「あなたたちが話しているのは、お金のことと、経済発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり。恥ずかしくないんでしょうか!」
2019年9月に開かれた国連気候行動サミット。グレタ・トゥーンベリさんは気候危機対策より経済対策を優先する各国のリーダーたちを、強い言葉で批判した。
トゥーンベリさんが、温暖化対策を訴えるストライキを始めたのは、このわずか1年前だ。
15歳の学生がたった一人で始めた運動は瞬く間に世界中に広がり、温暖化対策を求めるデモが各地で開かれた。
しかし1年間、すべてが順調だったわけではない。政治家やリーダーたちはトゥーンベリさんを持ち上げる一方で、本気で気候危機対策に取り組もうとしなかった。そのことへの苛立ちを爆発させた瞬間が、国連での怒りのスピーチだった。
トゥーンベリさんはなぜ、葛藤を抱えながらも運動を続け、世界の人たちを巻き込むムーブメントを起こせたのか。
ひとりぼっちのストライキから国連気候行動サミットまで、トゥーンベリさんの1年追った映画『グレタ ひとりぼっちの挑戦』のネイサン・グロスマン監督に聞いた。
――トゥーンベリさんの撮影を始めたきっかけを教えてください。
グレタが本当はどんな人なのだろう、ということに興味を持ったのがきっかけです。
ストライキを初めてから、グレタはスウェーデンで一躍有名になりました。
しかし、メディアで取り上げられているのはグレタの一面だけでした。そこで彼女の目には一体どんな世界がうつっているかを知りたいと思い、撮影をはじめたんです。
実際の彼女は、話すのがとても上手な人で、気候変動を誰にでもわかるようまとめていました。
ただ、撮影を始めた時には、彼女がスウェーデン国外でもこれほど有名になるとは全く思っていませんでした。
――なぜ、トゥーンベリさんは世界中の人たちを動かしたのでしょうか。
「タイミング」と彼女の「才能」が、完璧に交わったからだと思います。
2018年は、ヨーロッパが記録的な猛暑に襲われて、多くの人が「気候変動は実際に起きている」と実感した年でした。
また、温暖化が何十年も話題になっていたにも関わらず、何も対策が取られていないことに人々が不満を感じていた時期でもありました。
そういったタイミングで、グレタは気候変動の根本にある問題を的確で短い言葉で伝え、問題の深刻さを多くの人たちが理解できるようわかりやすく説明しました。
気候変動はずっと問題視されてきたにも関わらず、危機感が言葉でうまく伝えられていなかった。その危機感を、グレタはしっかりと言葉にしたのです。
例えば、グレタが説明したことの一つが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書に書かれている「カーボンバジェット」です。彼女はこの問題に着目し、「私たちに残されているカーボンバジェットは、もうこれだけしかない」と伝えました。
こういった数字はもともとあったものですが、それでも年間予算のように「これだけしか残っていない」と言われると、ようやく危機感を実感できるようになるものです。
また、話し方も人々を動かしました。
彼女は硬い顔で淡々と事実を伝えるのではなく、感情や信念を込めて話します。
さらに、政治家たちにも手厳しい。科学者たちは何年も、温暖化の進行を数字で示し、危機的な状況だと警鐘を鳴らし続けてきましたが、彼らはとても礼儀正しい。
一方、グレタは遠慮せずにはっきりと政治家たちを批判したので、より人々に危機感が伝わったのではないでしょうか。
そういった彼女の着眼点や伝え方とタイミングが交差し、これだけのムーブメントが起きたのだと思います。また、それができたのは、彼女が気候変動をしっかりと勉強していたからこそでしょう。
彼女を批判する人たちもいましたが、グレタの話は科学的根拠に基づいていたので、批判する人たちはファクトではなく人格を攻撃するしかなかった。そのことも、彼女を後押ししたのではないかと思います。
――元アメリカ大統領のトランプ氏をはじめとする政治家や著名人らがトゥーンベリさんを批判し、SNSには誹謗中傷も投稿されました。メンタルヘルスへの悪影響はなかったのでしょうか?
彼女も人間ですから、他の人たちと同じように調子が悪い日もあります。アクティビズムは楽しくやりがいもあるけれども、大変で難しい部分もある。
映画の中では、彼女の気分の浮き沈みも捉えています。
バッシングに関して言えば、非難や誹謗中傷に囚われないようにしていると感じました。SNSなどのコメントもあまり目にせず、関わらないようにしていたと思います。
それはおそらく「叩く人は根拠がなければ人柄を叩くしかない」ということに早い段階で気付き、誹謗中傷は取るに足らないものだと考えたからでしょう。
とはいえ、誹謗中傷は倫理に反した行為で、決して軽んじてはいけない問題です。
スウェーデンでも誹謗中傷に対して、罰則が科せられるようになっています。当然のことながら、グレタが気にしていないからといって、決してやっていいわけではありません。
――1年間密着する中で、グレタさんがカメラを意識しないで済むよう、カメラワークに気をつかっているように見えましたが、撮影で意識されたことはありますか?
ドキュメンタリーの贅沢な部分は、長い時間をかけて撮影できることです。
1週間や1カ月後に締め切りが迫っているわけではないので、長時間と被写体と時間を過ごせます。そのためお互いのことをよく知り、信頼関係を築くことができました。
あと、撮影時間の95%は私自身が撮影をして、少人数で彼女が安心できるような環境を作りました。
彼女の目にはどんな世界がうつっているかを知りたいと思って撮影を始めたと言いましたが、映画を撮ってみて伝えたいのは、彼女の多様性です。
グレタに限らず、政治家や活動家、インスタグラマーなどどんな人でも、私たちに見える部分の他にも色々な面を持っています。
ですから、「この人はこうだ」「見た目がこうだから」と決めつけるのではなく「人間には色々な面がある」ということを理解する大切さを知ってもらえれば嬉しいです。
――日本では、間もなく政権を決める選挙がありますが、環境は主要な争点になるのが難しい状況です。トゥーンベリさんは、世界がなかなか変わらない状況を目の当たりにして、どのように活動のモチベーションを保っていたと思いますか?
グレタは「自分の活動で地球を変えることはできないかもしれないけれど、やり続けることで将来自分を誇りに思うことができる、そして後悔しないことが何より大事なんだ」という意識で、アクティビズムを続けていたんだと思います。
それぞれの国の政治については、私には言えることはたくさんありませんが、気候変動は世界中のどこにいようと、どんな場所に住んでいようと、私たちすべてに影響を及ぼします。
自分の子どもや続く世代に影響を与える、非常に大事な問題だと思います。
・映画『グレタひとりぼっちの挑戦』は、10月22日より新宿ピカデリーほか全国順次公開中。
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グレタ・トゥーンベリさんはなぜ世界を動かしたのか。1年追った監督が見た才能と葛藤