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アカデミー作品賞、遡って見ていくと…。SNSとトランプ氏が変えた映画界と、それでも変わらなかったもの【過去5年の作品賞一覧】

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「アカデミー作品賞は………ラ・ラ・ランド!」

「違う、、、間違いがあった。ムーンライト、あなたたちがアカデミー作品賞だ。ジョークじゃない、ムーンライトが作品賞だ!ムーンライトだ!!」

アカデミー賞のクライマックスで作品賞を間違えて発表してしまうという世紀の「大惨事」が起きたのは、2017年のこと。

 「いわくつき」になってしまったものの、貧しい黒人青年の成長を描く「ムーンライト」が作品賞を受賞したこと、そしてこの年の助演男優賞・助演女優賞に黒人俳優が輝いたことには大きな意味がありました。

前年・前々年と2年続けて演技部門の候補者20人が全員白人で、「#OscarsSoWhite(オスカーは真っ白だ)」とおおいに批判されたのです。

アカデミー賞は、まさにアメリカ社会の映し鏡。国境を超えてさまざまな課題を共有できるこのSNS全盛時代においては、この世界の映し鏡ともいえます。

白人男性=既存のマジョリティ中心のあり方から、多様な才能が輝く場所へ。

ジェンダー平等を求める声、#BlackLivesMatter や #AsianLivesMatterの動きを背景に、まもなく授賞式を迎える2020年度アカデミー賞は、世界に何を見せるのでしょうか。

この記事では、授賞式をより楽しむために、過去5年の作品賞と印象的な出来事を振り返ります。

キーワードは「SNSの隆盛」「トランプ大統領」「多様性」

そして、映画人たちの変わらぬ映画愛です。

※記事の最後に2000年以降の作品賞ラインナップもあります。

2020年(2019年度)

パラサイト 半地下の家族 (ポン・ジュノ監督)

格差描く韓国映画。外国語作品として初めての作品賞受賞 

映画「パラサイト」より

半地下に暮らす貧しい一家が、IT企業を経営する金持ち家族に”寄生”していく様子を描いた本作。

韓国で低所得者が住む「半地下」の住居は、便所コオロギがうろうろ…大雨が降れば水没してしまいます。一方、金持ち一家は有名な建築家が建てた高台の家に暮らし、大雨の後に「雨でPM2.5が少なく空気が気持ちいい」と無邪気に喜ぶ。格差社会の酷さをコミカルに、シニカルに、描きました。

家父長制が強く根付く韓国社会の、盲目的なまでの家族の絆も印象的です。

映画「パラサイト」ポスタービジュアル

貧困や経済格差を「住居の高低差」と「匂い」で見事に描き出した本作は、アカデミー史上初めて外国語映画が作品賞に選ばれるという偉業を達成。アカデミー賞の「多様性推進」が一気に進んだ印象を世界に与えました。

作品賞と同時に監督賞にも輝いたポン・ジュノのスピーチは、SNSでも話題に。

個人の声が政治や社会を大きく動かしてきたSNS時代を肯定するかのようにも聞こえてきますし、スコセッシへのリスペクトは映画界への愛でもあります。

「私が映画の勉強をしていた時に、本で読んだ言葉で、今も大切にしている言葉があります。『最も個人的なことが、最もクリエイティブなことだ』という言葉です。マーティン・スコセッシの言葉でした。私は、彼の映画を見て勉強したんです。一緒に監督賞にノミネートされただけで嬉しい」(ポン・ジュノ監督)

2019年(2018年度)

グリーンブック (ピーター・ファレリー監督)

黒人と白人の交流を描き、賛否両論。人種差別問題の難しさ浮き彫りに

 『グリーンブック』は、人種差別の影響が強く残る1960年代のアメリカ南部を舞台に、黒人ピアニストとイタリア系白人男性の交流を描いた、実話に基づく物語です。2人が演奏ツアーのために頼りにしたのが、黒人旅行者向けの施設利用ガイド「グリーンブック」。アメリカでは当時、実際にこうしたものが配られていたのだといいます。

