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コトラーを愛読するマーケターこそ「再エネ」に注目せよ。最新刊『マーケティング5.0』を読み解く。

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「マーケティングの神様」と呼ばれるフィリップ・コトラー(Photo by Richard Lewis/WireImage)

「マーケティングの神様」と呼ばれるフィリップ・コトラー。コトラーのマーケティング理論を学ぶビジネスパーソンは多いだろう。そんなコトラーの最新刊『マーケティング5.0』は2021年1月に英語版が刊行され、現在日本語訳版が待たれている。

「コトラーのマーケティング理論を学ぶビジネスパーソンは、再生可能エネルギーへ転換する本質的な意味を理解しやすいと思います」

そう語るのは、京都大学大学院経済学研究科の安田陽特任教授。再生可能エネルギーに注目して読み解くと「5.0では、4.0で登場しなかった『SDGs』が何度も登場し、環境問題や再生可能エネルギーに言及している点は、注目すべき点ではないでしょうか」と指摘する。

マーケターが知っておくべき社会の変化とは?安田特任教授に聞いた。

Q.コトラーの『マーケティング5.0』は、何が新しいのでしょうか?

私自身はマーケティングの専門家ではないが、再生可能エネルギーの観点からコトラーのマーケティング理論を注視している。実際、早い段階から『マーケティング3.0』と低炭素化の親和性を指摘する論文も見られている。

コトラーの『マーケティングX.0シリーズ』は、顧客のニーズをいかに体系的に理解するか、時代の変化とともにアップデートを続けている。1.0は戦後直後の大量生産・消費が求められた時代、2.0はいわゆる「バブル時代」で、ブランドや高機能な商品が求められた。

3.0になると、インターネットの普及により商品の背後にあるもの、すなわち環境や人権問題がより重視されるようになり、単にブランドや機能だけではく、社会問題に取り組む社会的責任が求められるようになった。続く4.0ではさらにソーシャル・メディアの普及により、製品やサービスを通して顧客が「コミットメント」や自己実現をするためのマーケティングが提唱された。

そして集大成と言われる5.0では、デジタル化が進み課題や問題も生まれる世界で、マーケティングとテクノロジーをいかに融合させていくか、という点に注目している。加えて、ぜひ注目したいのが、4.0(2017年初版)には登場しなかった「SDGs」が何度も登場し、「環境問題」や「再生可能エネルギー」について言及している点だ。

Q.具体的には?

マーケティング4.0では、環境対策については、例えばパタゴニア社の事例など企業事例の中でわずかに紹介されるに留まっていたが、5.0では明確にSDGsや再生可能エネルギーが言及されている。

実はコトラー教授は過去にも『コトラーの「予測不能時代」のマネジメント(原書は2009年)』や『コトラーのソーシャル・マーケティング(原書は2012年)』でも、持続可能性や環境保護について指摘している。

それが本筋の『マーケティング X.0』シリーズでも指摘されるようになり、今年に入ってからコトラー教授のコラムでも、「renewable(再生可能エネルギー)」がしばしば出てきている。いよいよマーケティングの世界においても、再エネが重要視され始めた、と解釈することもできる。

詳しくは、原書 『Marketing 5.0』 からの引用部分を見てほしい(下線部は安田による)。

①Businesses used to think that if they reinvested some of their profits for the development of society, they did it at the expense of faster growth. Companies must realize that the opposite is true. In doing business, negative externalities must be taken into account. Decades of aggressive growth strategies have left the environment degraded and society unequal. Companies cannot thrive in a failing and declining society. (p.43)
【安田仮訳】従来、利益の一部を社会の発展のために再投資するとしたら、より速い成長を犠牲にすることだと企業は考えていた。しかし、今やその逆であることを認識しなければならない。ビジネスを行う上では、負の外部性を考慮しなければならない。これまで何十年の間、野心的な成長戦略は環境を悪化させ、社会を不平等にしてきたが、衰退した社会では企業は成長できない。

②Corporate values feel most genuine when they are aligned with the business. For example, oil and gas companies must pay attention to the shift to renewable energy and electric vehicles.(p.46)
【安田仮訳】企業の価値観は、それがビジネスに合致する際に最も信頼感を持つ。例えば、石油・ガス会社は、再生可能エネルギーや電気自動車への移行に注目しなければならない。

③Concerted actions are required to ensure synergistic outcomes. A global partnership platform involving governments, civil societies, and businesses will enable visionary companies to find like-minded organizations to collaborate with across the globe. Here is where the Sustainable Development Goals (SDGs) play a crucial role.(p.46)
【安田仮訳】相乗効果を発揮するためには、協調的な行動が必要である。政府、市民社会、企業が参加するグローバル・パートナーシップ・プラットフォームは、先見の明のある企業が世界各地で同じ志を持つ組織を見つけ協力することを可能とする。ここで重要な役割を果たすのが、「持続可能な開発目標(SDGs)」である。
–– Kotler, Philip; Kartajaya, Hermawan; Setiawan, Iwan. Marketing 5.0. Wiley.

Q.日本でも一気に気候危機やSDGsの認知が広がっている一方、自社のサプライチェーンも含めた環境への配慮や再エネへの転換は一筋縄ではいかないのでは?

