2022年10月から、男性が育児休業をより取得しやすくなる制度がはじまります。何が変わるの? どのくらい休めるの? 収入は大丈夫? 誤解されやすい7つのポイントをまとめました。 #育休革命2022
2022年10月1日からの改正育児・介護休業法によって大きく変わる育休のポイントは次の2点です。
① 男性も「産休」がとれる
「男性版産休」とも呼ばれる「産後パパ育休」(出生時育児休業制度)がはじまります。
子どもが生まれたあと8週間以内に、4週間まで、2回に分割して取得できます。パートナーの退院に付き添ったり、家事や新生児の世話をしたり、上の子の面倒をみたり。とても慌ただしく大事な時期に、育休とは別に休みを取れるようになります。
② 育休を分割できる
従来の育休を、夫婦ともに分割して2回まで取得できるようになります。
業務の特性上、長い期間を続けて休むのが難しい人や、妻が職場復帰するタイミングに合わせて休みたい人など、それぞれの仕事や家庭の事情に合わせて計画を立てることができます。夫婦が育休を交代できる回数が増え、両親ともに育児に主体的に関わることができます。
こうした制度改正によって、2021年度に過去最高の13.97%だった男性の育休取得率がどう変化するのか、注目が集まっています。
ただ、いざ取得を検討するとなると、不安を感じる人がいるのも事実。2020年9月に共著『男性の育休』を出版した、みらい子育て全国ネットワーク代表の天野妙さんは、こう話します。
「制度としては育休を取りやすくなっているのに、取得を躊躇する人がいます。よく聞くと、誤解していることも多いのです」
そこで天野さんに、男性の育休について誤解されがちな7つのポイントを解説してもらいました。
① 育休中は収入ゼロ? → 手取りの約8割は得られます
大手住宅メーカーの積水ハウスが発表した「男性育休白書2022」によると、育休取得を検討したことのある男性の約6割が「不安を感じた」と回答しました。不安要素のひとつは収入です。
育休取得を推進するために必要なこととしては、86.6%の人が「育休中の給料・手当が変わらない」ことをあげました。
「育休中に給付金が支払われることを知らない人が多いです」と天野さんは話します。
育休中も一定の要件を満たすと、雇用保険から「育児休業給付金」が支給されます。会社員の場合、休業開始から180日間(半年間)は賃金の67%が、非課税で支給されます。さらに期間中は社会保険料が免除されるため、結果的には休業前の約8割の手取り収入が得られます。
天野さんの試算では、年収600万円の会社員が2カ月間の育休を取得したと仮定すると、可処分所得の減少は実質4%となったといいます。
181日目以降は、賃金の50%の支給となります。ちなみに「産後パパ育休」も育児休業給付金の支給対象です。
「たまに『休んでいる間にも会社からお金をもらって申し訳ない』と誤解されている方がいらっしゃいます。育児休業給付金は、国の雇用保険から出されるものなので、会社には金銭的負担は一切ありません。その点もご安心ください」(天野さん、以下同)
② 妻が専業主婦ですが → 夫も育休とれます
「妻が専業主婦で家にいるのに、育休を取ってもいいのか」というのもよくある質問です。配偶者の性別や就業の有無に関係なく、育休は取得できます。
さらにいうと、「産後パパ育休」の取得期間である子どもが生まれたあとの8週間は、妻が会社員だったとしても産前産後休業中となるため、妻の雇用形態にかかわらず産後の体調の回復を優先する期間です。
「この時期は産後うつの発症リスクが高いため、夫が育休を取得することで妻のサポートにもなりますし、新生児期から子育ての当事者意識をもつ絶好の機会にもなります」
③ 長期では休みづらい → 分割して休めます
「男性育休白書2022」によると、男性の育休の平均取得期間は8.7日。続けて仕事を休むのが難しいからと育休をあきらめている人にとっては、分割して休むことで解決できそうです。
「産後パパ育休」は、子どもが生まれたあと8週間以内に、4週間まで、2回に分割して取得できます。また従来の育休も夫婦ともに分割して取得できるようになるため、男性は最大で4回まで分割して休むことができます。
「これまで『3月末の決算月は休めない!』『竣工月は無理!』など、繁忙期と重なることから育休をあきらめていた人が多くいました。が、今回の分割取得で一定期間育休→復職→育休ができるとなると、いっそう取得のハードルが下がることとなります。ただし、手続きが煩雑になりますので、上司や人事とよく相談しましょう」
④ 会社や同僚に迷惑じゃない? → メリット大です
多くの人が育休取得をためらう理由に「会社や同僚に迷惑をかけるのでは?」という不安もあります。
「これまで20~40代の働き盛りの男性が長期でお休みすることを、会社も本人も想定していませんでした。それゆえに『迷惑では?』と考えてしまうようです」
しかし、視野を広げてメリットにも目を向けてほしい、と天野さんは言います。
「長期で休むことは、業務の属人化を排除することに貢献します。育休の場合は準備期間も長くあることから、これまでの仕事の仕組みややり方が今も最適な方法かどうかを考え直す好機になるんです」
もちろん業務の特性上、続けて休むのが難しいときには分割取得をしたり、災害やパンデミックなどで会社がピンチになったときは一時的・臨時的に働いたりすることも可能です。
