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予期せぬ妊娠、彼は去った。家も追い出され、ネットカフェで過ごした女性の決断

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2月に出産したばかりの女性

「お金がなくて病院にも行けない。堕ろせない時期になって、住む家もない。パニック状態でした」

2月に出産した女性は、妊娠中のことをそう振り返る。ギリギリのところで支援団体につながり、シェルターに入って出産。子どもは特別養子縁組をする予定だ。

1月、栃木県内のショッピングモールで出産、その場で子どもを殺害したとして女子高生が逮捕された。2020年11月には、就職活動のために訪れた東京・羽田空港で出産、生まれた子を殺害して遺体を都内の公園に埋めたとして女性が逮捕。こうした事件は後を立たない。

予期せぬ妊娠を誰にも相談できず、1人で出産する女性。その背景には何があるのか。

当事者の女性と支える団体に取材すると、特別養子縁組という手段を知ることの大切さや、母親だけが全責任を追わせられる社会のいびつさが浮かび上がった。

 

男性は去った。お金も住む家もなくパニックに

25歳の女性は2020年の夏、妊娠に気づいた。子どもの父親でもある交際相手の男性と一緒に暮らしていたが、経済的に子育てをするのは難しいと感じ、出産を諦めようと2人で決めた。

しかしそれ以降男性は「本当に俺の子?」などと言うようになり、中絶に関する話し合いにも応じなくなる。自宅にも入れないようにされ、着の身着のまま、生活用品も持たないまま家を失った。

実家とも複雑な関係で頼れない。少ない貯金はどんどん減っていく。行く場所が思い浮かばず、少しずつ大きくなるお腹を抱えてネットカフェに1カ月ほど1人で滞在。やっと寝転がれるほどの小さなブースで、人の気配を気にしながら過ごした。幸いつわりはあまりなかった。

その後心配した友人宅に身を寄せるが、胎動を感じ始め、より追い詰められる。お金がなく、妊娠に気づいて数カ月、病院に一度も行けていなかった。

女性は以前、夜の飲食店で働いていたが、新型コロナウイルス感染症の影響で客足が減り、妊娠前に辞めていた。コロナ禍で、妊婦。新たな仕事を見つけられるとは思えなかった。

さらにこの頃、友人宅を出なければいけない時期も迫っていた。

「堕ろせない時期になっているし、住む家もない。パニック状態でした。経済的に1人では育てられないし、『この子をどうしよう』というのしか、頭になかった」

男性からは全ての連絡を拒否され、連絡が取れない。どうにかお金を工面して病院に行けたのは11月。すでにお腹の子は7カ月になっていた。

途方に暮れる女性に、診察した医師は「特別養子縁組という選択もあります」と説明。制度について説明した書類も手渡した。

特別養子縁組とは、生みの親が育てることができない子どもを育ての親(養親)に託し、子どもと育ての親は家庭裁判所の審判によって戸籍上も実の親子となる制度だ。女性にとって、初めて知る選択だった。

 

「他人事じゃない。頼れる人もいなくて、追い詰められる気持ちは分かる」

イメージ

女性は小学校3年から高校卒業まで、母親と離れて育った。シングルマザーだった母親は働き詰めで、経済的な問題も抱えていたからだ。「この子に寂しい思いをさせたくない」。その気持ちが、特別養子縁組への気持ちを強くした。

そこからの行動は早かった。インターネットで特別養子縁組を行う団体について調べるうちにNPO法人「Babyぽけっと」を知り、連絡。住む家がなかった女性にとって、出産前後に暮らせるシェルターがあるというのも大きな安心感だった。

Babyぽけっとは相談を受けた翌日、スタッフを派遣して女性と面会。女性は11月下旬にはシェルターに入り、出産までを落ち着いた環境で過ごした。

女性自身、特別養子縁組や支援団体について知る前の状況を振り返ると、相当追い詰められていた、と感じるという。1人で子どもを産んで手にかけてしまう女性の報道を見るたび、胸が痛む。