日本の産業界の人々は環境問題や気候変動を過小評価し過ぎている。一過性のムーブメントかつエモーショナルなものだと勘違いしているかもしれないが、再エネへの転換が進む欧米では、もっと科学的・合理的な判断がなされている。

上記の引用①のキーワードは「負の外部性」だ。わかりやすい言葉に言い換えると「隠れたコスト」のこと。

例えば電力で考えてみると、これまで石炭火力発電は、「コストが安く安定した発電方法」として重宝されてきた。しかし、その「コスト」には気候変動による災害被害の増加や住環境への影響、健康被害、事故や故障を起こした際に発生する「負のコスト」が十分に試算されていなかった。原子力発電も同様だ。本来対策すべきリスクに対策しなかったために「見かけ上安く見えていただけ」だ。

アメリカの研究者の試算では、隠れたコストについて2007年の時点で下記の図のような試算が出ている。

各発電方式の“隠れたコスト”

これを見ると、再生可能エネルギーの外部コストの低さが分かる。隠れたコストが多い従来電源を再エネに置き換えることで「社会的便益」、つまり貨幣価値に換算したメリットが生まれる。世界では、こういった隠れたコストや社会的便益も加味した上で、「再エネへ転換したほうが合理的だ」と国や投資家、企業が判断し、再エネの普及が進んだ。

隠れたコストがあるエネルギーを使いながら、つまり「ズルをしながら」儲けても、それが明るみに出ればあっという間に信頼を失う。問題を先送りにしては21世紀では通用しない。

環境問題への対策や再エネへの転換は、もはや「社会貢献のためのボランティア」のような曖昧なイメージ戦略ではない。『マーケティング5.0』を読めば、ビジネスをする上で必然かつ合理的な選択になっていることが素直に理解できると思う。

Q.日本では外部コスト(隠れたコスト)や社会的便益について試算されている?

日本では再生可能エネルギーのコストについて検証を続けているが、外部コストについては十分考慮できているとは言えない。

経産省の8月3日時点の発電コスト検証ワーキンググループによる試算では、2030年時点で太陽光発電がもっとも安くなると出ている。

洋上風力発電については、本格的に国内で動き出すのは2030年以降のためまだコストが高いが、すでに動き出している陸上風力のコストについては2030年時点でも十分低い。また、長い目で見れば太陽光や風力などの自然エネルギーは燃料費がかからないため、将来的に価格は下がっていく。

ただし、再エネのコストが将来安くなるから導入するという考えでなく、今現時点で、従来電源の隠れたコストが日本ではまだ十分に明らかにされていないという点が重要だ。再エネのコストを負担と考えるのではなく、便益を生み出すための投資として考えることが重要だ。

社会的便益については、2015年の段階で環境省が定量化を行っている。

インタビューに応じる安田陽特任教授

Q 再エネの必要性に気づいたマーケターが起こすべきアクションは?

2つのポイントがある。

まず、これからの時代の企業は、消費者を「知る」ことから始めないといけない。今の時代の消費者は情報に敏感であり、自らの消費行動で地球や社会に貢献したいと考える人が増えている。消費者の心理や行動を軽く見るべきではない。

次に、自分の上司や経営層に対して理論的に説得することが必要だ。

自社のエネルギーを再エネに転換するには、経営層の意思決定が不可欠。単に消費者や株主から求められているからというだけではなく、なぜ再エネへの転換が必要か、やらなければどんな不利益があるのか、リスクマネジメントの点から説明できなくてはいけない。

ぜひ、自分の会社のリスクの評価を長期的な目線で行い、隠れたコストを洗い出してほしい。 隠れたコストから目を背けていることは、リスクの先送りと同義だ。繰り返しになるが、隠れたコストがありながら、つまり「ズルをしながら」儲けても、児童労働や人権問題と同じで、後からでもそれが明るみに出た場合、あっという間に顧客や投資家から信頼を失う。

日本のエネルギー政策では、再エネの導入目標がまだまだ低い。そのため、再エネの発電所や発電電力量が限られ、利用は“早い者勝ち”になる可能性がある。再エネが十分安くなるのを待って、いざ企業活動に使うエネルギーを再エネに替えようとした時にはすでに再エネが足りなくなっているリスクもある。決断は先送りしない方がいい。

安田陽(京都大学大学院 経済学研究科 特任教授)
横浜国立大学工学部卒。同大学大学院博士課程後期課程修了。博士(工学)。関西大学工学部(現システム理工学部)准教授などを経て現職。
現在の専門分野は風力発電の耐雷設計および系統連系問題。技術的問題だけでなく経済や政策を含めた学際的なアプローチによる問題解決を目指している。日本風力エネルギー学会理事。IEC/TC88/MT24(風車耐雷)議長、IEA Wind Task25(風力発電大量導入)専門委員などの各種国際委員会メンバー。
主な著作として「日本の知らない風力発電の実力」(オーム社)、「世界の再生可能エネルギーと電力システム 全集」(インプレスR&D)など。

8月のハフライブ、テーマは電力とSDGs

日本では、電気の約7割が大量のCO2を排出する石炭や天然ガスなどの火力発電によるもの。「石炭火力発電への依存度が高く、再エネに消極的」と国際社会から批判を受けています。

気候危機が叫ばれる今、脱炭素の鍵を握るのが「再生可能エネルギー」。

菅首相が「2050年までに脱炭素」を宣言したことで、今ようやく再エネ普及の機運が急速に高まっています。

「再エネ後進国・日本」は変われるのか。ハフライブで考えます。

【番組概要】
・配信日時:8月17日(火)夜9時~
・配信URL: YouTube
https://youtu.be/JMh2uS5vtFs
・配信URL: Twitter(ハフポストSDGsアカウントのトップから)
https://twitter.com/i/broadcasts/1MnxnlMOwkOGO
(番組は無料です。時間になったら自動的に番組がはじまります)

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Source: ハフィントンポスト
コトラーを愛読するマーケターこそ「再エネ」に注目せよ。最新刊『マーケティング5.0』を読み解く。

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