「日本に来る前は、バラ色のイメージでした」
3年前、希望に胸を膨らませて来日したベトナム人女性(22)は、双子の妊娠、死産を経て、死体遺棄で有罪判決を受けるという激流に巻き込まれた。熊本県内の農家で技能実習生として働いていた女性は、強制帰国を恐れ、妊娠を周囲に明かすことができなかったという。
なぜそのような事態になったのか。
双子の遺体を段ボールに
「被告に愛情や埋葬の意思があったとしても、まわりに隠れてやろうとしたから、国民の一般的な宗教的感情を害することは変わりがない」
7月20日、熊本地裁の判決公判。杉原崇夫裁判官は死体遺棄罪を認定し、懲役8カ月・執行猶予3年(求刑懲役1年)の有罪判決を言い渡した。
弁護団や判決によると、判決を受けたベトナム国籍のレー・ティ・トゥイ・リンさん(22)は、2018年8月に技能実習生として来日し、熊本県芦北町の農家で働いていた。20年夏に妊娠に気付いたが、SNSを通じて、妊娠出産を理由に勤め先や実習の監理団体によって強制的に帰国させられた実習生を多く見聞きしたという。
リンさんは妊娠を誰にも打ち明けず、11月中旬に双子の男児を自宅で出産。死産だったといい、遺体は自室にあった段ボール箱に入れた。
天国でも元気にいられるようにと、2人に「コイ(かっこいい)」「クォン(強くたくましく)」と名付け、お詫びの言葉と「天国で安らかに眠ってください」と書いた手紙も段ボールに入れたという。
翌日、監理団体の人に病院へ連れて行かれ、事情を説明。その3日後、熊本県警に死体遺棄容疑で逮捕された。
1月に保釈されたリンさんだが、警察から2人の子を引き取ることができたのは、5月になってから。熊本市内の斎場で火葬に立ち会い、持参した骨壺に小さな骨を収めた。事件から半年がすぎ、ようやく双子は母親の元に帰った。
「埋葬の意思あった」と無罪主張
弁護団は、リンさんは体力が回復したあとには埋葬する意思があり、遺体を放置したのではなく「安置」だとして無罪を主張してきた。4月下旬に開いた記者会見で、リンさんは一連の経緯をこう語っている。
「私は日本に来るために(手数料など)150万円もの費用を工面したので、ベトナムの家族のため、農家で一生懸命働きました」
「(妊娠後は)ベトナムに帰らされることが怖くて、(監理団体の)組合や社長さんに言うこともできず、だれにも相談することができませんでした。お腹の赤ちゃんが動いているのを感じながら、苦しかったのですが、(出産前日の)11月14日午前中まで働きました」
「その日の夜、お腹がとても痛くて、胎児が動かなくなりました。一晩中苦しみながら、一人で15日の午前中、部屋で双子の赤ちゃんを死産しました。双子は全然泣かないし、呼吸もしないし、触っても反応しませんでした。 そのとき、体調が悪くて、心細くて、怖くて、自分の子どもの遺体を見て、心がとても痛みました」
「自分の子どもを捨てることは考えませんでした。検察官は、この日の私の行動について起訴していますが、その日は体がきつくて、怖くてどうしたらいいのかわかりませんでした」
日本の印象を聞かれると、こう答えた。
「来る前は、とても良い、バラ色のイメージでした」
支援弁護士「判決に強い憤り」
有罪判決を受けた後、リンさんは以下のコメントを出し、控訴する意思を明らかにした。
「この判決には納得できないので、福岡高裁へ控訴して、無罪を実現したいと思います。これからも応援よろしくお願いします」
弁護団をサポートしてきた外国人技能実習生問題弁護士連絡会・共同代表の指宿昭一弁護士(59)は、ハフポスト日本版の取材に「被害者を加害者として処罰する判決だ。なぜ彼女が犯罪者として有罪判決を受けるのか、強い疑問と憤りを感じる」と語った。
事件の背景について「死産を周りに伝えられずに、私的に埋葬しようとしたのは、彼女が奴隷的な状況に置かれていたからだ」と述べ、外国人技能実習制度の問題点を指摘。さらに「実習生に限らず、孤独な状況で出産してしまった女性にとって、この事例が有罪になるのは非常におかしい。女性の人権という観点からも許しがたい判決だ」と疑問を投げかけた。
Source: ハフィントンポスト
妊娠を相談できず双子を死産、技能実習生に有罪判決。「奴隷的な状況だった」と弁護士