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女性官僚のロールモデルになろうとしていた。『宇宙人』と呼ばれた須賀千鶴さんが、変革期に示したチームのあり方

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新しい時代を、新しいやり方でつくるーー。

2018年に官民で設立された「世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター」。進化を続けるテクノロジーを統御し、新たな社会課題を解決するために必要なルールづくりを行うことをミッションとした組織だ。経済産業省から出向し、そのリーダーを務めるのが、須賀千鶴さんだ。

 

ロールモデルの限界

「巻き込み大魔神」「すぐにチーム須賀が出来る」、人並み外れたリーダーシップ能力を持つというのが須賀さんに対する仲間たちからの評だ。

須賀千鶴さん

大学卒業後は、経産省に入省。当時の女性官僚の比率はわずか7%だった。圧倒的な少数派の中で、女性官僚・女性リーダーのロールモデルを示すことが誰かの勇気になる、それが使命だと当時は感じていた。

入省当時、経産省にはいわゆる「本流」の生き方があった。月の残業が100時間を超えて初めて一人前。200時間は「普通」。300時間でようやく「頑張っている」。しかし周囲が長時間の残業をする中でも、自分の仕事が終わったら帰らせていただく、というスタンスを1年目のころから表明した。この星の常識が通じない「宇宙人」とでも思っておいてもらったほうが生きやすいと考えていた。

「上司をお見送りしてから帰ろうとすると絶対に100時間を超えてしまう。責任感がないわけではないけれど、本当にやらないといけないかの判断は自分でさせていただく、自分の責任感を物理的に上司の前に張り付くことでは示さない、と始めからずっと思っていました」

しかし働きはじめて結婚・出産・育児を経ると、「ロールモデルのひとつを示さねば」という気負った使命感を再考するようになる。それは、後輩に優秀な女性官僚が増えて安泰だと思っていた頃のこと。複数の後輩の女性たちが同時期に辞めたいと言い出し、人事担当者の要請で彼女たちの相談に乗ることになったのだ。

彼女たちの口から語られたのは、働きたくても働けない、様々な条件と制約だった。子供を保育園に預けると毎回泣かれる。深夜まで仕事がある中、実家にも頼れない、夫に家事育児を任せられないなど。それに対して自分は、実家に電話すればすぐ両親が飛んできて子どもの面倒を見てくれたり、夫が任せろと言ってくれたりする。

「仕事と育児を本当に両立しようとしたときに、物凄く自分はラッキーなのだと自覚せざるを得なくなった」

彼女たちに話を聞けば聞くほど、官僚をやめるしかないという決断が深く理解でき、逆に役所に引き留めることが無責任とすら感じるようなった。

「ロールモデルというのは、『私でも出来たからみんなにもできるよ』というメッセージで、無責任に人を励ます側面があるなと思いました」

 

須賀千鶴さん

「24時間働けます」という官僚の「本流」の働き方を尊重しつつ、自分は労働時間以外の軸で付加価値を出す「傍流」として生きることをなんとか許容してもらう。そんなやり方を提示していたつもりだった。しかし本流を「ハック」するロールモデルを続けていては、ハックするリソースがない人にとってはその職場は生き続けられない場所になってしまうことに気づいたのだ。

「彼女たちを失ったのは役所の長期的な経営戦略としては明らかなマイナスだったと思います。だからこそ、そういう人たちが働き続けられるようにするためには、『宇宙人なので、すみません!』と自分だけ見逃してもらうようなやり方ではなく、全体の働き方改革に取り組まなければ、本質的な解決になっていないと思うようになりました」

 

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターの哲学

ロールモデルとしての限界に直面した頃、経産省から世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター(日本センター)に出向する。多様な背景や生き方を重んじる働き方、それを霞が関から離れた出島で試して制度化するのも一つの目標だった。

日本センターではパンデミック以前からリモートワークが基本で、フレックスタイム制を採用し、アウトプットを出せばインプットの量は問わない。一方、議論や作業はチーム一丸になって行う。「チームとして機能しながら、自由や多様性を維持する働き方ができていると思う」と語る。こうした働き方が苦手な人はいるかもしれないが、少し強引にでも持ち込んだ方が組織全体の経営戦略として最適だと須賀さんは考えている。

「今の労働環境だけを考えると役所に残る若手なんていないはず。それでも残る人、戻ろうとする人がいる理由は、バランスさえ取れれば仕事自体には物凄くやりがいがあるから。『やりがい搾取』が成立してしまうぐらいに。今の世界は大きな変革期を迎えています。そんな変革期こそ、役所を含めて公益に関わる仕事は面白いんです」

