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「梅切らぬバカ」自閉症の息子演じた塚地武雅さんと和島監督に聞く。社会はゆるやかにつながれるのか

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『梅切らぬバカ』

映画『梅切らぬバカ』が公開された。

“都会の古民家で寄り添って暮らす母と息子。ささやかな毎日を送っていたが、息子が50回目の誕生日を迎えた時に母はふと気づく。「このまま共倒れになっちゃうのかね?」”(映画公式サイトより)

塚地武雅さん(ドランクドラゴン)が演じる“忠さん”こと忠男には、発達障害の一種・自閉症がある。加賀まりこさんが演じる母で占い師の珠子とともに2人で暮らすが、「共倒れ」にならないよう、珠子と忠さんは動き出す。

忠さんをグループホーム(※)に入居させようにも、地域との軋轢が生じてうまくいかない。隣家に越してきた家族は、いぶかしい視線で忠さんを見る。ただ馬が好きなだけなのに、近所の乗馬クラブとトラブルを起こしてしまう。そんなままならない日常を、忠さんと珠子はどう乗り越えていくのだろうか。

撮影にあたって実際にグループホームを訪れて役作りをしたことや、当事者・演者のさまざまな意見を取り入れながら製作したプロセスなどについて、監督の和島香太郎さんと、忠さんを演じた塚地武雅さんに話を聞いた。

※グループホーム…障害福祉サービスの1つで、障害のある人が共同生活を行う小規模の住居のこと。

左から、塚地武雅さん(ドランクドラゴン)と監督の和島香太郎さん

はみ出している梅の木のように

忠さんと珠子が暮らす古民家の庭には、梅の木がある。木の枝は、前の私道に大きくはみ出ている。梅の木がはみ出た私道を通らなければ入れない隣家の戸建て住宅に3人家族が引っ越してきたが、枝が邪魔になる。

枝が私道にはみ出る、忠さんが街にはみ出る、隣家の子ども・草太(斎藤汰鷹さん)が忠さんの家にはみ出る━━。そんな風に「越境」していく社会の関係性のなかに、自閉症のある忠さんが暮らしている。

塚地さんと和島監督は、ともにグループホームを訪れ、忠さんのイメージを湧かせていった。

「お二人の当事者がいるグループホームで、リビングの真向かいに座って、職員の方にお話を聞きながら、暮らしの様子を見せていただきました。そして、お二人と少しお話もしましたね。

二者二様というか、全く違うタイプの方が同じ屋根の下に住んでいて、お二人の纏う空気が、そこはかとなく優しい感じがしたんですよ。性格や、自閉症の方特有のこだわりも伺い、“忠さん像”が見えてきました。お二人の発言や仕草は独特ではあったんですけど、優しい空気も忠さんにもあっていいんだなと思いましたね」(塚地さん)

本作で何より強く心に残るのが、塚地さんをはじめとする役者陣の演技だ。“忠さん”は、毎朝正確に「6時45分です。6時45分です」と言って起床し、歯を磨き、「7時10分です」と決まった時間に朝食を食べ始める。そんな忠さんの自然な魅力は、ぜひ本作を観て体感してほしい。

 

「ただ普通に過ごしたいだけなんです」

和島監督自身はてんかんの当事者でもあり、ネットラジオ番組『てんかんを聴く「ぽつラジオ」』では当事者へのインタビューなどを通して情報発信にも取り組む。

和島香太郎監督

マイノリティ性に拠って立ち、映画を作る和島監督は、本作では髭剃りや散髪といったモチーフで、当事者の抱える感覚過敏などの特性をつぶさに描いた。マイノリティが直面する困難さへのまなざしも光る。

「障害のある方が暮らすからと言って、近隣の住民のみなさんに丁寧に説明をする必要があるのか、という考え方がありますよね。そうでない方がその街に引っ越してきたときは、挨拶する必要もなく、そこでさりげなく住むことができますから。

他方で、対立を避けるために丁寧な説明が必要という考え方もあります。取材では、グループホームを建設するとき、近隣住民の方にどういった説明会を開いたかを聞きました。印象的だったのは、『実際に中を見ていただいた方が安心できるんじゃないか』という言葉です。

そのなかで、『うちの隣じゃなかったらいいんだけどね』とも言われたそうです。そうした態度に葛藤を抱きながらも、グループホームを運営する方々が、利用者の方に居心地のいい空間を作ろうとしている思いは伝わってきました。結果的にどちらが利用者にとって居心地のいい日常を作っていけるかが大事だと思います」(和島監督)

“NIMBY”と呼ばれる問題がある。“Not In My Back Yard(うちの裏庭ではないところに)”の頭文字で、施設の必要性には賛成する一方、施設が身近な場所に設けられることには反対することを指す。日本では、保育園や児童相談所の建設が反対運動に遭うことも珍しくない。

『梅切らぬバカ』

作中で、グループホーム運営の反対運動をする近隣住民が、メガホンで印象的な言葉を投げる。

「私たちは、決して、批判を、非難をしているわけではありません。ただ普通に過ごしたいだけなんです。安心して暮らしたいだけなんです」

近隣住民だけでなく、障害のある人も含めたあらゆる人の普遍的な願いではないだろうか。障害のある人が社会参加するとき、さまざまな軋轢が生じやすいのは、他者からの偏見に基づいていることも多いだろう。

