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「男の世界」だった90年代の音楽雑誌。「冷笑主義」を抜け出したフェミニスト作家が10代少女に伝えたいこと

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映画『ビルド・ア・ガール』。主演は『レディ・バード』『ブックスマート』などで知られるビーニー・フェルドスタイン

1990年代、イギリス郊外の労働者階級の家で育った16歳の女の子が、ライターとして音楽雑誌でデビューした時、そこは「男の世界」だったという。

「当時の私は、年上の男性編集者がイケていて知識があって、彼らが良いといえば良い、悪いといえば悪い、彼らが真実を伝えているんだと思っていました」

世界的ベストセラーとなっているフェミニズム・エッセイ『女になる方法』などで知られる作家のキャトリン・モラン。多くのメディアで、音楽やセレブリティに関する人気連載を担当し、そのユーモアあふれる筆致で数々のジャーナリスト/コラムニスト賞を獲得してきた。

そんなモランのキャリアの始まりである音楽ライター時代をもとにした半自伝的小説『How to Build a Girl』が、『ビルド・ア・ガール』として映画化。10月22日から全国で公開される。

90年代の音楽ジャーナリズムの裏側や、そこで体験してきた性差別、そしてSNS時代を生きる10代の女の子に伝えたいこととは。映画では脚本も担当したモランに話を聞いた。

イギリスからオンラインで取材に答えたキャトリン・モラン

「男の世界」だった90年代の音楽雑誌

モランが働いていたのは、イギリスの人気音楽雑誌「メロディ・メーカー」。1990年代は、ロンドンやマンチェスターを中心にブリットポップ・ムーブメントが起き、オアシスやブラーなどのロックバンドが一時代を築いた。

映画の舞台は1993年。ブリットポップ・ブームの前夜として、ハッピー・マンデーズやマニック・ストリート・プリーチャーズなど実在のバンド名がいくつも出てくる。当時はインターネットの普及前で、テレビや雑誌などのマスメディアが大きな影響力を持ち、この音楽ムーブメントの盛り上がりをイギリス中に広げていった。

「当時のメロディ・メーカーの編集部の人たちはポップ嫌いで、10代の女の子がはまるような音楽はゴミだと言っているような雑誌だった。私もそういうものだと思って、当時は自分が好きだったものを自分から隠して、否定していました」

モランは、「その頃はまだセクシズムもフェミニズムもよく理解していなかった」と振り返る。その状況を普通のことだと受け入れ、編集部が「男の世界」だったことに気づいたのは、年を重ねていろんな女性と話すようになってからだった。

「セクシズムは日常の中にすごく巧妙に隠されている。だから『あれって差別だったんだ』と気づくのに時間がかかることはよくあることだと思う」

物語の舞台となる音楽雑誌「D&ME」の編集部。スウェードやマニック・ストリート・プリーチャーズ、ニルヴァーナなど、当時人気だった実在のバンドのポスターやCDジャケットなどが見られる

男性上司の「膝に座る」よう言われ、勇敢な16歳を演じた

ビーニー・フェルドスタイン演じる主人公ジョアンナには、そういったモラン自身の経験が投影されている。郊外の労働者階級出身、7人家族で公団住宅に住む16歳のジョアンナは、音楽雑誌「D&ME」のライターになる。編集部は、ジョアンナ以外は全員男性だ。

印象的なのは、ジョアンナが目玉の特集記事を書きたいと頼むシーンだ。決定権を持つ男性編集者は、積極的なジョアンナに「俺の仕事は若い女性の挑戦を促すことでもある」と言いながら、書きたいなら「ここで話をしよう」と言って膝の上に座るよう促す。

ジョアンナは戸惑う表情を見せるが、意を決すると、膝の上に座って上下に勢いよく飛び跳ね、男性にダメージを与えるよう対抗する。これはモラン自身も実際に体験したことだという。

セクシズムもフェミニズムもわからず、私はその時ただ16歳の自分にできることで、その状況に対抗しようとしました。私は身体が大きくて男兄弟がいたから、何か好ましくないことをされた時は 普段から身体で対抗していた。それ以降、二度と膝に乗れなんて言われなくなった。

ただ、その時私自身が、セクシズムに立ち向かう方法や勇気を持っていたわけではなくて、どうにか勇敢な16歳を演じていただけ。『Fake it till you become it』という言葉通り、本物になるまでフェイクでも推し進めてきたんです。

性差別を受けた時、とっさに戦ったり言い返したりすることが難しく、怖い時もある。そこで役に立つのが、フェミニズムなんだと思う。女の子たち、大人の女性たち、フェミニズムにシンパシーを感じる男性たちと一緒にどうやって声をあげ、現実を変えていけるのか。集団の力で変えていくことができるはず

ジョアンナは、『高慢と偏見』のジェイン・オースティンや、男性名のペンネームで執筆していたことでも知られるブロンテ姉妹など、19世紀のイギリス文学を好む

なぜ女性が好きなものは「劣っている」とみなされるのか?