人類は今、絶頂期にある、と須賀さんは言う。特に日本センターが取り組むテクノロジー・イノベーションの分野では、人間の仕事がAIなどに置き換わっていくダイナミックな変化が起こっている。AI以外にも数多くのイノベーションが生まれ、同時に課題が山積している現状は「課題を食べる生き物」だという官僚にとっては、とても面白い時代だという。

「労働環境はマネジメントで解決出来る話で、そこさえ手を打てれば、こんな楽しい仕事はない。辞めていった後輩たちも仕事の面白さが分かっているからこそ悩むんです。悩みを取り除けば、貢献したい人はたくさんいる。こういう変革期に国の意思決定に関われて私は幸せだし、ワクワクしています」

 

テクノロジーの課題をテクノロジーで解決する

少子高齢化でより深刻になっている社会保障と財政の問題。IoTやビッグデータ、AIといった技術革新によって産業構造が変化する「第4次産業革命」の真っ只中にいる私たちにとって、それはさらに喫緊の課題だと須賀さんは言う。

「少子高齢化が進み、社会保障の水準の維持が明らかに難しくなっていく中で、さらに、デジタル化によって一部の企業に富が集中する構造が組み込まれる。第4次産業革命後の世界で健全な再分配のメカニズムをどう維持していくかは、より深刻かつ重要な課題にならざるを得ない。でも、社会保障も財政も、テクノロジーとデータを使ってアップデートする余地は大きい。解決する策がありそうだと思っているんです」

須賀さんは話題になった経産省の若手プロジェクト『不安な個人、立ちすくむ国家』にも携わっていた。様々な成果があったが、「特別だった」と振り返るのは、「答えを出してこそ官僚」というあり方が支配的な中で、「解が完全に描き出せているわけではないが、現状はこうだ」と、率直に提示する新しさにあったのではないかと須賀さんは話す。

高度経済成長期の日本は、様々なステークホルダーの切実なニーズや困りごとに対し、官僚が利害調整を水面下で集中的に行なって、皆がある程度納得できる「答え」を出すことで進んできた。しかし、経済成長率が落ち、社会が複雑になり、多様性への配慮の期待値もあがってきている現在、官僚が全ての利害を調整しきってあらゆるステークホルダーの期待に応え、十分な分配をし続けることは難しくなっている。時には何かを選び、何かを捨てなくてはならないこともあり得る時代になっている。

「少子化のように、打ち手がなくなって『詰んだ』後に投げ出すのではなく、早い段階で、今こんな厳しい状況の中で判断が迫られているということを伝え、判断の前提も含めて結論を示さないと、政府に対する不信に拍車をかけてしまう。急激に社会が変化するデジタル時代には、判断の前提条件が変わったと分かった段階で素早く判断をアップデートすることも重要ですが、肝心の前提はブラックボックスのまま結論だけを答えとして提示していると、単なる朝令暮改に見えてしまい、納得も信頼も得られない」

若手プロジェクトの発表内容に対しては、官僚OBらを中心に「解を示すのが役人の矜持。解がないのに問題だと言うな」というような反応もあったという。しかし須賀さんらのグループはそれ以上の支持を得て「官僚」のあり方についてもアップデートが必要だと示した。その後、同様のプロジェクトは様々な省庁や企業、コミュニティで動き、変革の手応えを感じているという。

個人が不安を抱え国家が立ちすくむ中、国家機構の中の官僚もまた苛酷な労働環境を前に立ちすくんでいる。また、課題の量や質が大きく変わる中で、官僚のあり方もまた、アップデートを迫られている。

テクノロジーで激変する社会の中で、テクノロジーも用いながら、より良い社会を作るために。須賀さんの挑戦は、これからも続く。

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社会課題解決のため、政策を「起業」する時代が到来しています。

官僚や政治家だけでは解決できない複雑な政策課題に向き合い、課題の政策アジェンダ化に尽力し、その政策の実装に影響力を与える個人のことを「政策起業家」と呼びます。そんな社会を変える「政策起業家」を紹介する企画をシリーズでお届けします。

(執筆:貫井光、相部匡佑、小宮山俊太郎、向山淳 編集:泉谷由梨子)

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Source: ハフィントンポスト
女性官僚のロールモデルになろうとしていた。『宇宙人』と呼ばれた須賀千鶴さんが、変革期に示したチームのあり方

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