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勝手に触られていた胸は、バーレスクで自分のものになった。「自ら脱ぐ」ショーの裏側にあるもの。

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「バーレスクにおいては、自分で主導権を握り、『自分で脱ぐ』ことに大きな意味があるんです」

そう語るのは、アメリカでバーレスクショーを見て人生が変わったというニキータさん。大学を卒業後、日本で会社員として働いていたが、2012年、情熱に突き動かされるまま、「Nikita Bitch Project」というステージネームでバーレスクダンサーとしてロサンゼルスでデビューした。

彼女のキャリアを紐解いてみると、女性の生きづらさや、その抑圧から解放してくれたバーレスクという文化の奥深さが見えてくる。

フェミニズムや多様性の祝福と密接に絡み合う現代バーレスク、そしてニキータさんの挑戦について伺った。

【後編はこちら】
バーレスクって、そもそもどんなカルチャーなの? 性的なショーというだけではない魅力を掘り下げる

 社会に出てから急に「一体の女体」になってしまった

──日本の会社員が、アメリカでバーレスクダンサーとしてデビューするというのはすごい挑戦だと思いました。どんな経緯があったんですか?

ニキータ:どうにも、一言で語りにくい人生を送ってきたと思います(笑)。

大学を卒業し、広告関係の制作会社で働いていたんですが、パワハラ、セクハラが横行する文化で、ずいぶん苦しい思いをしました。

6年くらい頑張って、転職して外資系の広告代理店に行ったんですが、職場がホワイトになると今度は「私そもそも広告の仕事が好きではないのでは?」という疑問が出てきた。

広告って、クライアントさんから「お題」があって、それにひたすら打ち返す仕事。その試行錯誤に面白みを感じる人が大半ですが、私自身は仕事が熟練していくのと反比例して、自分が本当に面白いと思うもの、本当にしたいことが、どんどん分からなくなっていく感覚がありました。

──具体的にどんなセクハラ、パワハラがあったか、聞いても問題ないでしょうか?

ニキータ:新卒の会社や新人の頃の撮影現場などは本当に酷かったですよ。私は当時今よりも体重が多くて、特に胸が大きかったので、胸の大きさを言葉でイジられたり、掴まれたりすることもありました。

時代もあったのかもしれませんが……大学生までと打って変わって、社会に出てから急に「一体の女体」になってしまったような感じでした。

ニューヨークのバーレスクショーで受けた衝撃

──掴まれた!? それはひどすぎますね。

ニキータ:女性の社員って、やたらと「不思議ちゃん」「姉御肌」「お局系」みたいなキャラをあてがわれて、それを演じなきゃいけない圧力をかけられませんか? 一種の接客業みたいですよね。

今思うと可哀想すぎて泣けてきます。忙しすぎてほとんど家にも帰れなかったですし、ギリギリで生きているみたいな感じでした。私、二十代の記憶ほとんどないんですよ、辛すぎて。

だから、なんとか人生をやり直したくて、アメリカに行きたいとふつふつと思うようになって。実は私、生まれたのはアメリカなんです。一歳半で日本に帰ってきてしまったので記憶はほとんどないんですが、ずっと縁を感じて、憧れていました。

それで、「一回行ってみよう」くらいの軽い気持ちで移住を考え始めていた2010年、ニューヨークでバーレスクショーを観たんです。それが本当に衝撃的で。

エロティックで、ダンスやパロディやコメディの要素もあって、「私が好きなものが全部入ってる!」と思いました。ニューヨークに来たらこんなすごいものがしょっちゅう観れるのか!?最高じゃん!と。

私は「ビッチ」になってみたい

──じゃあその時点では「ダンサーになりたい!」と思ったわけではなかったんですね。

ニキータ:「これがあるなら頑張れる」みたいな、今で言う「推し」を見つけたような感覚でしたね。それで東京に帰ってきて、会社を辞めることも決め、本格的に移住の準備を始めようとしていた時に東日本大震災が起きたんです。

あの時、生活の中に「エンターテイメントなんてけしからん」という自粛ムードが漂ってたじゃないですか。

広告業界では多くの仕事がストップしていたので、職場ですることもなく、無意識に緊張感やストレスを抱えていたように思います。そのせいか、発災から1カ月くらい経った時、ある朝起きて、「めっちゃくだらないことやりたい!」と思ってしまった。その時に頭に降ってきたのが、バーレスクでした。

