人権侵害をきっかけに海外の個人や団体に強力な制裁を科せるようにする「人権侵害制裁法」の成立を目指す議員連盟の会合が、5月14日に開かれた。
国会が人権侵害に関する「調査」を要求することで、日本政府に海外の人権問題に積極的に関与させる機能が特徴だったが、出席した議員からは「政府の外交にとって問題だ」などの異論も示された。
「人権侵害を超党派で考える議員連盟」は、人権侵害をきっかけに海外の個人や団体に資産凍結などの強力な制裁を科せるようにする「人権侵害制裁法」の制定を目指している。
この日は第2回目の総会が開かれ、「制裁法」の素案をもとに、出席した議員が非公開で意見交換をした。
「人権侵害制裁法」は、政府高官の汚職を告発した直後に拘束され、2009年に獄中死したロシア人弁護士セルゲイ・マグニツキー氏の名前を冠した「マグニツキー法」がベース。アメリカで2012年に制定されたのをきっかけに、カナダやイギリス、EUなどで類似の法律が作られた。
素案では、外為法や入管法を改正して、人権侵害をきっかけに資産凍結や入国拒否などを発動できるようにするとしている。
さらに、人権侵害の疑いが生じた場合、国会が政府に対して「調査」を要求することができるようにする。政府は必ず調査を実施し、その結果、必要であれば制裁措置を講じることになる。人権問題への対応が外交関係に影響することを危惧する政府の「背中を押す」機能とされる。
しかし、総会後に取材に応じた共同会長の中谷元氏(自民党)と山尾志桜里氏(国民民主党)によると、素案には異論もあがったという。
山尾氏によると、出席した議員からは、国会が主導権を握って政府に調査をさせることに対して「国会ルートが強すぎると政府の外交にとって問題だ」とする懸念の声があがったという。
また、中谷氏によると、人権侵害の有無を調査する政府の能力に疑問を呈する声もあったという。中谷氏は「日本が独自で正しい判断ができることが大事だという意見があった。情報収集や分析をできるような体制を作らないといけない」と話した。
今後、提示された素案を各政党で検討する。山尾氏は「今は全くの素案」とした。また、今国会の成立を目指すとした従来の目標については「できれば時期を失さずまとめたい」と答えるにとどめた。
人権侵害をきっかけに資産凍結などの制裁を科せるようにする法律は、2020年からJPAC(対中政策に関する国会議員連盟)で検討が進んでいた。しかし、JPAC自体が香港問題をきっかけに設立されたことから、中国を念頭に置いているのではという指摘もされ、公明党と共産党からは参加議員がいなかった。
各政党の賛同を得るため、特定の国を名指ししない「人権侵害を超党派で考える議員連盟」が2021年4月に発足。これまで公明党と共産党を含めた衆・参合わせて82名が参加している。
Source: ハフィントンポスト
揺れる人権侵害制裁法。”日本政府の背中を押す機能”にも異議「外交にとって問題だ」