#MeTooがハリウッドから始まったことは広く知られていますが、性被害以外の女性差別についても映画界は力強く声を上げてきました。
パワフルに声を上げてきた映画界の動きを振り返る『心揺さぶるアカデミー賞スピーチ』。シリーズ後編は、ジェンダーギャップについての動きを4つのポイントからご紹介します。
<記事の主な内容>
① ギャラの差は1億円? 賃金格差に声をあげたハリウッドスターたち
② #MeTooから#TimesUpへ
③ 主演女優賞の大本命がオスカーを床に置いて語ったこと
④ 女性監督への評価は正当か?ナタリ・ポートマンの痛烈な皮肉
「今こそ賃金の平等を完全に実現すべき時だ」
2015年のアカデミー賞の授賞式で、あるスピーチが注目を集めました。『6才のボクが、大人になるまで。』で助演女優賞を獲得したパトリシア・アークエットのスピーチです。
家族や関係者への感謝を述べた後で、「子どもを持つ全ての女性たち、この国の全ての納税者と市民たちに」と呼びかけたアークエットは、力強くこう語りかけます。
「私たちは全国民の平等な権利を求めて今まで戦ってきた。今こそ、アメリカ合衆国の女性たちに、賃金の平等、権利の平等を完全に実現すべき時だ」
会場は拍手喝采。俳優のメリル・ストリープは手をたたいて「イエス!」と何度も叫び、隣にいたジェニファー・ロペスも身を乗り出しながら大きく頷いていました。
その半年後の2015年10月、オスカー俳優のジェニファー・ローレンスがハリウッドスターの男女の賃金格差について問題提起したコラムが、再び大きな反響を呼びました。
「なぜわたしの報酬は男性共演者よりも少ないのか?」という、映画界の男女の賃金格差について訴えたこのコラム。男性の共演者たちが自分よりもはるかに高い報酬を得ていることを知って声を上げたというローレンスは、強く自身の権利主張をしてこなかった理由について次のように述べています。
「私は『面倒くさい』『生意気』と思われたくなかったのです。こうした問題を抱えている女性は、私だけではないはずです。私たちは、社会的にこのように振舞う癖が身についてしまっているのでしょうか?男性を『攻撃』したり『怖がらせ』たりしない方法で、自分の意見を表現しようとする習慣がまだ残っているのでしょうか?」
「ジェレミー・レナー、クリスチャン・ベイル、ブラッドリー・クーパー、彼らはみんな自分たちのために闘い、強力な契約交渉に成功していました。むしろ、彼らは堂々として戦略的だと評価されたに違いありません」
ローレンスの問題提起に次々とスターたちが賛同し、この問題は世の中に広く知られることに。
2018年にはケヴィン・スペイシーがセクハラで告発されたことで一部撮り直しとなった映画『ケティ家の身代金』で、主演のミシェル・ウィリアムズとマーク・ウォールバーグの再撮影の出演料が1億円以上も差があったことが判明した際には、ウォールバーグがギャラ全額をミシェル・ウィリアムズの名前でセクハラ支援基金『Time’s Up』寄付すると表明しました。
コメントの中でウォールバーグが「平等な賃金実現のための闘いを100%支持している」と述べたように、賃金格差は依然として存在するものの、問題はすでに可視化され、男女問わず連帯する動きも広がっています。
ハリウッドから始まった#MeTooと#TIMESUP
ハリウッドを震源地として世界中に広まった#MeTooムーブメントも大きなターニングポイントの一つです。
2017年10月、大物プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインによるセクハラや性的暴行被害を数十名が実名で告発するという事件をきっかけに、SNSで「#MeToo」というハッシュタグをつけて被害経験を語る動きが広がりました。ハッシュタグを呼びかけたのも、俳優のアリッサ・ミラノでした。
翌1月に行われたゴールデン・グローブ賞の授賞式では、性暴力被害者への連帯を表す黒いドレス姿の俳優陣でレッドカーペットや会場が埋め尽くされる異様な光景が広がりました。
この動きは性被害撲滅を訴える「#TIMESUP」に収斂されていきます。
2018年1月、映画やテレビ業界に携わる300人以上がニューヨーク・タイムズ紙に全面広告を掲出。
俳優のナタリー・ポートマンやリース・ウィザースプーンなどもこの運動の支援を表明しています。
『Time’s Up』は現在は、性被害者のサポートだけでなく、男女の賃金格差問題など職場のジェンダー平等にも取り組んでいます。
「女性たちよ、立ち上がって」と呼びかけたフランシス・マクドーマンド
#MeTooムーブメントから半年後の2018年のアカデミー賞授賞式でも、力強いスピーチが話題となりました。
『スリー・ビルボード』で主演女優賞を獲得したフランシス・マクドーマンドは、スピーチの最中に突然オスカーを床に置くと、「これからのことについて話したい」と切り出しました。
「すべてのカテゴリーでノミネートされている女性たちが、今夜この部屋で私と一緒に立ち上がってくれたらとても光栄です」