「他人事じゃない。頼れる人もいなくて、追い詰められる気持ちは分かります。その人たちも、Babyぽけっとのような場所があることや特別養子縁組という選択もあるんだと知っていれば、何か変わったのかもしれない」

そう感じたのが、取材を受けた理由のひとつだった。取材したのは、子どもと離れる前日。子どもは今、養親の元で暮らしている。裁判所の審判を経て、戸籍上も養親の実子になる予定だ。

「無事に生まれてきてくれただけでいい。きっとこの子にとっては、養親さんの方がいい。幸せになってくれると思います。子どもが笑っていてくれれば、それで充分です」

 

「父親の分まで母親が命を背負って、さらに責められる」

Babyぽけっと代表の岡田卓子さん

生後間もない子どもが殺されたり、遺棄されたりする事件が起きた時、表に出てくるのはほとんどが母親だ。

「子どもは1人ではできないのに、父親の分まで母親が命を背負って、さらに責められる。本当におかしいですよね」

Babyぽけっとの代表・岡田卓子さんはそう憤る。

厚労省のまとめによると、2003年7月から2018年度末までに生後0日に心中以外の虐待で亡くなった子どもの累計は156人。加害者は実母が141人で9割を超える。予期せぬ妊娠で、母子健康手帳は未交付、妊婦健診は未受診という事例も多い。

報告書では、生後0日での事例は「妊娠後から出産までの間の実父の存在が確認できない事例が多い」とまとめており、実父の年齢すら「不明」が 93人と7割を超える。

妊娠から逃げられず、追い詰められた女性だけがどうして責められるのか。これまで11年間、子どもを育てられないと感じた妊婦を支援し、500人ほどの特別養子縁組を成立させてきた中で、岡田さんが感じ続けている疑問だ。

実父の関わりがないことに加えて、「妊娠は自業自得」「なぜもっと早く病院に行かないんだ」「中絶すればよかっただろう」など、予期せぬ妊娠をした女性に対し、周囲から厳しい言葉や眼差しが向けられることも多い。インターネット上にもそうした言葉が溢れる。

周りに責められるかもしれないと感じ、周りに相談できない女性も多い。行政や産婦人科ですら、「事情を話せば怒られるかもしれない」と行けない人もいる。

「『なんで?』とお母さんを責めても仕方ないし、生まれてくる子どもにはなんの罪もない。大切なのは、お母さんに『大丈夫。よく相談してくれたね』と言ってあげること。一番大切なのは、お母さんと子どもを助けることですから」

岡田さんはそう訴える。

 

SOSを受け止められる社会なのか

イメージ写真 居場所がなく、漂う若年妊婦たち。背景には、虐待や貧困などがあることも。

相談を寄せる女性の背景は、非常に厳しいことがほとんど。虐待や貧困が背景にあることも少なくない。

親からの虐待やパートナーからのDVを受けた経験がある、親子関係が悪く相談できない、自分または親などによる借金を背負っている、風俗関係で働いており父親は誰か分からない…。その複雑さが予期せぬ妊娠につながり、さらに孤独を深める原因にもなっている。

岡田さんは一つ一つに向き合い、調整し、手続きに同行し、特別養子縁組への意志を確認し、出産後のサポートも行う。

「産んでも育てられないと感じて自治体に事情を説明したら、『シングルマザーとして育てるなら支援がありますよ』と言われ、どうすればいいか分からずうちに相談したという人もいるんです」

自治体などへの相談で、女性に寄り添えきれていないのではと感じることもあるという。

「特別養子縁組という選択もあること、うちのようにお母さんが出産前後に安心して暮らせるシェルターを持つところもある、ということももっと伝わってほしい。自治体と民間団体の連携も、もっと強化する必要があるのではないでしょうか」

1人で出産し、子どもを殺してしまう事件を耳にするたび、岡田さんは「うちに連絡してくれれば」「SOSさえ出してくれれば」と心が痛む。女性を責める前に、困った時にSOSを出せる社会、その声を受け止められる社会になるべきだと、支援の現場から強く感じている。

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Source: ハフィントンポスト
予期せぬ妊娠、彼は去った。家も追い出され、ネットカフェで過ごした女性の決断

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