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「5類」移行を機に考えたい「分厚いセーフティネット」のために必要なこと

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新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが2023年5月8日、これまでの「2類相当」から「5類」に移行した(東京都渋谷区)新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが2023年5月8日、これまでの「2類相当」から「5類」に移行した(東京都渋谷区)

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この原稿がアップされる頃、新型コロナの感染症法上の位置付けは季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行している。 

初めての「緊急事態宣言」が出てから、実に3年と1ヶ月。第1波から第8波まで、本当にいろいろなことがあった。何度も何度も緊急事態宣言が出て、友人知人はおろか仕事相手と会うことも叶わず、飲食店にも行けない非日常が続いた日々。コロナ以前にあった講演やイベントは激減し、当然、その分収入も減った。好きなアーティストのライヴが何度も延期になり、結局中止になったりもした。 

多くの人が仕事を失い、多くの人が自ら命を絶った。そして多くの人がコロナ感染で命を落とした。病院で家族と会えないまま。救急車も来ない医療崩壊の中、自宅で苦しみ抜いて。長く辛い3年間だった。だけどこの社会は少しずつ、日常を取り戻しつつある。

3月にはマスクの着用が「任意」となり、同時期からはライヴハウスでも「声出し」が解禁されるところが多くなってきた。そうしてこのゴールデンウィーク、ニュースを見ていると観光地はどこも大にぎわい。「コロナ以前を取り戻した」という言葉が興奮気味に伝えられている。

それはもちろん、喜ばしいことではある。

しかし、この「収束ムード」に、私はちょっと危うさを感じている。

例えば3年以上にわたるコロナ禍と昨年からの猛烈な物価高騰で、新宿・都庁前の食品配布に並ぶ人は4月1日、723人と過去最多を叩き出した。このタイミングでだ。

収束ムードだからといって、そして観光地や宿泊業界に賑わいが戻ってきたからといって、一度痛みつけられた人々の生活は急には立て直せない。

長引く失業や減収で貯金がなくなり、今になって万策尽きたと相談に来る人がいる。この連休にも、所持金ゼロ円で支援団体にSOSメールを送る人がいる。

また、コロナ禍で困窮した人々への国のメインの支援策が給付ではなく貸付だったことにより、最大200万円の借金を背負った人たちが多くいる。国の特例貸付を借りた人たちだ。貸付件数は2022年9月までで、約335万件。総額で1兆4628億円。早い人でその返済は今年1月から始まっているものの、「到底返せない」という悲鳴もあちこちから上がっている(返済免除の対象は拡大されているので、ぜひ調べてみてほしい)。

一方、電気代やガス代などの支払猶予の期限が過ぎた人たちの中からは、ライフラインが停止されたという声も上がっている。

それだけではない。コロナ禍、住まいがない人が生活保護申請をした場合、都内では交渉すれば1ヶ月ほどビジネスホテルに泊まれていたものの、昨年10月、厚労省から出た通知によってそれは著しく制限されてしまった。事実上の終了だ。これにより、劣悪な施設が多い無料低額宿泊所に入れられるようになってしまい、耐えられずに逃げ出す人が後をたたないと聞く。

せっかくホテルからアパートへという流れができ、それによって多くの人が何年も続くネットカフェ生活を脱出したのに。そして「自分の家や住民票のある生活」に移行できたことによって仕事の幅も広がるなどの生活再建を遂げてきたのに、それが終わってしまったのだ。この背景にあるのは、国の旅行支援ではないかと言われている。それによってホテルも埋まり、値段も高騰したからだ。

お金のある旅行者は支援するが、住まいすらない困窮者は「タコ部屋」のような施設に押し込む。そしてそれが気に入らないなら路上に戻れと言わんばかりの対応。そんな方針転換が、昨年の時点でひっそりとされていたのである。

このように、さまざまな支援が終了し、公的支援は急速に後退している。が、ここまで書いてわかる通り、困窮した人々の状況が改善されているかと言えばまったくそんなことはない。

さて、そんなコロナ収束ムードの中、改めて、この3年間はなんだったのだろうと考えている。困窮者支援の現場にいる人々が「夜戦病院」と口を揃えた怒涛の日々。

コロナ禍をきっかけに、私はこの国の穴だらけのセーフティネットが見直され、穴がふさがれるだけでなく、もっと分厚いものになるのではと期待していた。感染症の流行などであっという間にホームレス化する人が出るような社会の脆弱性が見直され、雇用や住まいの安定がもっと重要視されると思っていた。

なぜならこの3年間、何かあったらあっという間に生活を破壊される人々が膨大に存在することを突きつけられてきたからだ。

いや、この3年ではない。リーマンショックがあった15年前、それは「年越し派遣村」という形で白日の下に晒された。派遣切りの嵐が吹き荒れた結果、職も住まいも所持金もなくした人が多く生み出された経済危機。

それから3年後の東日本大震災でも、サービス業などを中心に多くの失業者が生み出された。

この3年で私がもっとも驚いたのは、相談会に訪れたホームレス状態の男性に、「年越し派遣村の時もお世話になった」と言われた時だ。15年前、派遣村を訪れてセーフティネットにひっかかった男性が、コロナ禍でまた同じようにホームレス状態になっている。その間、生活保護を利用したり働いたりしてきたものの、非正規の彼はコロナで真っ先にクビを切られてしまったのだ。

