「バーレスクの文化は非常に長い歴史を持っているのですが、特に1990年代以降のリバイバルムーブメントから、フェミニズム、セクシュアリティ、人種、障がいなどの多様性、ボディポジティビティといった要素が強調されるようになってきます」
そう教えてくれたのは、ニキータさん。日本で会社員として働いていたが、アメリカのバーレスクに魅せられてロサンゼルスでダンサーとしてデビューした経歴を持つ。
彼女の半生を伺った前編に引き続き、後編ではバーレスク文化をより詳しく紐解いていく。性的なショーだと捉えられることの多いバーレスクだが、その根幹にはどんな哲学があるのだろうか?
服を脱ぐという行為は、抑圧を脱ぎ捨てていくことでもある
──前編では、会社員だったニキータさんがバーレスクダンサーとしてデビューするきっかけのストーリーを伺いました。バーレスクについてもっと知りたいのですが、その魅力を改めて教えていただけますか?
ニキータ:バーレスクのコミュニティの中ではよく「人前で服を脱ぐということは永遠に政治的で、永遠にセンセーショナルなことだ」という言葉を聞きます。
私は、「政治的ってどういうこと?」と長らく腹に落ちていなかったのですが、最近言語化できるようになってきました。
あくまでも私の解釈なのですが、つまり人間が服を着るのって、生命維持のためというより、社会的な役割に応えるためだと思うんですよ。着るものを自分で選ぶこともあるけれど、「選ばされている」ことも少なくない。
だから人前で服を脱ぐという行為は、社会の中でのいろんな役割や抑圧を脱ぎ捨てていくことでもある。でも最後に、脱いでも脱いでも脱ぎきれない自分というものが現れてくるんですよね。それを観客みんなで祝福するという、儀式的な側面があるように思います。
セックスやエロを堂々と楽しむ健全さ
──面白いですね。観客の側にもある種のリテラシーが求められそうですが、ストリップや、日本におけるショーパブとは観客の期待するものも違うのでしょうか?
ニキータ:アメリカのバーレスクコミュニティで感じるのは、とにかくパフォーマーの「自ら脱ぐ」主体性です。
アメリカにも、性的な興奮を求めて観る方や、セクシーな気分になりたいという理由で来るお客様はもちろんいるんですよ。
ただ、アメリカの場合はバーレスクがそれなりに社会に浸透しているので、エンターテイナーとしてのリスペクトがあり、「とにかくヌードが見れればいい」みたいな変な期待値を持って来る方は少ないと思います。
バーレスクには、セックスやエロを堂々と楽しむ健全さがあるんですよね。
バーレスクで表現されるセクシーさは生命力
──性的なものは隠すべき、恥ずかしいこと、みたいな後ろ暗い感じがないんですね。
ニキータ:そうなんです。人が脱いでいく過程を、みんなで「いいぞ!」「イエーイ!」と応援しながら観る。最後、胸が出るのですが(乳首は必ず隠されている)、その瞬間に盛り上がりが最高潮になります。
バーレスクで表現されるセクシーさって、生命力だと思うんですよ。どんな状況でも人は生き抜いていくんだ、という強さに感動してしまう。いろんな体型の人が、自分に誇りを持ってステージに立っている姿を観ていると、本当に祝福された感じがするんですよね。この「多様性の祝福」って、言葉だけだとなかなか伝えられないんじゃないか、と思いますが……
私は、そんなアメリカのバーレスクに本当に人生を救われました。2019年、病気の治療で日本に帰ってきて以来、今は日本を拠点に生活していますが、やっぱりバーレスクが恋しくて何度か見に行っていました。そのたびに泣くほど感動するんです。
なんとかして日本に持って来れないか、と企画したのが、『The American Burlesque Japan Tour 2024 Spring』です。来日するティト・ボニートとジェサベル・サンダーは私の親友でもありますし、ラテン系ゲイ男性と黒人女性であり、アメリカ社会の多様性を代表するという意味でも、日本に紹介するならまずこの二人だという思いが強くありました。
アメリカは決して生きやすい国ではないが……