作品賞に加えて脚本賞、そして黒人ピアニストを演じたマハーシャラ・アリが助演男優賞を受賞しました。 

実はこの作品の賛否はアメリカ国内でも大きく割れていました。黒人と白人が心を通わせていくストーリーには、好意的な受け止めも大きかった一方で、白人にとって都合のいい話だ、”white savior(白人の救世主)”の映画だ、などの批判も大きかったのです。

映画「グリーンブック」より

当時、トランプ政権下で、アメリカ国内のヘイトクライムは増加。白人警官による黒人への暴行・銃殺が多発する中、のんきにハートフルな話を賞賛している場合じゃないという厳しい見方もありました。

こうした中での作品賞受賞の快挙に、黒人差別、人種差別について問題提起する作品を作り続けてきたスパイク・リー監督は激怒したといいます。

作品賞には、リー監督の「ブラック・クランズマン」もノミネートされていました。

この年は、Netflixオリジナル映画の「ROMA」が最多10部門でノミネートされ、外国語映画賞を受賞。作品賞ノミネートは8作品中5本が黒人などの非白人が主役級の役割を務めたもので、多様な作品が並びました。

 

2018年(2017年度)

シェイプ・オブ・ウォーター (ギレルモ・デル・トロ監督)

種族を超えた愛の物語。監督は「私は移民です」という言葉でスピーチを始めた

映画「シェイプ・オブ・ウォーター」

幼い頃のトラウマで声を失った女性と、アマゾンの海から連れてこられた半魚人のような生き物が織りなす、種族を超えたラブストーリー。

物語の舞台は1962年。ソ連との核戦争への脅威でアメリカ国内の緊張感が頂点に達する一方で、国内では公民権運動が大きなムーブメントになっていた頃の物語です。トランプ大統領の就任から1年が経ち、分断が露呈していたアメリカ社会にリンクした部分もあったかもしれません。

デル・トロ監督はメキシコ出身。同作で監督賞も受賞。壇上のスピーチで「私は移民です」と切り出し、以下のように語りました。

「芸術や映画業界がすることの中で最も素晴らしいのは、砂に引かれた線を消すことです。線をもっと深く刻めと世界に言われる時こそ、引き続き線を消していくべきなのです」(監督賞スピーチ)

この年のハイライトの一つは「スリー・ビルボード」で主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドのスピーチかもしれません。

 2017年秋に、まさにアカデミー賞との”常連”であり、いつもこの場に鎮座していた大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏による性暴力やセクハラが明らかになって、世界中にMeToo運動が広がりました。これをきっかけに、改めて性暴力やジェンダー不平等、ダイバーシティの重要性についての意識が高まっていました。そうした中、壇上にあがったマクドーマンドは、白人男性中心の映画業界を変え、マイノリティの権利獲得と多様性が実現された映画製作のあり方を、”inclusion rider(包摂条項)”という言葉を使って、求めました。

マクドーマンドをはじめ、女性差別に声をあげてきたハリウッドの女性たちについてまとめた記事はこちら⇒https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6077bccbe4b020e576c08f57 

2017年(2016年度)

ムーンライト (バリー・ジェンキンス監督)

黒人青年の成長を描く黒人監督の作品に光

映画「ムーンライト」より

「ムーンライト」は、貧しい黒人男性の少年時代、高校生時代、青年時代を描く物語です。性的アイデンティティに悩みを抱えており、周りの黒人少年からいじめられている主人公のシャロン。居場所を求めて葛藤しながら、愛を知っていきます。

「白人vs黒人」という構図で人種差別を題材にするという、マジョリティがある意味で押し付けてきた「黒人映画」へのステレオタイプを打ち破るものだ、という評価もありました。

監督自身も黒人男性であり、主要キャストは全て黒人。いじめられるシャロンを助け、心のよりどころとなったメンター的な存在・フアンを演じたマハーシャラ・アリが助演男優賞を受賞しました。

