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三菱総合研究所は3月6日、放射線の健康影響に対する意識や関心、理解などを調査した「震災・復興についての東京都民と福島県民の意識の比較」の結果を公表した。
調査は、福島の誤った情報がフェイクニュースとして世の中に流布された場合、「差別や偏見の下地となる恐れがある」と言及したほか、復興に関するプラス面の情報を県外に伝える必要性や、放射線の健康影響についての科学的な理解の普及などを提言した。
福島の復興は進んでいる?
意識調査はこれまで、2017、19、20、21、22年に実施。今回で6回目となる。2023年9月6~8日、東京都民1000人と福島県民500人(20〜69歳)がインターネット上のアンケートに答えた。
震災からの復興や放射線の健康影響に関する意識について、東京と福島でどのような違いがあるかなどを分析している。
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まず、「福島県内の復旧・復興は進んでいると感じるか」という質問で、「そう思う」「ややそう思う」と答えた人は、福島は52.6%、東京は36.9%だった。一方、「あまりそう思わない」「そう思 わない」と答えた人は、福島は19.8%、東京は23.3%だった。
このことから、復興に関するプラスの情報が県外(東京)に伝わりにくい状態であることがわかる。調査は、「意識差を縮めるためにも、復興に関するプラス面の情報を福島県外にこれまで以上に伝えていく必要がある」としている。
「福島県の方は、普段の生活で放射線を意識していると思う」かどうかについては、「そう思う」「ややそう思う」と答えた人は、福島が24.0%、東京が29.4%だった。一方、「あまりそう思わない」「そう思わない」と答えた人は、福島が35.2%だったのに対し、東京は約半分の17.9%だった。
原発事故の後、特別な目で見られる?
「原発事故のあと、福島県の方が、特別な目で見られる場合があると思う」かどうかについては、「そう思う」「ややそう思う」と答えたのは、福島が53.0%。東京が34.5%と、福島より18.5ポイントも低かった。
調査は、「原発事故を経験したことで何らかの不利益を被ることに対する福島の方々の不安が低いとはいえないことが見え隠れする」と分析している。
次は、「福島県産の食品を他県産と比較して品質や値段に変わりがなければ食べる(勧める)」かどうかについてだ。
「自分が食べる」場合、「積極的に食べる(勧める)」「福島県産かどうかは気にしない」と回答した人は、福島が92.6%、東京が84.1%だった。一方、「放射線が気になるのでためらう」は、福島が7.4%だったのに対し、東京は15.9%と、福島の2倍ほどの水準だった。
「家族、子どもが食べる」場合、「放射線が気になるのでためらう」は、福島が13.2%、東京が21.0%となり、東京では5人に1人がためらう結果となった。
ただ、これまでの調査結果を見ると、東京はここ数年、「放射線が気になるのでためらう」が年1~2ポイントほどのペースで減少しているといい、「減少傾向が同様に続く場合、早ければ4~5年ほどで2023年(今回)の福島の結果と同程度になると見込まれる」という。
フェイクニュース対策の普及が望ましい
「現在の放射線被ばくで、後年に生じる健康障害(がんの発症など)が福島県の方々にどのくらい起こると思いますか」という質問について、「可能性が低い」と回答した層は、福島が72.2%、東京が66.3%。
また、「現在の放射線被ばくで、次世代以降の人(将来生まれてくる自分の子や孫など)への健康影響が福島県の方々にどのくらい起こると思いますか」で、「可能性が低い」とした層は、福島が73.8%、東京が68.7%だった。
この質問に対する東京の推移を見ると、「可能性が高い」と回答した層は、2022年(35.5%)から4.2ポイント減の31.3%となっており、調査は「同様の減少傾向が続くと仮定した場合、3年後には『可能性が高い』という回答が2割を下回る見込みだ」とした。
しかし、懸念事項もあるといい、減少傾向を阻害する要因として「何らかのきっかけで次世代の健康影響に関するフェイクニュースが増加し、ネットなどでそれらの情報が閲覧される機会が増えること」などが挙げられるという。
対応策としては、科学的な情報の理解促進に加え、「フェイクニュース対策の普及」が望ましいとしている。
科学的な情報の理解を促す→風評払拭に?
放射線の健康影響に関する科学的な情報の理解度(次世代の健康影響についての理解)と、福島県産食品への意識(家族、子どもが食べる場合)は密接に関係していることもわかった。
東京を対象とした調査を見てみると、次世代への健康影響を「可能性は極めて低い」と回答した人は、94.0%が福島県産を「積極的に食べる(勧める)」「気にしない」と回答した。
一方、次世代への健康影響を「可能性は非常に高い」と回答した人で、福島県産を「積極的に食べる(勧める)」「気にしない」と答えた人は41.3%にとどまり、逆に「放射線が気になるのでためらう」は58.7%に上った。
次世代への健康影響が低いという理解が進むにつれ、福島県産食品を「放射線が気になるのでためらう」という回答が減少していることから、科学的な情報の理解を促すことが風評の払拭につながることが考えられる。
しかし、科学的な情報の理解のみでは解決が進まない課題もあるという。
放射線の健康影響に関する科学的な情報の理解度(次世代の健康影響についての理解)と、「原発事故の後、福島県の方が特別な目で見られる場合がある」という質問への回答を分析したところ、科学的な情報の理解が進んだとしても、「原発事故の後、福島県の方が特別な目で見られる場合がある」という回答は減らない可能性が示唆された。
また、「特別な目で見られる」場合として、「どのような場面を思いつくか」を自由記述で尋ねたところ、それぞれ次のようなワードが多く確認された。
▽福島
原発、放射能、ニュース、事故、出身、放射線、差別、影響、イメージ、風評被害、処理水など
▽東京
放射能、ニュース、事故、県外、出身、放射線、差別、風評被害、処理水、福島ナンバーなど
これらの結果から、調査は「『福島県の方が、特別な目で見られる場合がある』という意見を一定程度の方々が持ち続けていることは、差別や偏見の下地となる恐れがある」と指摘。
「福島に関する誤った情報がフェイクニュースとして世の中に流布された際に問題が表面化する懸念がある」とし、「このような懸念が社会全体の課題として残されていることを認識するとともに、差別や偏見につながる可能性がある情報の周知など科学的な情報の理解促進とは別に、問題解決の方法を検討・実施することが求められる」と提言した。
フェイクニュースへの対応
最後は、フェイクニュースへの対応だ。
「現在の放射線被ばくで、次世代以降の人(将来生まれてくる自分の子や孫など)への健康影響が福島県の方々にどのくらい起こると思いますか」という質問の回答を集計し、フェイクニュースへの対応状況と科学的な情報理解との関係性を分析した。
その結果、東京、福島ともに、ネット上のフェイクニュースへの対応を行っている数が「0(特に確認していない)」から「3つ以上おこなっている」に増えるにつれ、「次世代以降の人への健康影響」を「可能性が低い」とする回答した層の割合が増加傾向にあることが分かった。
つまり、情報の発信元を調べたり、複数の情報を比較したりするなど、複数の確認方法を併用することはフェイクニュース対応として有効で、次世代への健康影響に対する理解にもつながっているということだ。
調査は、「情報が正確かどうかを確認する行動が促進されることは、科学的な情報理解の一助にもなると考えられる」とし、「科学的な情報理解の促進だけでは解決できない問題に対しても引き続き検討を進める必要がある」と示した。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「フェイクニュース対策が重要」復興、健康影響…福島と東京で意識の差は?三菱総合研究所が調査【3.11】