並走していただきたいです。
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もし地元に風力発電が建ったらどうなる?「再エネ」のリアルをZ世代が専門家に聞いた