エロティックな要素、パロディ、コメディ…バーレスクには、当時「不謹慎」と思う人も多かった要素が詰め込まれていると感じたんです。でも「なんだあの女は」と批判されたとしても自分を貫くのが「ビッチ」と呼ばれる存在なら、私は「ビッチ」になってみたいと思ったんです。

小学生の時、将来の夢は「ものまね四天王」だったというニキータさん。バーレスクのパロディの側面に強く惹かれたという。画像は「ゴーゴー夕張」(※映画『キル・ビル』で栗山千明が演じたキャラクター)に扮した演目。2017年、カリフォルニア、サンタ・アナの劇場Yost Theaterにて。小学生の時、将来の夢は「ものまね四天王」だったというニキータさん。バーレスクのパロディの側面に強く惹かれたという。画像は「ゴーゴー夕張」(※映画『キル・ビル』で栗山千明が演じたキャラクター)に扮した演目。2017年、カリフォルニア、サンタ・アナの劇場Yost Theaterにて。

ニキータ:だから「Nikita Bitch Project」と名付けて、プロジェクトとしてやってみようと。ちょうど、社会全体で「花見をするかしないか論争」みたいなのが持ち上がっていた時期でした。うちの会社は、花見に会社のお金は使わないけれど有志ならOKという方針になったので、私は「花見で脱ぎます!」と。

「花見で脱ぎます!」人生初のバーレスク

ニキータ:「花見でバーレスクやるので観にきてください」「いただいたチップは寄付します」と言って、夜の桜の木の下、同僚たちとの花見で見様見真似のバーレスクをやりました。もちろん、違法にはならない程度の「脱ぎ」ですよ(笑)。

──会社の皆さんの反応はどうだったんですか?

ニキータ:すごく応援してくれたんですよ。笑って、楽しんでくれました。「ずっとこんなふうに笑いたかったよね」とチップもかなり出してくれて、それなりのお金を寄付できたんです。そしたら自分の中でけっこう吹っ切れて、2011年の夏に渡米しました。

バーレスクについてもっと知りたい、と思って調べていたら、ニューヨークの「スクール・オブ・バーレスク」というアイコン的な学校があると分かり、オープン講座を受講することにしたんです。

「日本でパフォーマンスをやっていたのか?」と聞かれたので、「Nikita Bitch Project」の話をしたら、「絶対に続けた方がいいよ」と言われて、今があります。その後、ロサンゼルスに拠点を移して活動するようになりました。

勝手に触られ、イジられていた胸が武器になった

──「Nikita Bitch Project」って、「ニキータはビッチになれるのかプロジェクト」という意味だったんですね。

ニキータ:そうなんです。プロジェクトなので、ダンサーとして極めていく、という感覚よりも「生きがい」に近いと思います。

後になって、日本に「わきまえない女」という言葉が誕生しましたが、私の中の「ビッチ」のイメージはそれにとても近いです。

──なるほど、フェミニズムと強く結びついているんですね。

ニキータ:バーレスクの文化は非常に長い歴史を持っているのですが、特に1990年代以降のリバイバルムーブメントから、フェミニズム、セクシュアリティ、人種、障がいなどの多様性、ボディポジティビティといった要素が強調されるようになってきます。

その魅力を一言で語るのはとても難しいのですが、バーレスクでは、演者が性的な対象として消費される立場ではなく、自分で主導権を握り、「自分で脱ぐ」ことに大きな意味があるんです。

 【動画】アメリカを代表するバーレスクダンサー、ジェサベル・サンダーさん

私の場合、これまで、勝手に触られ、イジられていた私の胸が、一転して自分の武器になっていく、という感覚がありました。観客を沸かせ、自分自身をエンパワメントするものに変わったんです。

バーレスクダンサーたちは、皆さん胸の大きさも形もさまざまですが、堂々と「脱ぎ散らかして」いく様は圧巻で、とにかくすごくかっこいいんですよね。

【後編はこちら】
バーレスクって、そもそもどんなカルチャーなの? 性的なショーというだけではない魅力を掘り下げる

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ニキータさんが総合プロデュースを務める『The American Burlesque Japan Tour 2024 Spring』が3月29日の新宿公演を皮切りに那覇、心斎橋、吉祥寺と開催される。

アメリカバーレスク界のトップスター、ティト・ボニートさんとジェサベル・サンダーさんをヘッドライナーに迎えた来日公演では、日本のバーレスクダンサーとのコラボレーションにも注目が集まる。詳細はこちらから。

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勝手に触られていた胸は、バーレスクで自分のものになった。「自ら脱ぐ」ショーの裏側にあるもの。

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