女子テニス選手の彭帥(ほう・すい)さんが中国の前副首相から性的関係を迫られたなどと告発したあと、行方が懸念されていた問題で、彭さんとビデオ通話を実施し「安全かつ元気」などとしたIOC=国際オリンピック委員会への批判が強まっている。
告発の対象となった張高麗(ちょう・こうらい)氏は2022年2月に開催される北京冬季オリンピックの開催へ大きな役割を担ったとされ、IOC側は「中国政府との繋がりはない」と反論している。
中国の女子テニス選手・彭帥さんは現地SNS「ウェイボー」で、張氏と不倫関係にあった上、性的関係を迫られたなどと告発した。告発文はすぐにネットから削除され、彭さんの行方について懸念の声が上がっていた。
これに対し、中国の国営メディアや共産党系メディアはTwitterで、彭さん自筆のものだとするメールの文面を公開したり、会食時の動画をあげたりして反論してきた。
しかしWTA(女子テニス協会)は「自由で、強制や外部干渉のない言動ができているのかは、はっきりしていないままだ」などと疑念はいまだに払拭されていないとしている。
IOCは11月21日、トーマス・バッハ会長が彭さんとテレビ電話で話したと発表した。発表によると、30分間の通話で彭さんは「北京の家で安全かつ元気に暮らしている」と説明したという。写真には笑顔で画面に映る彭さんの姿もおさめられている。
このIOCの対応に批判が上がっている。
アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルは11月24日、バッハ会長と彭さんのビデオ通話によって「告発された元高官が冬季オリンピックの開催に向けて重要な役割を果たしていたことが、改めて注目されることになった」とする記事を掲載。「2022年のオリンピック招致など北京の最重要課題を担当していた」と指摘した。
また、人権団体「アムネスティ・インターナショナル」はロイター通信に対し、今回の電話会談は「危険水域に入る」ものだと批判。「人権侵害の可能性を白紙にしないよう、極めて慎重になるべきだ」としている。
「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は「中国のプロパガンダ(政治的宣伝)に加担するな」と主張した。声明では「中国当局との積極的な協力関係に発展した」とも綴っている。
中国国営・新華社が2016年6月12日に配信した記事は、副首相在任中だった張氏がバッハ会長と北京で会談したと伝えている。この中で張氏は北京オリンピックへの支持に対する感謝を伝え、バッハ氏は「北京大会が大きな成功となることを信じている」などと応じている。
IOC側はこうした疑惑に反論している。IOC古参委員のディック・パウンド氏はCNNのインタビューに対し、批判について「困惑している」と話し、中国政府との繋がりは存在しないと反論した。ビデオ通話の動画が未公開であることについては「プライベートな面があるからだろう」と答えた。
中国国内では、彭帥さんに関する一連の問題は報道されていない。SNS「ウェイボー」で彭さんの名前を調べても、出てくるのは数年前の投稿ばかりだ。
関連があるもので唯一残っている投稿とみられるのは、在中国フランス大使館の11月22日の投稿だ。「彭帥さん事件について」という書き出しとともに、フランス政府の対応を説明している。
投稿では「彭帥さんが置かれている状況について情報が不足していることを心配している。国際社会、スポーツ界も同じだ。我々は中国政府に対し、特に2016年に施行された反家庭暴力法に基づき、女性への暴力を取り締まるための約束を果たすよう求める」などと綴っている。
投稿には1万4000を超える「いいね」がつけられている。コメントは3000以上寄せられているが「自分たちのことを心配したらどうだ」などと批判的なものが多く見受けられる。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
中国女子テニス選手・彭帥さん問題で「助け舟」のIOCバッハ会長。告発の前副首相は北京五輪へ重要な役割