中国の新疆ウイグル自治区や香港、ミャンマーなどの人権問題が、日本企業に大きな影響を与えている。強制労働が疑われている「新疆綿」をめぐっては、ユニクロの綿製シャツがアメリカの輸入禁止対象に。7月にはフランス検察がユニクロの現地法人の捜査に乗り出したことがわかった。
欧州では、こうした人権リスクを未然に防ぐ「人権デューデリジェンス(人権DD)」を企業に義務づけた法律の制定が進んでいる。
自民党のプロジェクトチームは5月、日本でも人権DDの法制化を促す提言をまとめ、菅義偉首相に提出した。一方、大企業が加盟する経団連は「直ちに義務化すべきではない」と慎重だ。両者に理由を聞いた。
欧州では法制化が進む
人権DDとは「自社や取引先において、人権侵害の発生やリスクを特定し、それに対処する」取り組みのことで、国連の指導原則によって企業に求められている。
イギリス、フランス、オーストラリアに続き、2021年6月下旬にはドイツで「DD法」が成立した。
2023年1月に法律が施行されると、ドイツに拠点を置く一定規模以上の企業は、
・人権や環境に関するリスク管理体制の整備
・定期的なリスク分析
・具体的なリスクが見つかった場合の是正措置
などが義務付けられることになる。
一方、日本では、2020年10月に「ビジネスと人権に関する行動計画」が策定されたが、法的義務までは課していない。
自民PT座長「日本も国際ルールづくりに参画を」
自民党の「人権外交プロジェクトチーム(PT)」は計14回の会合を重ねた末、5月下旬に第1次提言をまとめた。「短期的に検討・実現すべき事項」として、人権DDのガイドライン策定や法制化の議論を始めるよう政府に求める内容だ。
PT座長の鈴木憲和衆院議員(元外務政務官)は、日本が人権における国際的なルールづくりに参画するためにも、法制化を急ぐべきだと訴える。
「ミャンマーのクーデターでは、国軍側と取引がある日本企業に対し、NGOなどから厳しい目が向けられました。グローバルな活動なくして日本企業も成り立たなくなっている時代、サプライチェーンを人権の観点で見ておくことは、企業活動において最低限の条件になっています」
「強制労働やハラスメント、差別はないか。常に改善し続けているか。企業は説明責任が求められています。ただ、国際社会でそれをどうプレゼンテーションするか、日本企業は慣れていないことがミャンマーの事例でも明らかになりました。その『作法』を一緒に作り、外から見たときに『日本企業はしっかりやっている』と思われるようにすることが、最終的には国益を守ることにつながると思います」
外国人技能実習の人権問題にも言及
――提言には「官民が連携して進めるため、有識者審議会の設定を検討する」とあります。法制化は具体的にどう進めるべきだと考えますか。
数年以内に結論を出すべきです。法律は罰則を伴うので、企業にとって厳しい側面があるでしょう。ただ、これからの国際市場において「人権DDは義務」という認識は、どんどん広がっていきます。そうしたときに、日本だけ「法律がありません」となると、どういうリスクにさらされるか。それを理由に「取引はできません」「投資対象になりません」という事態になる恐れは十分あると思います。
欧米が国際スタンダードをつくる前に、日本も法制化してルールづくりに参画すべきです。G7の他国の間でルールができてしまったら、日本はそれを押し付けられることになります。(2050年カーボンニュートラルなど)環境対策は、まさにそのパターンでした。
――国内には外国人技能実習制度の問題もあります。
人権DDは当然、国内の下請け企業なども対象になります。劣悪な環境におかれている技能実習生がいるのは事実なので、そうした問題が国内からなくなるよう、法制化を機に考えるべきだと思います。
経団連は法制化に消極的
一方、国内の大企業1461社などが加盟する経団連は、人権DDの法制化には慎重だ。政府が国別行動計画をつくる際には、「直ちに義務化するべきではない」と表明していた。
2018年度の企業活力研究所の調査では、人権DDに取り組んでいる国内132社のうち、人権DDの情報開示を「直ちに義務化すべきだ」と答えたのは、わずか5社。4割弱が「将来的には義務化すべきだが、現段階では適当ではない」と回答していた。
経団連の長谷川知子常務理事は、企業の自主性に委ねた方が課題解決につながると主張する。
「2020年に経団連が行った会員企業へのアンケートでは、人権DDに取り組んでいる企業は36%でした。これを100%に近づけていくのが課題です。ただ、経団連としては、情報開示の促進は必要性と効果を検証したうえで、段階的に実施すべきだと考えています」
法制化は「実質的でイノベーティブな課題解決を阻害」
――法律なしで、人権DDの実施をどう担保するのですか。
既に国連の指導原則があり、OECD(経済協力開発機構)の多国籍企業ガイドラインもあります。それらを遵守していくことが、グローバルに公平な競争条件を確保しつつ、人権の尊重を遵守する経営を推進するうえで一番効果的ではないか。
多様な人権のリスクに対応するには、企業が自主的に創意工夫をもって、改善しつつ取り組んでいくことが、企業価値の向上にもつながるし、課題解決につながるという考えです。
――法制化にはデメリットがあるという認識ですか。
人権DDや情報開示を画一的に義務化すると、多岐にわたるリスクが実際にあるにもかかわらず、画一的でチェックボックス的な取り組みしか行われなくなる恐れがあります。企業による実質的でイノベーティブな課題の解決に対して、それを阻害する要因になることを懸念します。
ただ、人権DDを行う際は色々な支援が必要です。海外のサプライチェーンにおける状況把握は、その国でどういう人権リスクがあるのか、その国の法律がどうなっているのか、現地でどういうサポートを得られるのか、といった情報が非常に重要です。そうした支援を経産省や外務省に要請しています。
なお、今年の後半には、経団連の企業行動憲章の実行の手引きを4年ぶりに改定します。昨今の状況の変化をふまえ「人権の尊重」に関わる箇所を更新し、周知を図る予定です。
Source: ハフィントンポスト
「ユニクロ」は捜査に発展。日本企業に人権対策を義務づけるべきか、自民党と経団連に温度差