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成績・所得不問。メルカリ山田氏創設の奨学金が伝えたいこと「理系を選ばないのはもったいない」

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メルカリ創業者の山田進太郎氏が、STEM(自然科学・理工・医学系)進学予定の女子中学生に給付型奨学金の創設に私財を投入することが大きな話題になった。

所得制限や成績での制限もなし。「応募者へのハードルを極力下げる」目的で抽選制を導入した異例の奨学金だという。

画期的な制度はどのように設計されたのだろう。財団運営のキーパーソン2名に尋ねてみると、独自の設計思想と、“理系に進んで損なし”という実感のこもったエールが飛び出した。 

<img src=”https://img.huffingtonpost.com/asset/613722d23b00002ed5ee911a.png?ops=scalefit_630_noupscale” alt=”【左】富島寛(とみしま ひろし)さん/ 山田進太郎D&I財団評議員。IT業界でプログラミングと起業の経験を積み、大学の先輩である山田氏とメルカリを共同創業。現在はスタートアップ企業へのエンジェル投資などをしつつ、同財団の企画・運営に参画する。
【右】田中多恵(たなか たえ)さん/ 山田進太郎D&I財団事務局長。実践型インターンシップ・起業支援プログラムを手がけるNPO法人ETIC.より出向し、同財団の事務局を担う。” data-caption=”【左】富島寛(とみしま ひろし)さん/ 山田進太郎D&I財団評議員。IT業界でプログラミングと起業の経験を積み、大学の先輩である山田氏とメルカリを共同創業。現在はスタートアップ企業へのエンジェル投資などをしつつ、同財団の企画・運営に参画する。
【右】田中多恵(たなか たえ)さん/ 山田進太郎D&I財団事務局長。実践型インターンシップ・起業支援プログラムを手がけるNPO法人ETIC.より出向し、同財団の事務局を担う。” data-rich-caption=”【左】富島寛(とみしま ひろし)さん/ 山田進太郎D&I財団評議員。IT業界でプログラミングと起業の経験を積み、大学の先輩である山田氏とメルカリを共同創業。現在はスタートアップ企業へのエンジェル投資などをしつつ、同財団の企画・運営に参画する。
【右】田中多恵(たなか たえ)さん/ 山田進太郎D&I財団事務局長。実践型インターンシップ・起業支援プログラムを手がけるNPO法人ETIC.より出向し、同財団の事務局を担う。” data-credit=”ハフポスト日本版” data-credit-link-back=”” />

◆奨学金の概略

財団指定の理系高校・高等専門学校へ進学を希望する女子中学3年生が応募可能な、給与型奨学金。高校・高専進学後、在学中1年につき公立校25万円・私立校50万円を給付する。応募はオンライン、所得制限なし、面接なしの抽選のみで受給者を決定し、本年度は100名を採用予定。応募締め切りは2021年9月30日。応募はこちらから⇒https://www.shinfdn.org/scholarship2022

女性の理系人材が増えてほしい理由

 ーー今回の奨学金は異例づくしで、2035年度のSTEM分野大学進学者のうち、女性比率を28%にするという大胆な数値目標を明確に示したこともその1つです。2021年度実績では18%なのでかなり高い目標ですが、どのように設定されたのですか?

富島さん(以下「富島」):

今回奨学金制度をつくるにあたり、日本は本当に他国と比べて女性比率が低いのか、なぜ低いのかを考えるため、さまざまな統計データを見ました。なかでも各国の条件が揃って比較され、分かりやすく綺麗にまとまっているのがOECDの『図表で見る教育 Education at a Glance』でした。これを見ると日本はやはり、他国ともOECD平均とも、かなりの差が開いていた。まずこのOECD平均レベルまで持っていきたいと算出したのが、財団の掲げた数字です。

この目標はかなりチャレンジングで、当奨学金の支給人数だけでは正直足りません。それでも数字を掲げたのは、現状を広く認識してもらうためという意味があります。平均とはこんなにも差があり、このギャップを埋めていくには、政府や他団体も一緒に取り組んでいく必要がある。そのメッセージを含めて、数字を発信しています。

8月4日に開催された、山田進太郎D&I財団のオンライン記者発表の投影資料より

ーーそれだけ女性比率が少ないのにはやはり、「女性は理系を学んでも、社会や職場に歓迎されない」という風潮が大きく影響しているとも思います。富島さんご自身は山田進太郎さんとともにメルカリを創業した経験を持つIT分野の先達として、働く場での女性の理系人材についてどう考えてらっしゃいますか?

