「若さや新鮮さ」を求められることが多い女性アイドル。次々と新しいグループがデビューしたり、数年でメンバーが「卒業」したりと、入れ替わりが激しい。
2012年にデビューし、メンバー全員が「アラサー世代」となった声優アイドルユニット『i☆Ris』(アイリス)は、そうしたアイドル業界の中でも珍しい存在だ。1人卒業したものの、今も結成当時のメンバー5人で活動している。
12年目となった今年、「自分たちがアニメ映画になる」という前人未到の道に辿り着いた。5月17日に公開された劇場版アニメ「i☆Ris the Movie – Full Energy!! –」だ。
年齢を重ねることは、マイナスとして受け取られる側面もある。アイドルであれば尚更だ。
でも、本当にそうなのか。リーダーの山北早紀さんと久保田未夢さんに、「アイドルとしての表現」、そして「活動を通して伝えたいこと」について、12年間の変化を聞いた。
◆活動を重ねたから、「かっこいい曲」もハマるようになった
劇場版アニメ「i☆Ris the Movie – Full Energy!! -」は、i☆Risが声優アイドルユニットの第一人者として活動してきた12年間の歩みを振り返りながら、今後について考えていくストーリーが描かれている。
活動初期はメンバーが声優を務めたアニメ『プリパラ』の主題歌をはじめ、キラキラとしたかわいらしい曲が多かった。だが今は、アニメ『賭ケグルイ双』のエンディングテーマ曲『Queens Bluff』や、切ない失恋ソング『12月のSnowry』など、表現の幅が広がってきたように見える。
久保田さんは「最近かっこいい楽曲が増えてきたと言われるんですが、実は新人の頃も、カップリング曲を中心に、たくさん歌っているんですよね」と話す。
「ただ当時のi☆Risちゃんは全員、アイドルや声優の経験が少なかったので、あの頃はただただがむしゃらだったというか、ちょっと背伸びをしているというか…。一生懸命頑張って『かっこいい』を作っているという感覚でした」
女性アイドルは、20代半ばごろまでに活動を終了する人も多い。
だがこの12年間、久保田さんは『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』などでの声優活動、山北さんは作詞家、芹澤優さんは声優活動の他にソロアーティスト活動、茜屋日海夏さんは映画や舞台の俳優、若井友希さんはシンガーソングライターなど、メンバーそれぞれが「自分のやりたいこと」に正直に、活動の幅を広げるようになった。
「今の私たちは年齢も重ねてきましたし、みんなが声優としていろんな役を演じたり、さまざまな活動をしてきたりしたことで、どんな雰囲気の楽曲も、ちゃんと自分たちの曲として表現できるようになってきたんじゃないかなって思います」
◆同年代の人々に希望や元気を届けたい
山北さんは年齢を重ねることにより、「活動を通して何をしたいのか」にも、ある面では変化が出てきたと語る。
過去のライブでは、「最初は紅白歌合戦に出たいという目標を掲げていたけれども、最近は現実が見えてきて、そういうことも言えなくなってしまった」と、正直な思いを話していた。
ではi☆Risは今、なんのために活動しているのか。
山北さんは「明確な答えは出せませんが、大前提として、楽しいから。そしてもっと大きい会場でライブをしたい。今より売れていいと言ってくれるファンがたくさんいますし、私もそう思っています」と野心を燃やす。
それに加えて33歳になった今、活動を続ければ続けるほど、先輩や同年代のアイドルが少なくなってきたことも、気持ちの変化を加速させていると振り返る。
「体力面にはもちろん課題が出てきます。でも30代女性である自分がアイドルを続けていること自体に、励まされるなどと言われることが増えました」とした上で、こう語る。
「歳をとることはマイナスのように語られがちですが、必ずしもそうではないと思うんです。今だからできるパフォーマンスで、同年代の人々に希望や元気を届けたいからこそ続けている、という感覚も個人的には強いかな」
また、長く続けたからこそ経験できた嬉しい出来事もたくさんあった。
その1つが、仕事で他のアイドルに会うと、「小さい頃見ていました!」と感激してもらえること。そして、声優や主題歌を担当していたアニメ『プリパラ』の放送時(2014〜2017年)に子どもだったファンが、ライブにきてくれるようになったことだ。
