新たなボーイズグループを立ち上げるためのオーディション「BMSG Audition 2021 -THE FIRST」の模様が4月から朝の情報番組「スッキリ」とHuluで放送されている。
世界を目指すグループのメンバーを発掘するための大がかりなオーディション、仕掛けているのはラッパーのSKY-HI。AAAのメンバーとして日本の芸能界の第一線で活躍してきた一方で、ラッパーとしても日本の音楽シーンに風穴を開けるべく様々なチャレンジと向き合ってきた。
「メインストリーム」と「アンダーグラウンド」を同時に渡り歩くという稀有なキャリアを持つSKY-HI。近年、NiziUなどオーディション番組発のグループに注目が集まる中、どんな哲学の下で新たなボーイズグループを作ろうとしているのか。
その背景には、日本の芸能界やエンターテインメントを形作る暗黙のルールに対して彼が肌で感じてきた問題意識や危機感があった。
SKY-HIは、今回のオーディション開催にあわせて、これまでにないユニークなグループを作るための前段として自らの会社「BMSG」を設立(BMSG = Be My Self Groupの頭文字)。さらに、このオーディションの立ち上げにあたって私財1億円以上を投じた。
「キャッチーですよね、『自腹で1億円を出す』って(笑)。自分のやる気を何かしら数字に変換したほうが意気込みが見えやすくなると思ったので、こういった打ち出し方をしました。特にオーデションの序盤は参加メンバーをそれぞれ紹介していくイントロ的な位置づけなので、自分がどのくらいこの企画に賭けているかを言葉だけではなくて態度でも示していきたいと考えていました。そういう点でも、お金の話も含めて本気度を伝えられたんじゃないかと思っています」
このオーディションを開催するモチベーションになったのは、自身のこれまでの芸能活動において体験してきた様々な出来事。番組内でも語られていた通り、それは決してポジティブなものばかりではない。そこに加えて、自身がドームツアーなど芸能界のトップの景色を見てきたからこその危機意識がある。
「ある場所では『アイドルらしくない』と言われて、別の場所では『ラッパーらしくない』と言われるというのは、自分の活動における呪いのようなものでした。
これまで日本で形成されてきた芸能の仕組みの中では、歌ったり踊ったりして認められるにはいくつかの決められたスタイルに適合させないといけない現状があると思っています。そういうプロセスの中で、たくさんの人が自分らしくない形で何かをすることを強いられたり、もしくは才能そのものが殺されてしまう局面を見てきました。今までのスタイルにはまらない、でも大きな才能を持った人たちにどうやって活躍の場を作ってあげるか。
最近ではたくさんの若者が日本から韓国に渡っていて実際にデビューする人も多いし、何より韓国の芸能事務所主導で日本の才能を集めてあれだけの成功を収めたNiziUは『日本ではこれまでの枠にはまらなかった才能を発掘した』とも言えますよね。
この状況は誰か特定の悪者がいるわけではないですし、従来の日本の芸能の仕組みには素晴らしい面があるということを認めたうえで、『Be Myself』と謳っている会社が若い才能を違った角度から輝かせることができれば新しい価値観やカルチャーを生み出していけるんじゃないかなと」
韓国の芸能が新たなフェーズを迎えていることはSKY-HIを大いに刺激しており、同時にそこから透けて見える日本の若者のポテンシャルにも目が向いている。
「ここ数年の韓国の音楽の盛り上がりについては日本で活動するミュージシャンとしてリスペクトを感じるとともに、日本の状況と比較してフラストレーションを抱えてもいました。ただ、今の韓国の状況も突然生まれたわけではなくて、BTSに至るまで様々な人たちがバトンをつないできたからこその結果だと思っています。
今まで自分は活動を通じて何度も傷つけられたことがあったけど、その時の葛藤が次にバトンをつなぐための材料になるのであれば、その傷も無駄なものではなくなる。そういうことを考えると胸が躍ります。
日本は韓国より人口も多いし、レベルの高いキッズダンサーやストリートダンサーもたくさんいます。なので、旗を掲げれば才能を持った人たちがたくさん集ってくれるだろうという確信を持ってオーディションをスタートさせました。実際、想像以上にすごいレベルの人たちが来てくれてびっくりしましたね」
SKY-HIの心意気に呼応して集まった若者たちの顔ぶれは、年齢からキャリアまで多種多様。声変わり前の少年もいれば、大型オーディションで最終選考まで残った人、ダンスの世界大会での優勝経験者、すでに芸能活動の経験がある者など、非常にバラエティに富んでいる。そんな多士済々とSKY-HIはどんな心持ちで向き合おうとしているのか。
「応募してくれた人には最大限の敬意を示したいし、まずは自分がみんなと同じマインドだと表明するのが大事だと思っています。『同じマインド』と言いつつもオーディションである以上何らかの上下関係のようなものが自分と参加者の間に発生してしまうのは仕方ないと思うんですけど、あくまでも自分は『役割』としてメンバーを選ぶイメージです。別にこっちが偉いとかではなくて、たまたま長く生きていて経験があるからその仕事を担っているだけというか。
