「若い世代の力で政治は動いていく」国連のUN Women日本事務所長に聞く、ジェンダー平等のためにできること

女性差別の撤廃やジェンダー平等の達成を目指し活動する国連の「UN Women」。日本事務所で2017年から所長を務める石川雅恵(いしかわ・かえ)さんは、日本のジェンダーギャップ121位という現実を直視しつつも、「絶望はしていない」と語る。それは、若い世代を中心とした「変化」を目にしているからだ。 

UN Womenの活動や石川さんのキャリア、そして日本のジェンダーギャップをめぐる現在地について思うことを聞いた。

 

UN Womenとは? 男性の参加を呼びかけたエマ・ワトソンのスピーチ

2010年に国連で設立された「UN Women」。

ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを推進するための機関で、政治参加や社会進出などの女性参画、女性に対する暴力の撤廃などを目標として、国際基準を策定する支援や啓発・広報活動などを行っている。

UN Womenの活動が注目を浴びたきっかけの一つが、エマ・ワトソン氏のスピーチだ。男性への参加を呼びかける「HeforShe」キャンペーンの一環として行われたもので、ワトソン氏は「ジェンダーの不平等を終わらせるために一人一人が参加することが不可欠」と提言した

 

日本事務所は2015年に開設した。日本政府からの資金調達をはじめ、イベント開催など、政府や企業、学術界、市民団体、メディアと連携する取り組みを続ける。 

日本事務所で所長を務める石川さんは、2017年に就任した。

「健康や教育などの水準で見てみると、世界の中でも日本は大変恵まれている国。しかし、同時にジェンダーギャップの視点では大きく遅れをとっている国でもある」。石川さんはそう指摘する。

「この国で世界の女性たちが置かれている状況を伝えることや、ジェンダーギャップを解消するため、自分でも何かできることはあるのではないか、と思ったんです」

 

夫と子供はアメリカ暮らし、日本で単身赴任中。キャリアと葛藤

2017年に日本事務所長に就任するまで、石川さんは約20年にわたり海外を拠点に国連機関で働いていた。現在は日本に単身赴任中で、夫と一人息子はアメリカで暮らしている。

事務所長のポストを打診された時は、チャンスだと思いながらも、心は揺れたという。 

「妻が単身赴任して夫は女性活躍を応援している、という美談に見えるかもしれませんが、実際は全くそうではありませんでした。夫は家族が一緒にいることが大事だと難色を示していましたし、意外にもアメリカのママ友や国連の同僚からも『家族と離れるなんて信じられない』、とも言われました。家族を大事にするという考えが強くあるからだと思います。

でも、断ったら私は後悔するだろうし、後悔しながら生きていくといずれ夫に恨みを持ってしまうかもしれない。恨みを持った生き方はしたくないですし、夫に対して『あなたがわかってくれなかったから私はこの仕事をできなかった』と思いながら過ごすことは苦しいだろうと思ったので、真摯に話し合いを重ねました」

話し合いの結果、日々のテレビ会議やできる限りアメリカに戻り家族との時間を確保するという約束をして、日本に単身赴任することを決めた。

その決断をした時、実の母親から言われた言葉が支えになったという。

「実の母から、『やるんだったら、絶対に息子や夫に対してかわいそうとか申し訳ないと思ってはいけない。彼らのためにもなるからこそ自分はこの仕事をやるんだ、と思わないと、絶対に続かないから』と言われました。自分のためだけではなく、彼らためになるからやるんだと言われたんです」

それから4年間、日本とアメリカを行き来しながらUN Womenの日本事務所長として奮闘を続けている。当時8歳だった息子は12歳になった。夫や子供とは、UN Womenで取り組みやジェンダーの問題について会話をすることもあるという。

「ある日、家電量販店に洗濯機を買いに行った時、『お母さんが気に入った洗濯機を買えばいい』と言った店員に息子が『それはSexist(性差別者)のコメントだね』と言ったんです。私がこの仕事をして、家でも少しずつ会話をしていたことが彼のそのコメントに結びついたのかな、と思うとすごく嬉しくなりました」