富島:

IT分野に女性が少ないことを、僕はとてももったいないと思っています。働き方は比較的柔軟で、リモートワークはコロナ禍前から定着していました。出産や育児があっても、IT分野はキャリアが継続しやすいんです。給与に関しても、20年前のIT分野は低かったのですが、徐々に上がってきて、今ではかなりよくなっています。

それに例えばメルカリでいえば、ユーザーの半分は女性。ユーザーの要望に応えていくためにも本来は作り手の側も女性が半数になるのが、ナチュラルな形です。が、実際はまだ、作り手側には女性が少ない。

これは別の見方をすると、現状では(女性のニーズを理解してサービス開発・改善を提案できる)女性の働き手の与えられる価値が大きい、ということでもあります。

今のIT業界は女性にとって、働く上でのデメリットは少なく、メリットしかない。理系を選ばないのはもったいない。僕はそう、自信を持って言えます。是非女性の働き手が増えてほしい。保護者の方々にも、娘さんが理系に、IT業界に進むことを、どうか安心して応援してほしいです。

山田進太郎D&I財団は、「好きなことをやろう。」と呼びかける

社会課題解決でも、理系の学びが力になる

ーー医大受験における女性差別などもありましたし、「理系女性人材は歓迎されていない」との前提でお伺いしていましたが、変わってきているところもあるのですね。

田中さん(以下「田中」):

日本の組織では従来、理系人材は「感謝されても出世しない、地味な役割」というイメージがあります。ご自身が理系出身で、中3のお子さんをもつ保護者とお話しした際も、そのイメージが出てきました。ですがそれは、変わってきています。

私の専門である社会課題解決やNPO界隈でも、STEM分野を学んだ女性人材への期待がとても大きいです。

日本の非営利セクターはどの団体も、寄付や人を集める面では成熟してきています。今後は、国やその他のセクターを巻き込む総がかりの体制を作るために、データサイエンスに強い人材や、技術的な知識を支えにした人材が、求められているんです。

Z世代と話をしていても、社会課題解決や国際協力に携わる職を希望する方が多い印象を受けますが、社会学や国際関係論などの文系人材は志望者が多く、狭き門になってしまいがち。科学的な専門知識を持つ理系の人材は、インフラ整備や最新テクノロジーの活用のために、今後活躍する場面が増える可能性が大いにあると思います。

取材に応じた田中多恵さん

ーー理系に進学した先の職業が想像できないという学生さん、保護者の方も多いかと思います。

富島:

何かを作るのが好きな人にとっては、理系は楽しい未来ばかりだと思いますよ。

実は僕自身は、文系学部の大学を卒業しています。いろんな意味で「作る」のが好きで、大学の時はエンタメや小説、音楽を作ろうと、それを志す人の多い学部を選びました。その後Webの世界に行ってからもサービスを企画するだけではなく、自分で実際に作ることもしたくて、プログラミングを学んだんです。

ですが、大学でもっとコンピューターを学んでおけばよかった、という後悔はありました。もちろん大学で学ばずにエンジニアとして活躍してる方も大勢いますが、自分の場合は体系的に学べてないことが弱点だと感じていました。「エンジニアの壁」を感じていましたね。

研究分野はいろいろありますが、ものづくりは理系の大きなテーマです。IT分野ならマインクラフトのようなゲーム作りが分かりやすいでしょうし、工学ではロボット製作も、ものづくりです。宇宙分野ならイーロン・マスクが火星に行くロケットを作っていますよね。