──ニキータさんは日本での「生きづらさ」から逃れて渡米したとおっしゃっていました。今、また日本で生活していて、苦しさを感じることはないですか? 日本とアメリカ、単純な二項対立で語るのも難しいとは思うのですが。
ニキータ:そう、アメリカって決して生きやすい国ではないんですよ。ひどいことがたくさん起こって、絶望しかないようなニュースが日々流れてくる。でも、それに対して声を上げる人が周りにいてくれる。特に私がいたバーレスクコミュニティではみんなが社会問題の話をしていて、それだけですごく救われました。「悩んでるのは私だけじゃないんだ」「これは構造の問題なんだ」と気づくことができた。
日本にいた時に辛かったのは、「おかしい」と思っても声にする人が少ないので、とにかく孤独だったこと。でも、日本も変わってきていると思います。友達との会話の中でも、自分の生きづらさは自分のせいではないんだ、と言語化し、抑圧のその先を渇望する人が増えてきていると感じます。前は絶望しか見えていなかったけど、希望は確かにある。
抑圧に対する声をあげれば必ずバックラッシュが起こります。でもその時に、少しでも仲間を増やしていくことが大事だと思うんです。
抑圧に対して、なんとか自分を守りながら、なんとか幸せに生き抜き、戦う方法がある、ということを、私はバーレスクコミュニティに教えてもらいました。今回の来日ツアーで、微力ながら日本とアメリカの架け橋になって、希望の一端を担えたら、と願っています。
反発を受けても、乗り越えていきたい
──日本でもこれから、バーレスクが盛り上がっていくという機運を感じますか?
ニキータ:そう思いますよ!
不勉強ながら、私は日本のバーレスクシーンを全く知らないままアメリカに行ってしまったのですが、アメリカで日本のバーレスクコミュニティとも繋がりができました。
今回、「来日ツアー」と言っても、東京、沖縄、大阪のそれぞれに日本のダンサーたちに出演していただきますし、私たちはあくまでも現地のローカルの舞台に「立たせてもらう」という立場。日本には日本のやり方、考え方がある。「多様性の祝福」というテーマで良いコラボレーションができたら嬉しいです。
ティトとジェサベルも、きっと日本のバーレスクシーンからインスピレーションを受けると思っています。
日本には、バーレスクに興味を持ってくれる潜在層がたくさんいると思うんですよ。フェミニズムに関心のある人、LGBTQ+コミュニティ、障がいのある人、それに、外国にルーツを持つ人たちや、とにかく日本社会に生きづらさを感じる多くの人たちも。
日本に根強いルッキズム、そしてエイジズムに抗う力も持っています。60年代、70年代からショーをしてきたレジェンドたちのショー(※)なんてすごい盛り上がりで、あれを見たら、40代なんてひよっこだな、と思いますよ。いつか日本にレジェンドを連れてきたいですね。
これから、私が顔出しでバーレスクやフェミニズムについて語ることで、思わぬところから反発を食らうことは絶対にあると思うんです。アメリカでもそうでした。でも、その時は、学んで得てきた知識や知恵、そして仲間との絆で乗り越えていきたい。そう思っています。
(※)毎年ラスベガスで開催されるバーレスクの最大のフェスティバル「Burlesque Hall of Fame Weekender」の「レジェンドナイト」が有名
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ニキータさんが総合プロデュースを務める『The American Burlesque Japan Tour 2024 Spring』が3月29日の新宿公演を皮切りに那覇、心斎橋、吉祥寺と開催される。
アメリカバーレスク界のトップスター、ティト・ボニートさんとジェサベル・サンダーさんをヘッドライナーに迎えた来日公演では、日本のバーレスクダンサーとのコラボレーションにも注目が集まる。詳細はこちらから。
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バーレスクって、そもそもどんなカルチャーなの? 「性的なショー」だけではない魅力を掘り下げる