「放送当時、『大きくなったら、お金を貯めて会いに行きます』という手紙をたくさんもらいました。だけれど、多くのアイドルの場合、その頃には活動を終了しているケースが多い。だから、なかなか辿り着けない道でもあって、長くやってきて本当に良かったなって」
◆アイドルに「永遠はない」というリアル
主題歌の「愛 for you!」は、i☆Risが作詞を担当した。メンバー5人が書いた思いを若井友希さんがまとめ、山北さんが「最後にスパイスを加えた」という。
「賞味期限は遠くないから」
「婚活適齢期真っ只中」
「逃げたい辞めたい誰にも言いたくない」
こうした歌詞は、アイドルの楽曲としてはリアルかつ等身大で、攻めたものだという反響もあった。
久保田さんは「アイドルという仕事は、みんなが見ているキラキラとした面はほんの一部で、泥臭い部分も多い。そんなリアルも詰め込まれた曲だと考えています」と話す。
歌詞の中には、「もう少しあと少し一緒に夢を見に行こう」など、活動に終わりがあることも示唆されている。
山北さんは「私も『アイドルは永遠に続くものではない』と思っていたけれど、友希ちゃんが最初にまとめてくれた段階の歌詞は特に、ちょっとしょんぼりと寂しくなっちゃう部分もありました」と振り返る。
「ただ、いつまでも続けたいと言っていた時期もあるのですが、リアルに考えると、どんなものにも終わりがきます。だからこそ、『期限があるからこそ、今を楽しもう』というニュアンスが感じられる、より前向きな歌詞に仕上げました」
みんなが書いてくれた12年の思いを込めることができたといい、山北さんは「過去最高傑作なんじゃないかな」と太鼓判を押す。
「全アイドルを応援するオタクに聞いてほしいし、アイドルとして活動している人にも刺さると思いますね。やっぱり良い意味で私たちのリアルが入っていて、偽っていないから」
◆まだ12年。もう1、2段階くらいギア上げた景色を見たい
12年間活動し、本人たちが劇場アニメになるという前人未到のところまで来たi☆Ris。
山北さんは、「前人未到になっているつもりは、自分的には全然ないんですよ。今もずっと新人のつもりでいますし、 内面的なところはほぼ変わっていません」と笑う。
今回の劇場アニメは、自分たちが登場人物としてアニメ化されるという点で、2次元(アニメなどのキャラクター)と3次元(実在する人物)の中間である「2.5次元コンテンツ」の1つとも言える。
久保田さんはこれまで、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の朝香果林役や、『プリパラ』の北条そふぃ役など、アニメやライブなどで2次元と3次元を行き来する作品に多く携わってきた。
これまでの経験について「やっぱり、2次元でも3次元でも、自分と全然違う役柄になることは楽しい。それと同時に重荷というか、プレッシャーが大きい部分はあります」と久保田さん。
「ライブなどで何か間違えてしまった時に、私自身が非難されるのは良いんですよ。ただ、その自分が演じているキャラクターに非難の声が向けられるのは申し訳ないんです。自分はその子を演じている役者でもあるけれど、その子をずっとそばで見てきた 1ファンでもあるから」
そんな久保田さんも、自分役を演じるのは初めてだ。今回、久保田未夢という役をキャラクターとして捉えた方がいいのか、それとも自分自身でいった方がいいのかとても悩んだという。
「考えれば考えるほど自分から遠ざかってしまって。だからもう『私が正解なんで!』という気持ちになって、素直に演じられたので、新たな楽しさがありました」
また今作では、i☆Risの5人の「わたしたちは10年後、どうなっているんだろう…」という葛藤も描かれる。
この問いに対し、山北さんは「正直、誰にも分からないと思います」とした上でこう話す。
「ダラダラと続けるつもりはありません。でも次の10年間の活動で、もう1、2段階くらいギア上げた景色を見たいですね。もっと、今より先があると思っているからこそ、みんな、やめないでここまできたんじゃないかなって思っています」
〈執筆=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版、撮影=川しまゆうこ、ヘアメイク=原田琴実、藤井まどか、菅原利沙、衣装=オサレカンパニー〉
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「若さは正義」と言われる女性アイドル。でも本当にそうなのか?アラサー世代の『i☆Ris』が、ファンから受け取ったもの