理系は楽しいところが多いので、ちょっとおもしろそうだなと思ったら、この奨学金をきっかけにして、進路として興味を持ってもらいたいです。

「スペースX」社のイーロン・マスク氏(2021年4月23日撮影)

理系目指す中学生に対象をしぼった理由は…

ーーその奨学金の具体的な制度設計についてお伺いします。オンライン公募、抽選制、募集対象は高校進学予定の現役女子中学3年生と、他に類を見ない特徴ばかりです。なぜそのような独特の形に、奨学金を設計されたのでしょう。

田中:

まず、募集対象を中学生女子にした経緯からお話しします。

財団代表の山田進太郎が経営しているメルカリ社では、ダイバーシティ(多様性)経営を目指し、多様な人材の採用に取り組んできたそうですが、エンジニア職ではなかなか女性を採用できない悩ましい状況があったそうです。なぜそうなっているのだろう?と考えるにあたり、エンジニア候補生であるSTEM分野の女子大学生がどれだけいるのかを改めて見たところ、とても少ない。では高校では、中学では……と遡ると、高校の段階で、男女の性別によって理数系の生徒数に大きく差が出ているのが分かったそうです。

実際、OECDの調査によると、中学2・3年生時点では、日本の男女の性別による成績の差はありません。が、その後「女性は理系に進学するものではない」という社会的な固定観念などが影響し、高校進学時点で、理系の女子生徒が大幅に減ってしまっている。例えば理数科等の場合、30人クラスのうち女子は7、8人、という風に、最初からマイノリティとして学ぶことになっている。理数系の分野は、女性にとっては選択しづらい進路になってしまっている現状が見えてきたのです。

この中学・高校の段階を変えることによって、その先の大学や社会で、STEM分野に女性を増やすことができるのではないか。理数系女子生徒の母集団を拡大するために奨学金が貢献できるなら、ターゲットは中学生にしよう、と議論を重ねてきました。

財団を立ち上げたメルカリ創業者の山田進太郎氏

画期的な抽選制「葛藤やハードルを抱えている方へ」

ーー抽選で受給者を選ぶのは特殊ですね。 既存の奨学金の多くは、成績や家庭の経済状況などを考慮したり、志望動機などをたくさん書かせて「最適の人」を選考しようとしますが、この点はいかがでしょう。

富島:

抽選制は、財団からの一つのメッセージです。どの家庭の子でも、ネットで応募さえすれば、誰にでも奨学金のチャンスがある。エントリーフォームは、応募のハードルを低く設定することを最優先して作っています。記入項目は選択肢がほとんどで、自由記載欄は少なく、最低限の必須事項は5分もあれば書けるでしょう。

経済的な理由で理系進学を身近に考えたことのない家庭の子どもたちにも、この情報が届いてほしい。もちろんこの奨学金だけで全てをカバーできるわけではありませんし、貧困問題には全体的・社会的な支援が必要です。この奨学金は、起業で成功した人間が営利を超えて社会的活動に本腰を入れて取り組む、新しい始まり。ここから、今後より広い支援に繋げていければと願っています。

田中:

どんな子にも応募してほしい、という願いは強いです。すでに理系に強い興味があり、進学に理解のある保護者がいて、経済的にゆとりのある子たちだけにこの奨学金が届いても、数値で見える結果のインパクトは少ないと思いますし……

理系進学に関して何らかの葛藤やハードルを抱えている子や、保護者との関係がよくない子、まわりに理系女性のロールモデルがいない子、明確ではないがうっすら興味があるという子たちにもこの情報が届いて、応募して欲しいと思っています。

ーー応募要項には、財団側が指定する理系高校・高等専門学校への進学希望者、とあります。応募のハードルを下げるために抽選制をとっている一方で、このような特定学校リストを用いるのはなぜでしょうか。 

田中:

仕組み上、中学・高校の段階で「理系進学者」を特定するのが難しい、という点があります。進路の文理選択をするのは多くの場合高校2年時点ですが、その選択に関する証明書のようなものが、学校から発行されるわけではありません。奨学金応募のために、そのような実務を学校側に要請することもできない。そこで取り入れたのが「志望校の学校リスト制」でした。

富島:

今回のリストにある学校は、「ここを志望するなら、確実に理系進路を選択したことが分かる」進学先なんです。応募条件である「理系に進学する意志」を明確にするためにこのようにしました。ただ、この取り組み自体もまだ1年目なので、今年の状況を見た上で来年以降は随時アップデートしていきたいと思っています。

取材に応じた富島寛さん

奨学金でサポートするのは…

ーー奨学金の年間給付額は、進学志望校が公立なら25万円・私立なら50万円です。金額設定はどのように設計されましたか。

富島:

この奨学金では主に、学費以外でかかる学校生活の費用を考慮しています。高校の学費自体は自治体や世帯年収によってすでに無償化されていますが、それでも学費以外に、自己負担の出費が結構ある。また受験料の節約のため受験先を絞らなければならないなど、世帯の経済状況が原因で選択の幅が狭まるケースも見られます。そういった「進学に関わる選択」を取りやすくするためのサポートとして使って欲しいです。

田中:

高校進学の必要経費には、制服代、交通費、修学旅行費、部活動費なども含まれます。学校によっては自費購入のパソコンで、高価格帯のモデルを必要とするところもあります。学費の無償化対象世帯も、それらの経費は同じようにかかる。そこをカバーするのに、この奨学金を使ってもらいたい考えです。金額は、在学中のそれらの諸費用を調べ、平均的な額を設定しました。

コンピューターを使って学習する生徒のイメージ写真

中学生に情報を届ける難しさ

ーー財団には山田さん・富島さんはじめ、優れたウェブサービスの作り手の方々が結集しています。今回の奨学金を作るにあたり、それらのサービスと共通点や違いはありますか。

富島:

少しずつ色々なことをやりながら制度や仕組みを改善していく、というチャレンジは共通しています。ですが、教育分野は誰かの人生に関わるもので、ゲームなどのアプリとはテーマの重みが全く異なり、軽々しくはできない責任を感じます。奨学金は1年に1回なので、週ごとにアップデートできるサービスとは時間のサイクルの違いもあります。

また、中学生の女性に対して、奨学金のメッセージを伝えるのは簡単ではないですね。様々なチャネルで届ける工夫をしていますが、もっと多くの方に情報を届ける必要があります。

田中:

たとえば奨学金対象校としてリストした学校の入試情報に、「この奨学金の対象校である」との情報と、財団公式サイトへのリンクを入れていただいています。対象校の方々にご協力いただけるなら、是非リンクをお願いしたいです。

そのほかでは、大手学習塾やシングルマザー支援団体に周知したり、男女共同参画系の窓口にもお話ししています。都道府県の教育委員会にもチャネルを作っていきたいですが、まだまだ途上です。

現状、保護者の方からの反応が良いですが、やはり私たちとしては中学生本人たちに情報を届けて、本人たちの意志でエントリーして欲しいという思いがあります。オンライン上にフリーアクセスのチラシを置いていますので、奨学金に賛同していただける方々には、活用していただけると嬉しいです。

 

プロジェクトのチラシ

富島:
理系の進路への思いが強く定まっていなくても、この奨学金に受かったら受験しよう!というきっかけに使ってくれたらいい。そのための抽選制ですから、「ちょっと興味があるかな」という人でも、ぜひ応募して欲しいです。

◇ ◇ ◇

◆山田進太郎D&I財団 STEM高校生女子奨学金 エントリーフォームはこちら。募集は2021年9月30日まで

https://www.shinfdn.org/apply

 

 (取材・文:髙崎順子/編集:南 麻理江)

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Source: ハフィントンポスト
成績・所得不問。メルカリ山田氏創設の奨学金が伝えたいこと「理系を選ばないのはもったいない」

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