一方で作中の忠さんは普段、包装箱を組み立てる仕事をしているが、職場という社会の上司からは、特性や努力を理解され、「最近、一生懸命働いてくれています」と評価を受けている。

「ただ普通に過ごしたい」というそれぞれの願いが交錯するとき、あいだに偏見や誤解があるのだとしたら、取り除けたほうがいい。

 

加賀まりこさんとの対話で加えた、ある言葉

忠さんの母・珠子を演じる加賀まりこさんと、和島監督は脚本について対話し、撮影を進めていった。

『梅切らぬバカ』

「最初に脚本をお渡ししたときに、『とても大切なテーマだよね』と。お話を伺うと、加賀さんの身近にも障害のあるお子さんを持つ親御さんがいて、僕よりも詳しいほどでした。脚本をやり取りしていくなかで、加賀さんは『忠さんにこんなことは言わない』『忠さんにこういうことを言いたい』とおっしゃっていたので、意見を聞きながら脚本を書き直していきました。

僕は、役のことを一番わかっているのは役者さんだと思っています。だから、役者さんがやりたくないことはなるべく避けて、逆に役者さんが『こう動くんじゃないか』と提案することを大切にしたい。

加賀さんの意見で一番印象に残っているのは、『忠さんに対して“ありがとう”という感謝の言葉がこのシナリオにはないよね』と言われたことです」(和島監督)

本作では、障害のある人々が周囲から疎まれるシーンも多い。反対に、感謝される場面はあるべきなのだろうか。和島監督は、加賀さんとの対話と、ある親御さんとの出会いを通して、考えを変えていった。

「『珠子さん、そういうこと言うかな』『言わないんじゃないですかね?』とやりとりをしていたんですが、撮影に入るちょうど前日に、自閉症のあるお子さんをお一人で育ててきた高齢の親御さんにお会いすることができ、脚本を読んでもらいました。物静かな方でしたが、『この脚本には(忠さんに対して)ありがとうという言葉がない』と、加賀さんと同じことをおっしゃったんです。

それを聞いて、珠子さんが忠さんに『ありがとう』と伝えるシーンを加えました。加賀さんに伝えたら、『私が言ったときには納得しなかったのに』とおっしゃってましたけど(笑)。とても印象に残っていることですね」(和島監督)

登場人物が自然な動きを見せるのは、本作の印象的なポイントだ。塚地さんもこう振り返る。

塚地武雅さん

「撮影では、最初から最後まで忠さんという存在になって過ごした感じでした。自分なりの“忠さん像”ができるまではいろいろ悩みましたが、できてからはもう、ただただその場にいるみたいな感じでやらせてもらっていましたね」(塚地さん) 

本作には、忠さんと、隣家に越してきた少年・草太が心を通わせるシーンがある。草太が忠さんのお気に入りの馬のぬいぐるみを触ってきたときに、普段は自分の領域を大切にする忠さんの“嫌ではない”感じが見て取れる。

「子どもって、うがった見方をしないじゃないですか。友達になりたいときはピュアに話しかけたり。大人と違って、興味や共通点みたいなことに基づいて、すぐに距離を縮めていきますよね。

役を離れた普段の状態の僕と汰鷹くんも似た関係だったんですよ。彼が近づいてきては、僕がネタ番組用に考えてたギャグみたいなのを一緒に考えようとか言って、アイデア出してくるし(笑)。それが作中の忠さんと草太の関係にそっくりで、彼に忠さんを作ってもらった部分もあるような気がします。以前に別のドラマで一緒になったこともあって、気心も知れていて。あの役の通りの純粋さと優しさを持ってる子で、この作品のキーパーソンですね」(塚地さん)

『梅切らぬバカ』

特性を知り、ゆるやかにつながっていく社会へ

タイトルの『梅切らぬバカ』は、ことわざの「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」に由来している。「樹木の剪定には、それぞれの木の特性に従って対処する必要があるという戒め」(公式サイト)を意味している。

「病や障害を開示することによって、関係が歪んでしまったり断ち切られてしまったりすると思い込んでしまうこともあるし、実際にそういう現実もあると思います。でも、このようにゆるやかにつながっていくこともあると思うんです」(和島監督)

さまざまに越境していく忠さんや周りの人々から、映画を観る人々はきっと、ゆるやかな共生のあり方を発見できるだろう。塚地さんも、『梅切らぬバカ』が身近な作品になっていくことを望む。

「自閉症のある方や、自閉症の子を持つ親御さん、近隣に住んでいる方も含め、『わかる!』『そうだよね』と、なんかちょっと肩の荷が降りるというか、ちょっと同じ境遇の人同士で話したような感覚になれば嬉しいです。

そうじゃない方々には、彼らのことが伝わって、見方が少しでも変わればいいと思います。多くの方に観ていただいて、何か感じ取ってもらえたら嬉しいですね」(塚地さん)

(取材・文:遠藤光太 編集:毛谷村真木/ハフポスト日本版)

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「梅切らぬバカ」自閉症の息子演じた塚地武雅さんと和島監督に聞く。社会はゆるやかにつながれるのか

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