もう一人、印象に残っているのは「2度目のホームレス化の危機」を経験した女性だ。

3・11の時、飲食店で働いていたものの自粛ムードで客が来なくなったことをきっかけに職と住まいを失ったという女性。彼女はコロナ禍で、また同じ状況に追いやられていた。

このようなことからわかるのは、この国には、経済危機や災害、感染症の流行といった「何か」が起きるたびに、生活を根底から破壊される層が多くいることだ。「失われた30年」の中で、そんな人たちが増やされてきた。製造業派遣の解禁はそんな状況にさらに拍車をかけた。

しかし、非正規雇用を増やせばこうなることなどわかりきっていたではないか。そう思うと、政治の無策に頭を抱えたくなる。例えば非正規雇用率が90年代前半の2割ほどで、その多くが学生や主婦といった層であれば、決してこんなことは起きていないはずだ。それが今や4割近くとなり、その多くが自らが稼ぎ手だからこそ、現在のような状況になっているのである。人為的に不安定雇用が増やされた結果、ホームレス化が進んでいるのに、この国の政治はいまだに「自己責任」とそっぽを向いている。

一方で、この国のセーフティネットは、そんな現実に即した形にはまったくなっていないこともコロナ禍で改めて感じたことだ。コロナ禍で少しは変わるかと思っていたら、唯一変わったのは生活保護の扶養照会くらい。本人が家族に連絡が行くことを嫌がる場合には丁寧な聞き取りをして無理にはしない方向で、ということになったのだが、今も現場では「無理やり扶養照会された」という相談がたえない。

また、住まいを失わないための「住居確保給付金」は支給要件が緩和され、利用者はコロナ前の34倍になったのだが、支援団体などが求める「使い勝手のいい、恒久的な家賃補助制度」はできていないしその気配もない。

ちなみにコロナ以前、私は「住居確保給付金」を「幻の制度」と呼んでいた。あまりにも要件が厳しいからだ。なぜなら以前は離職や廃業から2年以内で、月2回以上ハローワークで職探しをしなくちゃいけなくて、その上65歳未満で、単身で貯金が50万円以上あるとダメで申請月の収入が「市町村民税均等割が非課税となる収入額の12分の1」+家賃額以下であることなどと、「これ絶対使わせる気ないだろ?」的な意地悪すぎる説明と細かすぎる条件に満ちていたからだ。コロナ禍、この要件が少しは緩くなったのだが、気軽に使えて使い勝手がいい制度とは到底言い難い。

このようなことを考える時、諸外国のやり方は非常に参考になる。

例えばドイツでは、2020年春の時点で「家賃を滞納しても最大2年間は追い出されない」というルールができた。大家さんには国からの補助がある。もし、このようなルールが日本でもできていたら。少なくとも、防げた自殺は確実にあると思うのだ。

しかもこのやり方であれば、今いる場所に住み続けるのでそれほど予算もかからない。家賃があまりにも高い人には転宅指導がなされるとしても、生活保護の家賃基準くらいであれば「家賃だけ」生活保護を利用する形に運用を変えれば日本でだってすぐにできたはずだ。そうして手続きをうんと簡素化して徹底的に広報すれば、住まいを失わずに済んだ人も多くいただろう。

それだけではない。ドイツではコロナ前から、家賃滞納者が出ると大家さんが役所に通報するのだという。家賃滞納は困窮のサインだからだ。そうして役所の担当者が滞納者のもとに赴き、生活保護などにつなぐ。この程度のことも、日本では「個人情報」を理由に決してやらない。

韓国の制度も参考になる。韓国では生活保護の名前を「国民基礎生活保障」に変えたのだが、それだけでなく15年からは「単給」にした。家賃だけ、医療費だけといった形でバラで利用できるのだ(韓国とドイツの詳しいことについては『学校では教えてくれない生活保護』を読んでほしい)。例えば月収14万円で家賃6万円という人が、家賃分を給付されたらどれほど楽になるだろう。そのような使い方で制度利用はカジュアル化し、貧困率も下がったという。

翻って日本を見れば、小手先の微妙な要件緩和はあったものの、利用しやすい制度への抜本改革にはほど遠い。

思えばこの3年は、ちょっとやそっとのことではホームレス化したり自殺を考えなくていい社会への転換が図られる絶好のチャンスだった。しかし、「喉元過ぎれば」でこのまま「コロナ前の日常」に戻ってしまうのであれば、何かあった時に再び同じことが繰り返されるだろう。

だからこそ、「5類移行」を機に、「社会を本当の意味で強くするためのセーフティネット」についての議論を始めることができないか。今、もっとも必要なことはそれだと思うのだ。

(2023年5月10日の雨宮処凛がゆく!掲載記事『第634回:「5類」移行を機に考えたい、「分厚いセーフティネット」のために必要なこと。の巻(雨宮処凛)』より転載)

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「5類」移行を機に考えたい「分厚いセーフティネット」のために必要なこと

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