新型コロナの影響から家にいる時間が増え、ごはんを家で食べる機会が増えました。家事の大変さがあらためて浮かび上がります。
日々のごはん作りを担当されている方、毎日本当におつかれさまです!
炊事に関するお悩み、共有していきませんか。そして「誰かに作ってもらっている人」も、ぜひ読んでください。ねぎらい合うためのヒントが、必ずやあると思います。
第16回 沖縄県 39歳 気が向いたときだけ料理したいさん
私は「名前のない料理」を作ることが苦手です。
冷蔵庫にあるもので適当に作るということがとても苦手で、レシピを見てでないとできません。食材と調味料と調理法をどう組み合わせたら、どんな味のものができるか想像できないのだと思います。「一度作ってみればいい」と思われるかもですが、基本的に料理自体に苦手意識があり、失敗したら落ち込むというか、食べるのも家族に出すのも嫌になります。
(家族はなんでも食べてくれ、名前のない料理を出したとしても家族から不平不満は出ないと思うので、完全に私の問題です)
冷蔵庫にあるものでパパッと作るということには、とても憧れます。食費を抑えることにもつながるし、楽しそうだし、料理好きな人が心底羨ましいです。家庭の食が豊かってすごく素敵だろうな、と。
実家で「名前のない料理」は一般的な家庭と同じように出ていたと思います。ただあまり覚えていません。意識してなかったと思うと、作ってくれていた家族に申し訳ないです。
最近子どもが生まれ、離乳食が始まりましたが、それも食材の組み合わせが思いつかず、毎日レシピを見たりで苦痛です。
食卓を豪華な料理で飾りたいわけではありません。レシピ通りもいいですが、たまには適当に作った料理が数品でているだけの普通の食事を用意したいです。
「名前のない料理」を作るコツなど教えていただけると嬉しいです。
まず、率直な思いを聞かせてくれてありがとうございます。食事の用意は毎日のこと。そこに悩みや困難を抱えているのは、つらいことですよね。本当に本当に、おつかれさまです。
私もね、一緒なんですよ。「あるものでパパッと作る」というのに憧れがありました。母がそういう人だったんです。昭和なノリの父は突然部下や上司を連れてくる人で、母はいつも家にあるもので数品おつまみを手早くこしらえて出してました。
それから数十年。料理に関するあれこれを見てきて思うのは、「あるものだけでパパッと作る」って、料理上手だからってできるわけでもない、ということ。あの、ピアノなんかお聞きになりますか? ピアノでもね、クラシックピアノとジャズピアノってあるんです。クラシックは基本的に、楽譜に書かれてあることを忠実に弾いていく。対してジャズピアノってのは即興性が重んじられます。そのときの気分やノリで、基本のメロディを自分なりにアレンジして演奏する。
料理も一緒でね、習ったとおり、レシピにあるとおり作っていくのが得意な人もいれば、即興的に作っていくほうが気がラク、性に合うという人もいる。これ、「どっちがすごい」「どっちが上」ということじゃ全然ないんです。「どっちもアリ」なんですね。いわば、違うジャンル。あなたはレシピのとおり作る方が向いているタイプなのではないでしょうか。
家の仕事って、「なるたけ自分がラクなように、苦しくないようにもっていく」のが大事だと思うんですよ。そうじゃないと、続けられない。家事は質もそりゃ大事ですが、まず続けていくこと、自分が続けやすくすることを最優先してナンボだと思うのです。
「たまには適当に作った料理が数品でているだけの普通の食事を用意したい」とありますが、家庭における「普通の食事」というのは、誰に強制されるものでもなく、何かが基本・規範となるものでもなく、その家の作り手が無理なく作っていける料理が、「普通」であってほしいと私は思います。
つまり、これが「普通の食事」というのはない。自分の中にある「普通」って「理想」であることも多いですよ。「恋人がほしい。ごく普通の人でいいんだけどな」なんて言いつつ、よくよく聞いてみると求めてることがえらく高かったりなんてこと、世の中あるじゃないですか。そんな感じで。
名前のない料理なんて、別に作れなくたっていいじゃないですか、自分がラクな形がいいですよ……というアドバイスだけでは、ご不満かもしれません。ひとつ練習法も提案しておきますね。私は味噌汁づくりが好適と考えています。
何でもいいので、あまっている食材から、今まであなたが味噌汁に入れたことのないものをひとつ、お宅でよくやる味噌汁に加えてみてください。
それはもう、名前のない味噌汁になります。
味噌汁って、その日あるものをドンドン入れて、あまりもの消化料理にしている人は多いですよ。「やったことのない組み合わせだと、どんな味になるか想像がつかない」から怖い、失敗するかもしれない……と思われるかもですが、味噌汁って何を入れようとさほどひどい味にはなりません。それを体験してみてほしい。
ワカメと豆腐の味噌汁なんてよくありますよね。ここに白菜を入れようが、ナスを入れようが、芋類なんかを入れてもいい。あるいはシャケのほぐしたのや、魚肉ソーセージを入れたっていいと思います。甘いものや香りの強いハーブなどはちょっとむずかしいけれど(笑)。そんなことからでも、慣れていきませんか。
ともかく、自分を否定しないでくださいね。お送りいただいたメールの中に、苦手、落ち込む、嫌になる、苦痛、申し訳ないといった言葉がずらっと出てきました。自分を責めてはもっとつらくなるばかり。本来、こういう思いになるときは、ちょっと料理から離れたほうがいいんです。
ハンドルネームの「気が向いたときだけ料理したい」というのは、正直な思いではないでしょうか。そう思うことは全然悪くなく、体と心が叫びを上げたいと思っているときですよ。自分をまず大事にしてケアしないと、家族の世話なんてできません。どうか、まずはあなたを大事にしてください。
※引き続き、日々の自炊、食事の用意に関してつらいこと、悩んでいること、大変に感じていること、こちらから自由にお送りください。お名前(ハンドルネーム可)、年齢、できればお住まいの地域もご記入ください。
白央篤司(はくおうあつし)
1975年生まれ。「暮らしと食」、郷土料理やローカルフードがメインテーマのフードライター。CREA WEB、Hot Pepper、サイゾーウーマン、hitotemaなどで連載中。主な著書に『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』『自炊力』『たまごかけご飯だって、立派な自炊です。』など。家では炊事全般と平日の洗濯、猫2匹の世話を担当。Twitter、ブログ
(編集:笹川かおり)
Source: ハフィントンポスト
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