 「ムーンライト」への評価は、2015年、2016年と白人キャストばかりが俳優賞にノミネートされ批判されたアカデミー賞の「自己反省」が機能した結果にも見えました。 

間違えて呼ばれた「ラ・ラ・ランド」は白人中心のキャストであり、黒人から生まれたジャズ文化の再起を白人が目指すという物語の展開からも、こちらが作品賞であれば、もしかすると#OscarsSoWhiteの声は続いていたかもしれません。 

正しくはムーンライトだ、とアナウンスした「ラ・ラ・ランド」のプロデューサー

トランプ大統領への対抗色が色濃くでたこの年のアカデミー賞で、外国語映画賞を受賞したのはイランの「セールスマン」。アスガー・ファルハディ監督は、イランなど7カ国の国民や難民の入国を一時禁止する大統領令に抗議し、アカデミー賞欠席を表明していました。

当日、代読された受賞スピーチでは以下のような言葉が読み上げられ、会場からは賛同の拍手が巻き起こりました。

「自分と敵、という二つに分断することは、恐怖や戦争へのまやかしの正当性を生み出します。恐怖に追いやられた人たちを民主主義や人権から遠ざけます。映画監督というのは、彼らにカメラを向け、人間性をとらえることで、さまざまな国や宗教に対するステレオタイプを打ち破ることができます。そして今日以上にそれが必要な時はないでしょう」

2016年(2015年度)

スポットライト 世紀のスクープ(トム・マッカーシー監督)

権力を見張るジャーナリズムの真価がテーマ

 

映画「スポットライト 世紀のスクープ

聖職者による児童への性的虐待、そしてカトリック教会による組織ぐるみの隠蔽の実態を暴いていくボストン・グローブ紙の記者たちの挑戦を描く本作。実話に基づいた作品です。

 「巨悪に立ち向かう主人公」という王道の構図でありながらも、テーマは児童への性的虐待や腐敗化する権力という社会性が強いものでした。モデルとなった記者たちに何度も取材を重ねて映画を作り上げたトム・マッカーシー監督。朝日新聞の取材(2016年4月13日朝刊掲載)に以下のように話しています。

インディペンデント・スピリット賞で監督賞を受賞したトム・マッカーシー監督(2016年2月27日撮影=米カリフォルニア)

「最近のジャーナリズムはスピードを重視するあまりに見落とすことが多いが、ニュースの核心に迫るために、優秀な編集者がいかに必要であるかも示したかった」

 「今年の大統領選をみても、好き勝手に発言する政治家が横行している。特に共和党は政策についての言及が少なく、ディベートも冗談のようだ。大きな理由は、本当のジャーナリストから質問を受けていないことだ」

この言葉の数ヵ月後、アメリカはトランプ大統領を誕生させます。

SNSを巧みに操り、自分に都合の悪い報道をするメディアを「フェイクニュースだ」と名指しで批判し、アメリカ社会の分断を加速させたリーダーの出現を予言していたかのようです。

就任式の1週間前、記者会見に臨むドナルド・トランプ氏

繰り返しになりますが、俳優賞のノミネートが白人ばかりで批判を集めたのがこの年です。しかし、その中でもレオナルド・ディカプリオが「レヴェナント」で主演男優賞を獲得したことには、世界が祝福ムードに包まれました。6回目のノミネートで悲願のオスカー。ディカプリオはスピーチの半分近くを、気候危機への警鐘を鳴らすメッセージに費やし、団結を呼びかけました。

白人男性中心からの脱却。キーパーソンは、1人の黒人女性

ここまでに紹介した年をさらに遡っていくと、2014年度「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)、2013年度「それでも夜は明ける」(スティーヴ・マックイーン監督)、2012年度「アルゴ」(ベン・アフレック監督)、2011年度「アーティスト」(ミシェル・アザナヴィシウス監督)、2010年度「英国王のスピーチ」(トム・フーパー監督)と続きます。(5作品中2作が、かのワインスタイン・カンパニー製作です) 

