チョコレートの原料となっているカカオを栽培している農家では、長年、子どもたちが過酷な労働をさせられていることが国際問題になっている。
日本は世界有数のチョコレート消費国だ。だが、カカオの仕入れ先の8割を占めるガーナでは、77万人の子どもが学校に行かずにカカオ栽培をさせられているという。子どもたちが重たいカカオの実を頭の上に載せて運んでいるのだ。
なぜそんなことが起きているのか。簡単に言ってしまえば「格差と貧困」ということになるのだろう。
少なくないカカオ農家が家族経営で、子どもが働かなければ家族の生計がままならないという事情がある。「児童労働は悪だ、子どもは学校に行くべきだ」という先進国の常識が、キレイゴトでしかない現実も、この地球上にはたしかに存在するのだ。
原料であるカカオを栽培する農家と、チョコレートを加工・販売するブランド企業、そして宝石のようなチョコレートを手にできる私たち。
そこには、社会構造の大きな歪みがある。
子どもを学校に行かせたら報奨金。「誰も取り残さない」ネスレのプロジェクトとは?
ただ、こうした問題に正面から取り組もうとしている企業があることは明るい兆しだ。
1月末、スイスを拠点にグローバルに展開するネスレが発表した取り組みは、非常に画期的だった。
子どもを学校に行かせるなど、ネスレ社の奨励する次の4つの活動を行った農家に対し、カカオの生産量に関係なく報奨金を支払うというもの。
・世帯内の6〜16歳のすべての子どもの就学
・作物の生産性を高める剪定など、優れた農法の実施
・気候変動への耐性を高める*アグロフォレストリー活動の実施
・他の作物の栽培、鶏などの家畜の飼育、養蜂などを通じて、多様な収入を創出
*アグロフォレストリー:樹木を植栽するなど森を作りながら合間の土地で農作物の栽培や家畜の飼育を行う農林業)
最初の2年間で支払われる報奨金は、農家の平均年収の約4分の1にあたる500スイスフラン(約6万2500円)という。
コートジボワールの農家1万世帯からスタートし、成果が表れ始めたら金額を減らしながら2030年までにサプライチェーンにおけるすべてのカカオ農家に対象を広げる予定だ。
8年間で1600億円以上投資の本気
特筆すべきは、報奨金は、世帯主だけではなく配偶者の女性にも支払われるという点だ。
モバイル送金で個人に直接届けられる仕組みで、女性のエンパワーメントとジェンダー平等の向上を支援する。支払いも農家にとって支出が増大する雨季と新学期のシーズンに行われるという。
カカオのサステナビリティのために、ネスレが2030年までに行う投資の総額は、日本円にして約1625億円。現在の年間投資額の3倍以上にのぼる。
児童労働の根本的な原因に焦点を当て、小規模農家も含めて「誰一人取り残さない」という強い意志を感じる素晴らしい取り組みだと思う。
児童労働をなくすためのネスレのプロジェクトで作られた『キットカット』は2023年から発売される予定だ。
「値上がりするかもしれない」という報道もあるが、むしろ今までが安すぎたのではないだろうか?
商品がどのようにできているのかを知り、適正な価格とは何かを考える機会と捉えたい。
「ボイコット」より「バイコット」を
人権や環境に配慮したカカオを使おうという動きは他の企業でも始まっている。
チョコレートの裏側に児童労働の問題があると知れば、「もうチョコレートを買わない方がいいのでは…」と思う人もいるかもしれない。
だが、チョコレートを買わない、という選択は、極端に言えば地道に取り組む企業の努力を否定し、ただでさえ貧困に苦しむカカオ農家をさらに苦境に追いやることにもつながりかねない。
2月14日はバレンタインデー。大切な人や自分自身への贈り物にチョコレートを選ぶ人もいるだろう。
商品やブランドに対する期待や応援の気持ちを「買い物」というかたちで伝え、消費者の立場からこうした動きを後押しする方法もある。
「ボイコット」より「バイコット(Buy=買う)」をーー。
SDGsのゴール12番は「つくる責任つかう責任」だ。
貧困や児童労働をなくそうという企業努力の結果、商品の価格が少し高くなることもあるかもしれない。
むしろそれがチョコレートの “適正価格” なのだと納得し、少しでも地球や人にやさしいチョコレートを選びたい。
この記事は、2021年2月13日配信のニュースレターを一部編集して転載したものです。
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