自分が誇りを持って続けている仕事が、息子や夫にも変化や影響をもたらしている。母親の言葉が体現されたようにも感じ、今でも背中を後押ししてくれるという。

 

花を渡すのは、なぜ女性が多いのか。有害な「ジェンダーステレオタイプ」をなくしたい

そんな石川さんが力を入れるのが、人々が無意識のうちに持つ偏見やステレオタイプをなくすための活動だ。

アンステレオタイプ・アライアンス(固定観念をなくす)」というUN Womenの取り組みで、主に広告などの企業の広報活動において、“有害な”ジェンダーステレオタイプを撤廃することを目的としている。アフラック生命保険や損保保険ジャパン、東京海上日動火災保険、大和証券グループ、コカ・コーラ、ヤマハなど12社が会員となっている。

家事用品のCMで料理や掃除をするのは、いつも母親。かたや、車のCMでは父親が運転をしている。一つひとつの表現は些細だが、気がつかないうちに、そうした表現は私たちを「男らしさ」「女らしさ」の枠に押し込めてしまう。

石川さんは、「いわゆる“炎上”を避けて、広告でジェンダーを描くことを控えるよう伝えるわけではない」と強調する。

「『父親が洗濯をしている』シーンにするなど、ステレオタイプをなくすためのポジティブなきっかけを作ることを推進する活動です」

ジェンダーステレオタイプをあらわす一例として、ニュースなどでよく目にするある光景を挙げた。

「広告だけではなくて、そうしたステレオタイプは日常のいたるところに潜んでいますよね。今私がやめてほしいなと思うのは、政治家や企業役員など、偉い人が引退するような場面で女性が花束を渡すことです。『女性がいると華がある』と言われるように、女性が『見られる立場』でいるということを表している場面だと思います。

日本だけではなく、世界でも共通していることですが、女性は『サブジェクト(主体)』ではなく男性目線で『オブジェクト(客体、モノ化)』とされている。

ファッション雑誌でも多く見られるような『モテファッション』や『愛され系』といった言葉も、その社会を反映しているように思います。これを当たり前にしてはいけないですし、そういった表現やメディアのあり方は今後是正していくべきだと思います」

「組織力を作ることで政治は動いていく」

日本のジェンダーギャップ指数は121位。先進国の中でも女性の社会進出や差別撤廃の面で大きな遅れをとっている。

しかし、石川さんはそうした現実を直視しつつも、「絶望はしていません」と語る。

ジェンダーをはじめ環境問題など、社会課題についてZ世代が声を上げ初めているからだ。

最近では、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会元会長の森喜朗氏が女性を蔑視する発言をしたあと、20〜30代の女性を中心に抗議署名が立ち上がった。石川さんはこうした動きについて、「とても頼もしく感じます」と感嘆する。

「特に経済と政治において、日本は遅れをとっています。民間企業はステークホルダーとして、消費者であり将来の働き手でもある若者の動きを顕著に見ていますが、政治の面では若い世代の意見に敏感に反応することは少ないと思います。それでも、若い世代から声が上がっているのを見ると希望を感じます」

石川さんは、若い世代同士が連帯しネットワークができることで、日本の経済や政治に影響を及ぼすような大きな力になる、と語る。

「今の政治家は、女性や若者の意見を聞かなくても選挙で票を獲得できるというのが現状です。政治家は選挙に勝つため、票を動かす相手として個人よりも組織の力を意識する。そのためにも、『この人たちをないがしろにしたら選挙に勝てない』というような組織力を若い世代の方にはどんどん作り上げていってほしいと思います。そうすることで、政治は動いていくはずです。

若い方の中には、『自分は何も変えられない』と思う方もいるかもしれない。でも絶対に変えられると思いますし、若い世代の力を押し上げていきたいと思っています」

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Source: ハフィントンポスト
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