生理をめぐる社会状況が激しく動いている。そう、多くの女性が悩まされる「生理」だ。
変化の背景に、政治や経済の世界でようやく女性が意思決定権を持ち始めたという状況があるのではないか。
若い世代のSNSでの発信や悲鳴を課題として受け止め、世の中の環境作りをして、施策へとつなげる女性たちに、取材を通じて出会った。
見えてきたのは、意思決定層に女性が増えることが、社会の様々な場所にある「生きづらさ」を解消することにつながるのではないか、ということだ。
生理は「恥ずかしい」もの。貧困状態では後回しに…
人によって異なるものの、生理は多くの女性が40年近く付き合うもので、非常に身近でありながら、なかなか語られる事が少ない。タブー、といってもいいだろう。コンビニで生理用品を買うと紙袋に包んでくれる。「持っているのを見られたら恥ずかしいだろうから」という配慮からと思われる。
女性のエンパワーメントを掲げる国際NGOプラン・インターナショナルが今年、日本国内の15歳から24歳までの女性2000人に生理についての意識調査を行った。女性が生きやすい社会をつくるためには生理の問題を直視して支援につなげる必要があるという問題意識からだ。
その結果、「生理用品の購入をためらったことがある・購入できなかった」と答えた割合は回答者の約36%。理由としては、「収入が少ないから(11%)、「生理用品が高額だから」(9%)「恥ずかしいから」(9%)などだった。
また、生理が依然としてスティグマ(恥とみなされること)であることも見て取れる。プランはすでにイギリス、アメリカでも同様の調査を行っているが、類似の結果だった。貧困に苦しむ人々が生理用品を買えない、どうしても後回しになる、というのは「Period Poverty」(生理の貧困)と呼ばれるが、日本でも同じ事が起きていると裏付けられた。
世界から遅れてきた日本の生理をめぐる問題
世界では生理にまつわる取り組みが一足も二足も早く始まっていた。
アメリカでは、生理用品は生活必需品と見なされず課税対象になっている州が多かったが、これに対して女性や若者たちを中心に、生理用品への課税、いわゆる「タンポンタックス」をやめるように声をあげる動きが2015年ごろから広がった。今ではカリフォルニア州など複数の州で税率の引き下げや廃止がなされており、学校での無償配布が始まっている州もある。また、2020年に英スコットランドは、すべての人に生理用品の無償配布を決め、話題になった。
しかし、日本では…。
アーティストのスプツニ子!が男性が生理を疑似体験する「生理マシーン、タカシの場合。」を発表したのは2010年。世の課題を敏感にかぎとり、先取りして話題になったが、そのあとも日本社会で議論はあまり深まってこなかった。
動く民間企業。「生理はなかったことにされてきた。でも…」
だが、ここにきてようやく歯車が動き出した。
生理用品メーカーとして最大手のユニ・チャームはナプキン・タンポンブランドの「ソフィ」を擁する。そのブランドマネージャー、長井千香子さんは2019年「#NoBagForMe」というキャンペーンを仕掛けた。社会の生理に対するタブーを減らすため、生理用品を買うときに包んでくれる紙袋を「いらない」と言う選択肢を後押ししよう着想されたものだ。ハヤカワ五味さんや菅本裕子さんなど、女性起業家やインフルエンサーらがプロジェクトに関わった。
日本ではこれまで、タンポンの使用者が伸びてこなかった。思わず手に取りたくなる素敵なパッケージにすれば、購入する人も増えるかもしれないし、生理をタブー視する風潮に疑問を投げかけられるかもしれない。
実際、一般の人たちによる投票キャンペーンでもっとも人気のあったデザインが商品になると、18〜24歳の若年層のタンポン使用が1年で約20万人増加したという。SNSでは「パッケージがかわいい」、「タンポンを初めて使った」などの反響のなかで、「男性にも生理を理解してほしい」という声があった。
こうした反響も後押しとなり、長井さんらは男性にも生理のことを知ってもらおうと、さまざまな企業にむけて生理教育を始めたり、タブーをなくしていくための様々取り組みに継続的に取り組んでいる。
「今まで生理はなかったことにされていた。黙って我慢するのではなくて、もっと快適になるよう声をあげられる社会になるといいと思います」(長井さん)
伊勢丹新宿店では2021年の2月から3月にかけて、女性の身体と心の健康に焦点をあてた期間限定店をオープン。ナプキン代わりに使う人が増えている吸水ショーツなどを置き、非常に好評だった。企画したのはバイヤーだった桑原麻友子さんだ。桑原さんは「百貨店のようなオープンで誰でも訪れることができる場でこそ、女性の生き方を変える多様な商品を提案することに意味があると思う」と言う。
そして政治家も動き始めた
生理をめぐる問題で無視できないのは、若い世代の動きだ。大学生らで作る団体「#みんなの生理」は2019年、生理用品の軽減税率を求めて署名活動を起こした。2021年2月には生理用品にまつわるアンケートをして、約20%が過去1年以内に「金銭的理由で生理用品の入手に苦労したことがある」と答えた。
その声を受けて、政治も動いた。2021年3月の参議院予算委員会で公明党の佐々木さやか議員や立憲民主党の蓮舫議員がこの問題を質問したのだ。対策を迫った蓮舫議員に、菅義偉首相は「(対応にあたるNPOの)活動を少しでも後押しできればいい」と答えた。そしてコロナ禍の女性支援の交付金の使途の中に生理用品の無料配布が含まれることになった。
蓮舫議員がこの問題を取り上げたようと考えたきっかけは、10代の女性を支援する団体の活動現場に出かけたことだった。貧困に苦しむ女性たちと、それを支える女性スタッフたちを目の当たりにして、「政治家の自分ができることをやろうと思ったのです」と蓮舫議員は語る。
生理の問題は、女性が意思決定層にいる意義を再確認させる
ここまで日本で生理をめぐる状況が動いたのはなぜか。
それは、政治や経済といった社会の要職、意思決定層に女性が就くようになったからだろう。
前述したユニ・チャームの長井さんや、伊勢丹の桑原さんは40歳。自らの権限を持って組織の中で生き生きと活躍している。
政治の世界でも数はまだまだ少なすぎるものの、蓮舫議員のように党の幹部を務め、影響力を持つ女性が出てきた。若い人たちがSNSなどで声をあげたり、行動するのに対して、それを受け止める素地がようやく出来てきた。これまでの男性中心社会では置き去りにされていた問題が可視化され、解決に向けて動くことが可能になってきたのだ。
生理をめぐる動きは一つ一つがそれぞれ意義深い。だが一番肝心なのは、社会構造の変化こそが、問題を解決に向かわせているという点だ。
*
日本はジェンダーギャップ120位、G7最下位。
こうした結果を受けて「女性の議員や管理職を増やそう」というと、「性別は関係ない」「数値目標は逆差別だ」などの反論がある。
しかし、生理関連の急速な進展は、政治や経済など社会のさまざまな層で女性が意思決定に関わることで、生きづらさが解消される人が増えると示しているのではないだろうか。
これは、永田町・霞が関だけの狭い意味での政治ではなくて、広い意味での政治ーー生きやすい社会システム作りーーでもある。生理は社会の構造変化の象徴なのだ。
Source: ハフィントンポスト
生理の問題が日本で動いた。意思決定層に女性が増えれば、社会は「生きやすく」なる