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「難民を人間扱いしない国が、どう市民を人間扱いするのか」入管法改正案に反対する集会。立法の根拠に疑念も

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入管法改正案に反対するデモの参加者たち(東京・渋谷)入管法改正案に反対するデモの参加者たち(東京・渋谷)

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国会で審議中の入管法の改正案に反対する集会とデモ行進が5月21日、東京・渋谷であった。非正規滞在の外国人の収容や送還ルールを見直す同法案。法律が必要という根拠となる「立法事実」の一つに疑いが浮上し、廃案を求める声は一層高まっている。

「『外国人は嘘をつく』という偏見が、法改悪の原動力に」

2021年3月に入管施設で亡くなったスリランカ人ウィシュマ・サンダマリさんの遺族代理人の駒井知会弁護士は、国連大学本部前で開かれた集会でマイクを握り、こう訴えた。

「入管法“改悪”の政府案は、国際人権法を打ち破って、入管へのさらなる権限集中と(権力の)暴走の加速、そして難民鎖国を完成させようとしています。これを阻止しなければ、難民を守れません。そして、日本市民を守ることもできません。難民を人間扱いしない国が、どうやって市民を人間扱いするんでしょうか」

5月17日の参院法務委で、日本維新の会の梅村みずほ議員がウィシュマさんについて「ハンガーストライキによる体調不良によって亡くなったかもしれない」「詐病ではなかったと断定できるのか」などと発言。与野党から批判が相次ぎ、同党は梅村議員を法務委員から更迭した

ウィシュマさんの妹のワヨミさんは、梅村議員の発言に触れ「議員は撤回も謝罪もしていません」と指摘。「入管制度をどう変えるのかを議論するのなら、まず姉の死の真相を明らかにして、入管に責任があることを認めてください」と訴えた。

集会には、入管行政の問題を描いた小説『やさしい猫』の作者で直木賞作家の中島京子さんも登壇した。

中島さんは「『外国人は嘘をつく』という偏見が、この度の法改悪の原動力になっている」と主張した。

「このような差別と偏見を見逃すことは、差別されずに生きるというこの国で生きる全ての人の当然の権利を揺るがします。『お前は仲間ではないので差別する』という線引きを、国家がいつ、どこに引くかは分からない。そんな国で生きるのは恐ろしいです」と述べ、政府案の廃案を求めた。

集会後のデモで、参加者たちは「外国人の人権守れ」「難民審査は第三者機関で」などと書かれたプラカードを掲げながら行進した。

平均の審査数「年間36件」との調査結果も

入管法改正案は2021年にも国会に提出されたが、ウィシュマさんが死亡したことを受けて反対の声が広がり、廃案に追い込まれた。今回の改正案は、21年の旧法案の骨格を維持する内容となっている。

現行法では、難民認定の申請中の外国人は一律で強制送還が停止される。一方、改正案では申請が3回目以降の場合、「難民認定すべき相当の理由」を示さなければ申請中でも送還が可能となる。

入管庁は、送還を逃れようと制度を「乱用」して申請を繰り返す外国人がおり、収容の長期化も招いていると主張してきた。

だが、この主張の根拠として入管が引用してきた難民審査参与員(※)の発言の信ぴょう性に疑問の声が上がっている。

(※)入管庁の難民認定審査で不認定とされ、不服を申し立てた外国人の再審査を担う非常勤の国家公務員。法相から任命される。

2005年から難民審査参与員を務める柳瀬房子氏(認定NPO法人「難民を助ける会」名誉会長)は、21年4月の衆院法務委の参考人質疑で、次のように発言した。

「私自身、参与員が、入管として見落としている難民を探して認定したいと思っているのに、ほとんど見つけることができません」
「(日本の)難民の認定率が低いというのは、分母である申請者の中に難民がほとんどいないということを、皆様、ぜひご理解下さい」

2021年当時、柳瀬氏は05年以降に担当した件数は「2000件以上」と述べていた。これらの発言は、入管庁が2023年2月に公表した資料『現行入管法の課題』にも記載され、立法事実の一つとなっている。

一方、柳瀬氏は4月、朝日新聞の取材に「難民認定すべきだとの意見書が出せたのは約4000件のうち6件にとどまる」と証言した。つまり、2021年からの2年間でおよそ2000件、1年当たり約1000件を担当したことになる。

この件数が「他の参与員の経験と大きく異なっていると思われる」として、全国難民弁護団連絡会議(全難連)は、日本弁護士連合会の推薦で任命された難民審査参与員10人を対象にアンケートを実施。その結果、参与員の平均的な担当件数は年間36.3件(最小17件、最多50件)だったという。この数字は、柳瀬氏の説明と大きな隔たりがある。

アンケートでは、柳瀬氏の発言から導かれる「年1000件」という処理数に対して「通常ではあり得ない」「信じられない」といった疑念の声も寄せられた。

柳瀬氏が言及した件数に誤りがなかったとしても、年間1000件という膨大な数を適正に審査できるのか、他の参与員と担当件数が著しく異なる参与員を参考人とすることが妥当なのか、といった疑問は残る。

調査結果を分析した社会調査支援機構「チキラボ」所長の荻上チキさんは、5月15日の記者会見で、「統計的に代表性を欠いた参与員の意見をベースに法改定の議論を進めることに対して、一旦立ち止まることが必要ではないか」と指摘した。

そもそもの立法事実が揺らいでいる入管法改正案。

立憲民主党や共産党など一部野党は、難民認定の手続きを透明化するため、認定審査を担う独立した第三者機関を新設することなどを盛り込んだ対案を参議院に提出した。政府案と併せて参院法務委で審議が続いている。

<取材・執筆=國崎万智(@machiruda0702)>

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