「それでも夜は明ける」は、黒人監督の映画として初の作品賞受賞でした。

オスカー像を手にするスティーヴ・マックイーン監督(2014年3月2日)

5年単位で振り返ってみると、わずか数年でアカデミー賞が白人男性中心のお祭りから、多様で包摂的な映画界を支えるものになるべく変化を試みてきたことがわかります。

 キーパーソンの1人は、2013年から2017年まで映画芸術科学アカデミー(AMPAS)会長を務めた黒人女性のシェリル・ブーン・アイザックス氏です。アイザックス氏は、アカデミー賞に投票する権利を持つアカデミー協会員(俳優や監督、スタッフなどから成る)の構成比率を見直し、多様性推進に努めてきました。

大きなきっかけは、2012年にアカデミー会員の約94%が白人、約77%が男性と指摘する報道が出て、大きな批判を浴びたこと。さらに2015年、16年の「#OscarsSoWhite」の炎上が続きました。

アイザックス氏は、2020年までに女性と非白人の会員数を倍増させる、と宣言。「アカデミーは映画業界が変わるのを待つのではなく、率先して変化していきます」と声明を出し、それ以降、毎年多くの新会員を加入させることで、全体の構成比の改善をねらっています

シェリル・ブーン・アイザックス氏

現状、まだまだ理想的な構成比とはいかないものの、こうしたアクションは、ここ最近の受賞作のラインナップを見ても、結果としてあらわれているのではないでしょうか。

さらに、2024年からは作品賞の選考に新たな基準を設け、「主要な役にアジアや黒人などの俳優」「女性やLGBTQ、障がいを持つスタッフ起用」などを求めると発表し、アカデミーはますます多様性推進に舵をきっていくことでしょう。

2021年のアカデミー賞は、ポスト・トランプ時代の最初のものになります。

見る人の心を揺さぶり、意識やアクションを変える可能性を大いにもっている映画。あらゆる人が平等なチャンスをもち、創造性を発揮することで、多様な作品が生まれ、世界が豊かになっていく。

アカデミー賞がそうしたサイクルを牽引することを世界が期待しています。

記憶に残る1本は?

作品の内容を詳しくお伝えしませんが、2000年まで遡って作品賞ラインナップを紹介します。

ネット配信やレンタルなどで手軽に見られるものもあるので、思い出の作品や、まだ見たことのない作品を、ぜひ楽しんでみてください。

 

2020 パラサイト 半地下の家族

2019 グリーンブック

2018 シェイプ・オブ・ウォーター

2017 ムーンライト

2016 スポットライト 世紀のスクープ

 

2015 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

2014 それでも夜は明ける

2013 アルゴ

2012 アーティスト

2011 英国王のスピーチ

2010 ハート・ロッカー

 

2009 スラムドッグ$ミリオネア

2008 ノーカントリー

2007 ディパーテッド

2006   クラッシュ

2005 ミリオン・ダラー・ベイビー

 

2004 ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還

2003 シカゴ

2002 ビューティフル・マインド

2001 グラディエーター

2000 アメリカン・ビューティー

 
 *
 
身近な話題からSDGsを考える生番組「ハフライブ」。
4月のテーマは、アカデミー賞とSDGsです。「社会や政治を映す鏡」であるアカデミー賞は、2021年という時代をどう映すのか。
授賞式直前に、アカデミー賞の「新しい見方」をお届けする60分間です。
詳細はこちら。
 
・配信日時:4月22日(木)夜9時~
・配信URL;YouTube
・配信URL: Twitter(ハフポストSDGsアカウントのトップから)
 
※番組は無料です。時間になったら自動的に番組がはじまります。

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Source: ハフィントンポスト
アカデミー作品賞、遡って見ていくと…。SNSとトランプ氏が変えた映画界と、それでも変わらなかったもの【過去5年の作品賞一覧】

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