オーディションの中では『独断と偏見』っていう言葉を意識的に使っていて、それも今回僕のつける順位は決して絶対的なものではないというのをはっきりと伝えるためです。そのうえで、彼らの自尊心をどう保つか考えたり、逆に早めに軌道修正するためにその自尊心をあえて越えて踏み入らないといけないときもあったり…難しいですね」
参加者との距離感を慎重に測りながらも、SKY-HIは技術的な指摘から気持ちをモチベートする言葉まで、本質を突いたアドバイスでオーディション参加者たちをリードしている。そこにあるのは「グループにふさわしいパフォーマーを選ぶ」ことに特化した真っ直ぐな姿勢である。
「些細なコメントが彼らの今後に大きく影響する可能性もあるので、技術面に関するアドバイスはできるだけ具体的に伝えるように心掛けています。このオーディションの目的は世界で通用するボーイズグループを作ることなので、オーディションそのものを盛り上げるための企画みたいなものは極力排除しています」
今回のオーディションでは、選定の基準として3つの「ファースト」が示されている。パフォーマンスの基礎能力を示す「クオリティファースト」、音楽を考えて生み出す力としての「クリエイティブファースト」、そしてステージ上で自身のあり方を証明できるかが試される「アーティシズムファースト」。そこにはSKY-HIのこれまでの経験に基づく信条、そして目指すグループの在り方が凝縮されている。
特にここまでの放送で印象的だったのが「音楽を好きな人の歌・踊りである」というSKY-HIの評価である。
「音楽を使って自分を際立たせることと、自分のスキルを使って音楽を表現することって近いようでいて全然違うんですよね。
たとえば歌であれば、日本はカラオケ文化があるからか前者の方向性で上手な人が多いように思います。ただ、どんなに素晴らしい才能やキャラクターを持っていたとしても、それを輝かせるために音楽を使うことを僕としてはあまり推奨したくないんです。歌や踊りの上手さを自分のアピールに使うのではなく、その音楽を自分の身体で咀嚼してアウトプットすることを大事にしている人かどうか、というのは特に注目して見ています。
そうやって音楽に真摯なスタンスでクオリティを高めていけば、その音楽をどう表現するか考えていく過程でクリエイティビティもアーティシズムも自然と磨かれていくはず。そういう意味で、この3つのファーストは密接につながっています。『心技体』のようなもので、それを兼ね備えたメンバーが集まれば単に既存のかっこいいものをなぞるだけではないメッセージやスタンスを持ったボーイズグループが生まれるんじゃないかと信じています」
オーディションを通じて若い才能の可能性を見出しながら、音楽そのものとも改めて向き合っているSKY-HI。「プロデューサーとしてのSKY-HI」の視点が「ミュージシャンとしてのSKY-HI」にもすでにフィードバックされているという。
「このオーディションをやっていることで、自分に対してのフィードバックはめちゃくちゃありますね。それだけについてあと20分は話させてほしいくらい(笑)。
自分は天才ではないし、歌や踊りのスキルをトレーニングなどを通じてちゃんとした形で身につけ直したのも実は20代後半になってからです。オーディションの中ではそういう経験をもとに参加者に対してアドバイスをしていて、改めて言語化することでその内容が自分の中にもう一度入っていっている感じがしています。
自分の何が優れているのか、それをアウトプットするときに自分のどんな部分を使っているか、何に気をつけているか。そういうことに再度意識的になれたのは大きいですね。
自分のディレクションを通じてパフォーマンスが大きく向上する参加者を見ると、自分自身も新人の頃に戻ったようなフレッシュな気持ちになるんです。オーディションを経て彼らだけじゃなくて自分も成長していることをこの先の活動で証明していければと思っています」
5月11日現在、放送されているのは#8まで。今後メンバーが絞られていく過程で、様々なドラマが展開されるはずである。オーディションの様子がこの先世の中にどんな反響を巻き起こすのか、そして最終的にはどんなグループが生まれるのだろうか。
「オーディションに参加してくれたみんなとは年齢も離れていますし、形式上は選ぶ側と選ばれる側ではありますが、気持ち的には年の離れた同志だと思っています。彼らと一緒にこういうことをやってみたいというような夢も膨らみますし、同時に他人の人生を預かる責任感も芽生えてきました。
これから放送される回では、先ほど話したような音楽を好きな気持ちというのが驚異的な成長を呼び込んだり、参加者の間で面白い化学反応が生まれたりするんですけど…見てのお楽しみということで(笑)。期待していてください」
SKY-HIと「同志」たちがともに見る夢ーー大きなビジョンを携えて動き出した今のSKY-HIにとって、「夢」というのは一つの重要なキーワードなのかもしれない。先日配信リリースとなったオーディションのテーマソングでもある彼の新曲「To The First」は、こんなフレーズから始まっている。
<あの日夢物語と笑われた その夢を超えるため走りだそう>
(取材・文:レジー @regista13 編集:若田悠希 @yukiwkt)
Source: ハフィントンポスト
日本の芸能界の「暗黙のルール」に危機感。ラッパーSKY-HIが自腹で1億円かけた次世代発掘