男性育休の推進は採用の面でも効果があります。「男性育休白書 2021年特別編」によると、就活中の20代男女400人の73.8%が「男性の育休制度に注力する企業を選びたい」と回答しています。
「育休が取れない会社に優秀な若手社員は集まらないとも言われています。ぜひ会社のためにも育休取得の事例をつくってみてはいかがでしょうか?」
⑤ 「うちの会社は無理」と上司に言われた → すべての社員が取れます
育休は国の法律で定められていて、会社員なら誰でも取得できる権利です。しかし、男性が育休を取れる事実を知らない人や「うちの会社には男性の育休制度がない」と思い込んでいる人も、まだ多くいます。
「部下から『育休をとりたい』と言われ、前例や知識・経験がなく『うちの会社は無理!』と答える上司も少なくありません。そこであきらめてしまう方もいますが、ぜひ根気強く上司に説明をしていただきたいです」
2022年4月からは、従業員に子どもが生まれることがわかったら、会社のほうから個別に育休について周知し、育休を取得する意向を確認しなければならなくなりました。取得を控えさせるような形での周知や意向確認は認められていません。
また2023年4月からは、従業員数1000人を超える企業は育休の取得状況を公表することも義務付けられます。
天野さんたちが多くの育休取得者にヒアリングしたところ、上司や会社とうまく折り合えている人は、なるべく早めに取得の意向を伝えていたことがわかりました。
「最初は驚いていた上司であっても時間をかければ理解できるはずですし、特に育休の場合、何か月も前から休むことがわかっているので調整も可能なはずです。それができない上司は、マネジメント能力を見直す機会になってほしいと思います」
⑥ 夫婦で同時に休む意味ある? → 産後すぐは特に大事
夫婦で同時に育休を取得する「ペア休」。できることを知らない人も少なくありません。実は厚生労働省はこれまでも積極的に「ペア休」の取得例を出しています。
「『ペア休』が制度上できるのは日本だけです。諸外国では二人同時に育休を取得することはできません。それらも含め、ユニセフは2021年の報告書で、日本の男性の育休の制度は世界一だと評価しています」
「日本では新生児・乳児期の公的サポートはまだまだ手薄であることや、核家族化が進み、さらにコロナ禍で新米ママは孤立しがちです。特に産後すぐの時期は、産後うつや児童虐待のリスクが高いため、『ペア休』には一定の必要性があります」
分割取得ができるようになることで、夫婦で育休を計画するうえで「ペア休」はより検討しやすい選択肢になりそうです。
⑦ 上の子が退園させられる? → 自治体ごとに違う! 確認を
2015年、育休期間中に上の子が保育園を退園させられる「育休退園」の制度が話題となりました。
「背景には待機児童問題がありました。保護者が育休中で家にいるのであれば、家で子どもを見てもらい保育の枠を広げたいという意図で、一部の自治体がもうけた制度です」
「待機児童が減ったことと子どもの育ちの観点から、育休退園を迫る自治体は減ってきているようです。ただ、産後2か月を超えるペア休の場合、上の子に育休退園を求める自治体もまだあります」
2022年4月1日時点の全国の待機児童数は2944人で過去最少に。最多だった2017年のおよそ9分の1ですが、地域やタイミングによっては保育園に入園できず、待機児童になる可能性もあります。
保育園に入園できない場合、最長で子どもが2歳になるまで育休を延長できます。
これまでの制度では1歳と1歳半のタイミングで半年ごとに育休を延長する必要がありましたが、新しい制度では延長の開始日を柔軟に決められるため、夫婦で交代しやすくなります。
「保育園の入園選考で提出する就労証明上の勤務状況によっては、育休が選考に影響する自治体もあります。育休を取るタイミングや上の子の状況、出産予定日などを含め、各自治体の窓口で必ず相談してください」
育休取得を促すのは企業の義務
3人の子どもを育てている天野さんは待機児童問題に直面したことがきっかけで、「男性も育児の当事者となって問題解決をしてほしい」との思いから、2018年から男性育休義務化の活動をしてきました。
参議院の予算委員会で提言したときは「何バカ言ってんだ!」とヤジを浴びたりもしましたが、2019年6月に自民党の有志による「男性の育休『義務化』を目指す議員連盟」が発足し、法改正が実現しました。
「最初は政界も、経済界も、男性の育休にまったく関心がありませんでした。しかし、一部の理解ある政治家・官僚・経営者・当事者のみなさんが『それが答えだ!』と言わんばかりに多方面でアメーバ的に活動がなされ、急展開を見せ、オセロの盤面が黒から白にひっくり返るような感覚がありました。一人ひとりの思いがつながって今回の法改正を実現できたと感じています」
10月1日からの新しい制度については、このように展望を語ります。
「法律が変わったとはいえ、まだ道半ばです。というのも、法律が変わったことを知らない経営者・管理職・当事者の方がまだまだ多いのが現状です。育休の誤解ではなく正しい知識をぜひ話題にしていただき、『男性が育休をとる』という新しいあたりまえを一緒につくっていただけたらと思います」
育休の詳しい解説は『男性の育休』(PHP新書)から。
(取材・文:小林明子)
(2022年9月30日のOTEMOTO掲載記事「収入はどれだけ減るの? 「男性育休」の7つの誤解」より転載)
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
収入はどれだけ減るの?「男性育休」の7つの誤解