マクドーマンドの呼びかけに応じて、様々な部門でノミネートされている女性たちがその場で立ち上がると、会場からは大きな拍手と口笛が。
「みなさん、周りを見回してみてください。私たちはみんな語るべきストーリーがあり、資金を必要とする企画があります。どうか、この話を今夜のパーティーの席でするのではなく、数日以内にあなたたちのオフィスに私たちを呼んでください。私たちのオフィスに来てくれても、どっちでもいいんです。そこでお話ししましょう。今夜みなさんに言い残したい2つの単語は、Inclusion Rider(インクルージョン・ライダー)です」
BBCによると、インクルージョン・ライダーとは、俳優が出演契約を結ぶ際に付帯条項(rider)の追加を要求し、職場の包摂性(inclusion)を確保しようというもの。
2016年にステイシー・スミス博士がTEDトークで紹介した造語で、女性や少数民族、障害者などのマイノリティーをメディアに登場させる機会を増やす方法です。物語の展開に必要な登場人物以外の脇役について、実際の人口比を反映させるようなキャスティングをすることを主要人物を演じる俳優が要求すれば、映画制作現場の多様性が確保できます。
マクドーマンドのスピーチで、インクルージョン・ライダーという言葉が広く知られるようになり、俳優や脚本家たちからも支持を表明する声が上がりました。
このような流れの中で、2024年度からはアカデミー作品賞の選考基準として、制作現場のダイバーシティの担保を求める新基準が設けられることも決まっています。
女性の監督作品に注目が集まる2021年アカデミー賞
「セルロイドの天井」という言葉を知っているでしょうか?映画業界の「ガラスの天井」をさす言葉です。
アメリカの研究機関の調査によると、毎年の興行収入が高い100の映画のうち、女性が監督した作品の割合は、2020年で16%。これでも2018年の4%から劇的に上昇しました。
#MeToo運動の余波を受けて開催された2018年のゴールデン・グローブ賞では、監督賞のプレゼンターとして登場したナタリー・ポートマンが「それでは候補者を発表します。全員、男性だけどね」と皮肉っぽく述べる場面も。
Ron Howard: "We are honored … to be here to present the award for best director."
Natalie Portman, done with this shit: "And here are the all-male nominees." 🔥 pic.twitter.com/8JboypiADo
— David Mack (@davidmackau) January 8, 2018
ポートマンは2020年のアカデミー賞授賞式では脚色賞のプレゼンターを務めましたが、この時も金糸で女性監督の名前が刺繍された黒いケープを羽織ってレッドカーペットに登場。
監督賞にノミネートされた5人が全員男性だったことに抗議の意を表したもので、「素晴らしい仕事をしたのに認められなかった女性のヒーローたちの名前を、私なりの方法で讃えたの」というコメントを残しました。
Natalie Portman embroidered her Dior cape with all of the female directors who weren't nominated for #Oscars. Check out her explanation here. pic.twitter.com/kyyo2wVMZf
— Amy Kaufman (@AmyKinLA) February 10, 2020
先人たちの声が積み重なり、2021年のアカデミー賞では、監督賞と作品賞に女性監督の作品が2つノミネートされています。前哨戦のゴールデン・グローブ賞や英国アカデミー賞などでも作品賞と監督賞を受賞し、オスカーの本命とされる『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督は、アジア系の女性監督です。
90年以上のアカデミー史上、監督賞の女性の受賞者はたった1人。歴史は動くでしょうか。
身近な話題からSDGsを考える生番組「ハフライブ」。4月のテーマは、アカデミー賞とSDGsです。「社会や政治を映す鏡」であるアカデミー賞は、2021年という時代をどう映すのか。授賞式直前に、アカデミー賞の「新しい見方」をお届けする60分間です。詳細はこちら。
・配信日時:4月22日(木)夜9時~
・配信URL: YouTubehttps://www.youtube.com/watch?v=Pn_j-eRk5uA
・配信URL: Twitter(ハフポストSDGsアカウントのトップから)https://twitter.com/i/broadcasts/1dRKZNgpYBQKB
(番組は無料です。時間になったら自動的に番組がはじまります)
Source: ハフィントンポスト
1億円のギャラ格差、#MeToo…ハリウッドは女性差別とこう闘ってきた【アカデミー賞】