小室圭さんが米ニューヨーク州の司法試験を受験後、「NYの法律事務所への就職の見通しも立った」(NHK)という報道を見た。現地でも話題になっているのかと英語のニュースをチェックしたが、ほとんどが日本のマスメディアが英語で報じたものであった。
最近は、アメリカの弁護士資格を保有している日本人弁護士も数多くいて、特にNY州の弁護士資格を保持する方が多いように思う。
そんな日本でも人気のNY州の司法試験に小室さんが挑戦したと聞いて、アメリカの弁護士や法律事務所に関心を持った読者もいるのではないかと考えた。今回はそんな方に向けて、アメリカの弁護士である私から少しだけ情報を提供したい。
まずはアメリカの弁護士についての基本的な理解から。
まず、アメリカで弁護士になるには日本と同様に司法試験を受ける。弁護士資格は州単位で付与されるため、資格取得後にどの州で働きたいかを検討して受験する必要がある。
合格率も州によって違い、初回の合格率はNY州では約83%、カリフォルニア州は62〜66%で一番難しいと報告されている(※1)。
また、試験期間も内容も州ごとに違う。ざっくりというと試験の内容は1日目は約200問のテスト、2日目は各州法に特化したエッセイである。このような構成であるから、法律に関する知識や表現力、説得力、論理的思考等が複合的に求められる。
2018年のデータ(※2)では弁護士一人あたりの国民数はアメリカは260人に対して、日本は3162人。アメリカには日本の約12倍の弁護士がいることになる。つまり、日本と比べてアメリカのほうが市場競争が激しいといえるかもしれない。
こうした背景もあってか、アメリカの弁護士の業務は細分化され、会社法、相続、M&A等、専門性が高い。私はトライアル・ローヤーと呼ばれる訴訟弁護士で、ドラマや映画に登場する裁判所で裁判官や陪審員の前でクライアントを弁護するのが仕事である。
一般的にこのような裁判まで進むケースはアメリカ全体の5%程度で、ほとんどが和解や解決に至るなどして裁判の前に終結する。
弁護士には交渉力、戦略や戦術を練る論理的思考、そしてコミュニケーション力が求められることは言うまでもなく、これはアメリカでも日本でも同じである。
ただ、日本人弁護士とアメリカ人弁護士のアプローチに違いを感じることがある。例えば、日本人弁護士は法律で認められていると明記されていなければ「しない」 と考え、一方、アメリカ人弁護士は「してもよい」と考える傾向にある。
つまり、こういうことだ。ある場所に、車を駐車したい時を例に考えてみよう。日本人は「駐車してもよい」と書かれていなければ「駐車しない」、アメリカ人は逆に「駐車してはいけない」と書かれていなければ「駐車する」傾向にあるのだ。
なので、アメリカのクライアントは「しない」という選択を不満に感じる。クライアントは法律を遵守しながら何ができるか、どうしたらできるかを提案できる弁護士を求めているからだ。論理的な思考に加え、創造的な思考が常に求められる。
さらに、トライアル・ローヤーであれば社会性も重要視される。法廷で裁判官や陪審員に訴える際、一般常識とかけ離れた主張をしては共感も同情も得られないからだ。
母国語が英語でない小室さんがアメリカで弁護士になろうとするのであれば、何を専門とするかが大きなカギとなる。
例えば、トライアル・ローヤーであれば相当の英語力が必要で、裁判官や陪審員を説得するための話力と、より効果的な訴状や申し立てを書く力も必要だ。
企業法務等を専門とするのであれば、説得力のある文書を書く力が必要だろう。うまく交渉し、プロジェクトの価値を見定め、クライアントのために最善の取引を検討する力が求められる。いずれにせよ、弁護士の仕事にはコミュニケーション力は欠かせないから、アメリカで働くなら英語力は必須である。
また、アメリカで働くためには就労ビザを取得しなければならない。
前トランプ政権でビザの発給が厳しくなったと報じられたが、移民を専門とする弁護士に聞いたところ、実のところ中国人に対しては厳しかったが、日本人に対してはそれほどの影響はなかったという。
ただし、H1‐Bビザ(学士以上の学位保持)と呼ばれる専門性を生かしたい人に付与するビザの取得は難しくなったことは確かで、バイデン政権も引き続きこの傾向にあるそうだ。
しかし、弁護士資格など専門性の高い職種であればビザ取得はそれほど難しくないうえ、コロナ禍にあってインド等の発給制限をしている国もあり発給総数が少ないため、日本人であれば取得しやすい状況にあるかもしれないという。
弁護士の仕事に限らず、より腕を磨くにはより多くの経験を積むことと日々の勉強が重要だ。
私は敏腕と呼ばれる先輩弁護士について彼らの仕事を間近で見るチャンスを逃さなかったし、調査も書類を書くことも新しい知識を得る機会であり、必ず将来につながると信じて取り組んだ。
仕事を得るためには、まずクライアントや同僚、先輩の信頼を得るための社会性を備え、弁護士として信頼に足りうる実力を養うことが重要である。
弁護士になってすでに四半世紀が経過したが、上手くいったと思う日もあれば、まだまだ勉強が足りないと痛感することもある。アメリカ人には謙虚という言葉がないと言うがそれは本当で、私は心から思う。「一生勉強だ」と。
※1
https://www.abajournal.com/news/article/california_bar_exam_results_october_2020
http://www.calbar.ca.gov/Portals/0/documents/OCT2020-CBX-Statistics.pdf
https://www.nybarexam.org/press/OCT2020BarExamResults_PressRelease_12.16.2020.pdf
(文:ライアン・ゴールドスティン)
Source: ハフィントンポスト
小室圭さんの報道から考える、司法試験や弁護士の日米の違いとは