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「ゴキブリ同然」入管の隠し撮り映画が問う、日本の“偽りの共生”

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床に押さえつけられるクルド人男性

「僕らはゴキブリ同然」「体じゅう殴られた」「こんな毎日いらない」――。

茨城県牛久市の東日本入国管理センター(以下、牛久入管)に収容された外国人たちの証言を記録したドキュメンタリー映画『牛久』の上映が、2月26日から東京と茨城を皮切りに全国で始まる。

施設内撮影が認められていない中、収容者たちの承諾を得た上で「隠し撮り」という手法を取ったことで議論を呼んだ本作。

顔と実名を明かす出演者たちからは、入管職員による暴力被害や、終わりの見えない収容生活への絶望が語られる。

閉ざされた入管施設内の人権侵害の実態を突きつける映画は、どのようにして生まれたのか。

トーマス・アッシュ監督に聞いた。

「なかったことにしない」

牛久入管は、在留資格の更新ができずオーバーステイ(超過滞在)となった人など、非正規滞在者たちが収容されている。紛争や政治的な弾圧で祖国を追われて日本に逃げ、難民申請中の人もいる。

映画撮影のきっかけは2019年秋。トーマス監督が教会の友人とともに、ボランティアとして牛久入管を訪れたことだった。

病気になっても施設外の病院に連れて行ってもらえない人、ハンガーストライキの連続で衰弱した人、長期収容で精神的に追い詰められ自殺未遂をした人。

面会を重ねる中で、トーマス監督は「いつ死んでもおかしくない」収容者たちの姿を目の当たりにした。

「なかったことにされないように証拠を残さなければならない」との使命感がわいたという。

牛久入管での面会中、トーマス監督とアクリル板越しに手を重ねる男性

牛久入管は、保安や収容者のプライバシー保護を理由に面会室内での録音・録画を原則禁止している。

隠し撮りという手法を選んだ理由について、トーマス監督は「収容されている人たちには、語る自由があります。撮影を許可されない中で、彼らの証言を記録するには隠し撮りをするしかありませんでした」と明かす。

人間扱いではない

目をそらしたくなるような、痛ましい“制圧”の場面もあった。

入管が提供した映像の中で、「助けて」と繰り返し叫ぶクルド人男性を複数の入管職員が床に押さえつけ、後ろ手に手錠をかける。

トルコを追われたこの男性は2007年に来日し、4年後に日本人の女性と結婚。難民申請を認められず、牛久入管に収容された。

長期収容で精神的に追い詰められ、自殺未遂をした。

男性は「殺されないようにと日本にきたのに、入管に収容され、精神的暴行に遭いました。入管収容中、精神科にかかり、睡眠薬・安定剤を常用するようになりました」「入管で暴力があることは、私が初めてじゃない」と、トーマス監督の取材に証言する。

「あの(入管提供の)映像を見ると、とにかく人間扱いではない。相手が人間だと思っていればとてもできる行為ではありません」

トーマス監督は、そう言い切る。

トーマス・アッシュ監督

中央アフリカで起きたクーデターに家族が巻き込まれたことを理由に2002年、日本に逃れたカメルーン出身の男性は、牛久入管で適切な医療を受けさせてもらえなかったと告発する。「実際に1年半、私は血を吐いていました。でも病院に連れてってくれません。血を吐いていて食べられないにも関わらずです」

映画に登場する9人の出演者たちからは、「僕らはゴキブリ同然」「体じゅう殴られた」などの訴えが上がる。

「『不法滞在者は犯罪者だ、偽装難民だ』という意識を政府から植え付けられることで、入管職員たちが相手を人として見ることができなくなっているんです」(トーマス監督)

一方で、トーマス監督は「日本の入管が特別に悪いとは思わない」と強調する。

「牛久入管の担当者が特別に悪いとされると、個人の責任として片付けられてしまいますがそれは違います。これは人間がやること。その立場に置かれたら、誰もが同じように『自分より下』の立場にいると考える相手を人間扱いしなくなる可能性があるんです。日本だから、入管職員だから、という問題ではありません」

非正規滞在者に「人権」はないのか

日本は、在留資格がない外国人を原則として収容する「全件収容主義」をとる。

退去強制処分を受けると、送還されるまで原則無期限で入管施設に収容される。第三者が収容の必要性を審査する仕組みもない。

こうした点に対し、国連の人権機関から繰り返し改善を求める勧告が出されてきた。

さらに、日本で難民として認められるハードルは極めて高い。

2020年に日本で難民申請をした人は3936人で、難民認定されたのは47人(約1.2%)。欧米各国に比べ、日本の難民認定率の低さは際立っている

難民として認められず、正規滞在者ではないならば、「人権を守らなくていい」のか。

トーマス監督は、「国に帰ることができるなら彼らは帰っています。帰れないからいるんです」と反論する。

「全ての人の人権が平等に守られるのではなく、自分と異なる立場に置かれた人の人権を守らなくていいとなったら、人権侵害がエスカレートして社会はどんどん崩れていきます。不法滞在者だから、肌が黒いから、非正規労働者だから、独身だから、女性だから人権を認めなくていいんだと。そしていつかは自分の番になります」

仮放免後、妻と再会し抱き合うクルド人男性

収容施設内での死亡事案や、入管職員から受けた暴力被害を告発する動きは後を絶たない。

2019年6月には、ハンガーストライキをしていた当時40代のナイジェリア人男性が、大村入管(長崎県)での収容中に死亡。入管側は死因を「飢餓死」と発表した。

スリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんは2021年3月、名古屋入管に収容中に死亡した。遺族が当時の局長ら幹部を殺人容疑で刑事告訴している

アメリカ国籍の男性が東京出入国在留管理局に収容中、職員から暴行を受けてけがをしたとして、国に賠償を求めて同年11月、東京地裁に提訴した

トーマス監督は「収容されている外国人たちに今起きていることを、映画を通して知ってもらい、日本の入管行政を変えるためにどう行動すればいいかを考えてほしい」と話している。

 ■ ■

映画『牛久』の予告編が2021年5月に公開された後、「隠し撮り映像を(一部の出演者の)同意なく公開した」という情報がネット上で広まった。

これに対し、トーマス監督は「事実ではない」と否定。声明文の中で、「全出演者それぞれと映像を共に観て、何度も何度も同意を確認しました」と主張した。

ハフポスト日本版の取材にも、9人の出演者全員から同意を得ていることを改めて明言した。

<トーマス・アッシュ監督>

1975年生まれ、アメリカ出身。自身初の長編ドキュメンタリー『the ballad of vicki and jake』(2006年)が、スイスのニヨン国際ドキュメンタリー映画祭(Visions du Réel)で新人監督賞を受賞した。

2000年より日本に拠点を移し、福島第1原発事故後の子どもたちを追った『A2-B-C』(2013年)などを制作。

映画『牛久』は、ドイツニッポンコネクション「ニッポン・ドックス賞(観客賞)」、韓国DMZ国際ドキュメンタリー映画祭アジア部門「アジアの視線(最優秀賞)」 、オランダカメラジャパン「観客賞」を受賞した。

(國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版)

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「ゴキブリ同然」入管の隠し撮り映画が問う、日本の“偽りの共生”

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