モランがもう一つ、性差別的だと感じていたのは、10代の女の子は「音楽を正しく評価できず」、彼女たちが好きなものは「劣っている」とみなされることだった。

90年代から今に至るまで、数多くのアーティストに取材をしてきた。インタビューしたバンドの中には、ファンの多くが10代の女の子であることに悩んでいる男性も多くいたという。男性からの支持がなければ「本物のアーティスト」ではないーー男性アーティストたちのそんな考えに、違和感を抱いてきた。

本当は、10代の女の子ほど音楽の好みが優れている人たちはいないと思ってる。イケてるバンドを見つけるのも、無償の愛を捧げるのも彼女たち。ビートルズだって、10代の女の子に愛されたからこそ頂点に立って、どんなことにも挑戦できるエネルギーや信頼、愛を得ることができたんじゃないかな。にもかかわらず、女性、特に若い女の子が好きなものは劣っている、価値がないとみなされることは、うんざりするほど本当によくある

ジョアンナが魅了されるロックスターのジョン。演じるのは『ゲーム・オブ・スローンズ』で脚光を浴びたアルフィー・アレン

モランが本作で一番気に入っているのは、ジョアンナがロックスターについて情熱的な原稿を書いた時に、男性ライターから、「君の原稿は10代の女の子みたいに興奮している」と批判されるシーンだ。それに対し、ジョアンナは「だって私は興奮しやすい10代の女の子だから」と反論する。

「ジョアンナのこの宣言は、10代の女の子のファンたちを貶める愚かな人たちへの宣戦布告だと思った。このシーンに共感してくれる女性は多いんじゃないかな。

10代の女の子たちだけでつくる音楽雑誌があるべきだったと思う。この20年余りで起きた変化の一つは、今はSNSのおかげで音楽への愛を自分たちで発信できること。私の頃は、男の子のふりをして発信するしかできなかったから

 

「SNSで『冷笑主義』に陥らないで」

1993年はインターネットが一般に普及する前の時代。本作にはSNSは登場しないが、モランは「SNSについての映画でもある」と考えている。

「10代の女の子のような原稿」「ファンか記者か決めろ」と言われたことをきっかけに、ジョアンナは「辛口ライター」に転身。その辛口具合はどんどんエスカレートし、作品に対する真っ当な批判ではなく、「このバンドはゴミ」と書いたり、編集部に送られてきた音源をぞんざいに扱ったり、人の夢を嘲笑ったりするようになる。ジョアンナは有名にはなるが、自分を見失っていく。

ジョアンナは「ドリー・ワイルド」の名前で人気ライターに

私は当時、影響力あるメディアで発信できる、世界で数少ない16歳の女の子だった。そこでジョアンナと同じようにひどいことを発信していた。

今、特に若い子で、SNSで私と同じような経験をしている人たちは多いのでは。最初は熱意や愛にあふれる発信をしていても、誰かにイケてないとかダサいとか、太ってるとか愚かだとか言われて、どんどんダークでシニカルになっていく。

若い時にシニカルな冷笑主義になってしまうのは大きな問題だと思う。そういう態度を身に付けることは、若い人にとっては、大人や他者からの攻撃から自分を守り、武装することでもある。でも、冷笑主義のままでい続けては自分自身を制限してしまうんじゃないかな。成長しようとしても、踊ろうとしても、体が動かなくなってしまうから。自分自身のためにも、いつかは冷笑主義の殻を破って、自分が愛するものを愛せるようになる勇気を持ってほしい

ジョアンナは郊外の労働者階級出身、7人家族で公団住宅に住む

エド・シーランへのツイートを反省し、レディー・ガガと友達になる

モラン自身もSNSで発信し、今でも悔やんでいることがあるという。イギリス出身の世界的シンガーソングライター、エド・シーランがまだデビュー間もなかった頃に、ライブ中継をテレビで見ていた時のことだった。

私はツイッターで、『もし自分の子どもたちが彼を好きになったら、私は袋に入れて運河に捨ててしまう』とコメントしたんです。そしたらそのあとエド本人から「それは残念。僕はあなたの大ファンなのに!」と連絡があって、娘たちからも怒られた。

その後、エドは本当に素晴らしいアルバムを発表してくれて、私はそのツイートを後悔してエド本人にも謝った。SNSをゲームのようにとらえて、短期的なスリルに喜びを見つけていたのかも

SNSでシニカルなことを発信したのはそれが最後で、それ以降は「人に対してよくあろうと思って、今は愛するもの、愛する気持ちを発信するようになった」という。

モランは最後に、エド・シーランの時の失敗から学んだことについて、その後のレディー・ガガとのエピソードを例にあげながら、笑って教えてくれた。

ずっとレディー・ガガが好きだと言っていたら、ツアーに招かれて一緒にクラブに遊びに行って、2人で話し込んですごく仲良くなれた。人に対してよくあろうとすれば、レディー・ガガとだって友達になれるんだから(笑)。

つまり、未来が開けるということ。自分がシニカルになって、良くないことばかり発信するのは、自分の可能性を閉ざしてしまう行為。そこから抜け出すことができたら、未来の選択肢はとても広がるんじゃないかな

左からアルフィー・アレン、ビーニー・フェルドスタイン、キャトリン・モラン。カナダのトロント国際映画祭にて(2019年9月6日撮影)

(取材・文 =若田悠希 @yukiwkt

 

作品情報

映画『ビルド・ア・ガール』

10月22日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

原作:キャトリン・モラン著「How to Build a Girl」

脚本:キャトリン・モラン

監督:コーキー・ギェドロイツ

出演:ビーニー・フェルドスタイン、パディ・コンシダイン、サラ・ソルマーニ、アルフィー・アレン、フランク・ディレイン、クリス・オダウド、エマ・トンプソン

配給:ポニーキャニオン、フラッグ

公式サイト:https://buildagirl.jp/

 

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Source: ハフィントンポスト
「男の世界」だった90年代の音楽雑誌。「冷笑主義」を抜け出したフェミニスト作家が10代少女に伝えたいこと

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