映画監督の是枝裕和さん、諏訪敦彦さん、岨手由貴子さん、西川美和さん、深田晃司さん、舩橋淳さんの6人は3月18日、「私たちは映画監督の立場を利用したあらゆる暴力に反対します。」と題した声明を発表した。
これに先立ち、9日に週刊文春は、俳優で映画監督の榊英雄氏に性的行為を強要されたと訴える複数の女性の告発について報道。榊氏が一部の女性と関係を持ったことを認めた上で、性行為の強要は否定したと報じている。
これを受け、同氏の監督作品『蜜月』は同日中に公開中止、『ハザードランプ』は14日に予定通りに公開することが発表されていた。
声明は「映画監督による新たな暴力行為、性加害が発覚しました」と言及。具体名は明かしていないが、週刊文春が報じた問題に対して6人が見解を表明した内容とみられる。
危機感を共有する有志の仲間とこんな声明をまとめました。映画業界が抱える問題に対して今後も継続的に発信、提言していきます。賛同者お待ちしています。
私たちは映画監督の立場を利用したあらゆる暴力に反対します。 https://t.co/8YC5jt1hFS
— 是枝裕和 (@hkoreeda) March 18, 2022
監督という「地位を濫用し、他者を不当にコントロールすべきではない」
声明は、有志で集まったという6人の連名で発表された。
「報道されている行為、その内容は決して許されるものではありません」と批判。
被害者がこれ以上傷つかないよう、また当該の作品において権限のある立場にある関係者に、「その現場で同様の問題がなかったかを精査すること、もしあった場合には被害者のために何ができるかを検討する」よう求めた。
さらに、「『映画に罪はない』と拙速に公開の可否を判断する前に、まず被害者の尊厳を守ることに注力すべきです」と、作品の公開可否を判断・発表するタイミングや方法についても疑問を呈した。
映画作りには多くのスタッフが関わっていることから、「互いの人格を尊重しあうこと、仕事上の大切なパートナーであるという意識を持つことが必要」とし、監督という作品の指揮をとる立場の権力性についても言及した。
「映画監督は個々の能力や性格に関わらず、他者を演出するという性質上、そこには潜在的な暴力性を孕み、強い権力を背景にした加害を容易に可能にする立場にあることを強く自覚しなくてはなりません。だからこそ、映画監督はその暴力性を常に意識し、俳優やスタッフに対し最大限の配慮をし、抑制しなくてはならず、その地位を濫用し、他者を不当にコントロールすべきではありません。ましてや性加害は断じてあってはならないことです」
「撮影現場の外においても、スタッフや俳優の人事に携わることのできる立場にある以上、映画監督は利害関係のある相手に対して、自らの権力を自覚することが求められます。ワークショップのような講師と生徒という力関係が生まれる場ではなおさらです」
映画業界は「いまだに旧態依然とした男性社会」
また、「パワハラやセクハラはジェンダーを問わず誰もが加害者、被害者になりえます」とした上で、映画業界は「いまだに旧態依然とした男性社会」であり、「性差別が根強い」と指摘。
こうしたジェンダーの偏りがある状況を踏まえた上で、「キャリアのある男性から率先して自身の特権性を省み、慎重に振る舞わなくてはなりません」とつづった。
こうしたことは、映画監督のみならず、「プロデューサーや助手を率いるスタッフも、十分に気をつけなくてならないこと」だとし、「さらに、その価値観を当然として受け入れてきた女性の監督、プロデューサー、スタッフもまた例外ではないでしょう」と記した。
映画の制作現場や映画館の運営において発生している加害行為は、最近になって突然増えたわけではなく、以前から繰り返されてきたものであり、「ここ数年、勇気を持って声を上げた人たちによって、ようやく表に出るようになったに過ぎません」と指摘。
「被害を受けた多くの方がこの業界に失望し、去っていった事実を、私たちは重く受け止めるべきではないでしょうか」と、ハラスメントにより仕事をやめざるを得なかった人々がいることについても言及した。
最後には「私たちには、自らが見過ごしてきた悪しき慣習を断ち切り、全ての俳優、スタッフが安全に映画に関わることのできる場を作る責任があります。そのために何ができるかを考え、改善に向けたアクションを起こしてゆきます」と決意をつづり、映画業界のハラスメントに対し、今後も継続的に向き合っていく姿勢を示した。
これまで映画界のさまざまな問題について話し合ってきた有志メンバーと声明をまとめました。お読みいただき、賛同いただける方は文中のアドレスにメッセージをお願いします。今後も継続的に発信してゆきます。
私たちは映画監督の立場を利用したあらゆる暴力に反対します。 https://t.co/GoFnEgH9AD
— 諏訪敦彦 nobuhiro suwa #SaveTheCinema #風の電話 (@nobuhiro_suwa) March 18, 2022
有志の映画監督たちと声明を出しました。映画界の問題について今後も考え、継続的に発信していきます。
ご賛同いただける方からのメッセージもお待ちしています。→私たちは映画監督の立場を利用したあらゆる暴力に反対します。 https://t.co/cPb73Xb074
— 岨手由貴子 Yukiko Sode (@sodekkko) March 18, 2022
これまでの経緯は?
9日に週刊文春は、榊氏の作品に出演、あるいはワークショップに参加していた4人の女性の俳優による、同氏からの性行為強要の訴えを報じた。
同記事によると、榊氏は、4人の内の1人については「肉体関係があったことはない」と否定し、他の3人については関係を持ったことを認めたが、「性行為を強要した事実はありません」とし、合意の上だと主張したという。
榊氏は同日に、代表取締役を務める「株式会社ファミリーツリー」の公式サイト上で、謝罪文を発表。「事実であることと、事実ではない事が含まれて書かれておりますが、過去のことをなかった事には出来ません。それをしっかり肝に銘じ、これからの先へ猛省し悔い改めることを誓い、人を、日々を大事に生きていきたいと思っております」などとつづった。
同日、榊氏が監督を務めた『蜜月』(配給:アークエンタテインメント)の公開が一旦中止になることが発表された。その後16日には、ファミリーツリーが、同作の製作委員会から退会したことも明かされた。
また、『ハザードランプ』(配給:東映ビデオ)は3月15日に、予定通りに公開すると発表。「報道されている性加害、ハラスメントは、事実であれば決して許されない」と非難した上で、「関係者の労力と協力のもと、共同作業で製作されている。尽力に報いるためにも、公開を望んでくれているお客さまのためにも、映画を劇場公開したい」などとした。
その後16日には再び週刊文春が、榊氏をめぐって、新たに4人が告発したと報じた。これについては、榊氏の代理人の弁護士から「回答を差し控えさせていただきます」との回答があったという。
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是枝裕和さんら映画監督6人が、立場利用した暴力に反対。業界の「悪しき慣習を断ち切る責任ある」と声明発表