「この不平等な状態から、私たちを解放してください」
東京地裁で6月30日に開かれた「結婚の自由をすべての人に」裁判・東京2次訴訟の口頭弁論(飛澤知行裁判長)で、意見陳述をした原告の山縣真矢さんが訴えた。
この裁判では、30人を超える性的マイノリティが、全国5つの地裁・高裁で、結婚の平等(法律上の性別が同じ者同士での結婚)の法制化を求めて国を訴えている。
2021年3月には札幌地裁で「法律上の性別が同じふたりの結婚を認めないのは、法の下の平等に反する」という違憲判決が言い渡された。しかし2022年6月20日に、大阪地裁は「結婚を認めないのは合憲」という異なる判断を示した。
30日は、その大阪地裁判決の後、東京で初めての口頭弁論となった。
大阪地裁の判決について「全身の力が抜け」「強い憤りを覚えた」という山縣さん。
意見陳述では、55年の人生を振り返りながら、なぜ結婚の平等が重要なのかを語った。
かけがえのないパートナーとのカモフラージュ生活
山縣さんは岡山県出身。母親が公務員、父親は高校教師の堅実な家庭で育った。
20代で上京した後、親から「いい人は、いないの?」と聞かれて結婚を意識するように。
その時に思い浮かぶ相手は男性ばかりで、自分は男性が好きなのかもしれないと思うようになった。
その頃、忘れられない出来事も起きた。
1990年に東京都「府中青年の家」で差別扱いを受けた「動くゲイとレズビアンの会」のメンバーが、翌年に都を提訴したのだ。この時、裁判の原告となって差別を訴えている同年代の当事者の若者の姿が、山縣さんに強烈な印象を残した。
山縣さんはこういったことをきっかけに、同性愛に関する情報を集めたり、新宿二丁目に通ったりするようになった。
そこで出会ったのが、現在のパートナーだった。1年後には一緒に暮らし始めたが、90年代後半は、今よりさらに男性同士での同居に理解がない時代。
山縣さんは2人で暮らすアパートの近くに安い部屋を借りて、そこに住民票を置く「カモフラージュ」生活をしなければならなかった。
この生活は、住んでいる自治体でパートナーシップ制度が導入され、住民票をパートナーの住居に移した2018年まで続くことになる。
山縣さんは「もし同性間でも婚姻が認められていれば、お金もかかるカモフラージュをする必要もなかったでしょうし、2人で共同ローンを組んで、マンションを購入する選択肢もあったかもしれません」と訴えた。
親へのカミングアウト
そういった中、山縣さんは2002年からプライドパレードの運営に携わるようになった。
その6年後の2008年、父親から1本の電話がかかってきた。父親は、インターネットで山縣さんの名前を検索したら、同性愛の団体やイベントが出てきたと説明し、「これはどういうことなのか?」と真剣な声で尋ねた。
いつかカミングアウトしたいと考えていた山縣さんは、自身のセクシュアリティや活動について説明。
すると3週間後に、父親から「今日までの15年、両親にも言えず、言わず、孤独で、せつない思いをしながら生きて来たことを思うと、言葉がありません」という手紙が送られてきた。
手紙には「よくぞ苦悩を乗り越えて生きていてくれた」という、感謝もつづられていた。
山縣さんは「息子を思う父の深い愛情が、存分に詰まっていました」と振り返った。
この不平等な状態から解放してください
プライドイベントに携わり、家族にカミングアウトするなど、自分自身に変化が起きた2000〜2010年代、山縣さんは社会の変化も目にしてきた。
2002年に運営に関わるようになった時に、総動員数が4500人だった東京でのプライドパレードは、2019年に共同代表を勇退した時には20万人になっていた。
世界では、オランダを筆頭に、30近くの国や地域で結婚の平等が実現している。
その一方で、山縣さんは24年間ともに生きるパートナーとはいまだに結婚できない。
山縣さんは現在55歳で、パートナーは1歳年上だ。老いや病が迫っている中で、「婚姻できない同性カップルは、よりシビアで不安定な状況に置かれています」と法廷で訴えた。
「パートナーが法律上同性であるということだけで結婚制度から排除され、差別を受けたまま、二級市民として生涯を終えたくはありません」
「差別が温存された状態のまま、次の世代にバトンを渡すようなこともしたくありません。 残り何年、私の寿命が残っているのかは知る由もないですが、1日も早く、この不平等な状態から、私たちを解放してください」
国は「結婚は子を産み育てる人“だけ”を保護する制度」と主張していることが明らかに
この裁判で、国側は結婚を認めない理由について「結婚の目的は、子を産み育てながら共同生活を送る一人の男性と一人の女性の関係に対して、特に法的保護を与えることだから」と主張している。
30日の東京地裁の口頭弁論では、原告側の弁護士が、この主張について「国は生殖だけが結婚の目的だと考えているのか、それともそれ以外の目的も含まれているのか」と、確認する場面があった。
この質問に対して、国側は「書面通りです」とのみ回答。弁護団が再度確認すると、裁判長が「書面上、そう主張している」と答えた。
原告側の寺原真希子弁護士は、このやりとりで、「国が結婚は子どもを産み育てる人だけを保護する制度だと主張していることが明確になった」と、口頭弁論後の記者団の取材で述べた。
寺原弁護士によると、これは裏を返せば「異性カップルであっても、子どもを産み育てないのであれば法的保護に値しない」と言っていることになり、「訴訟が、単に法律上の同性カップルだけに止まらないものになる」と指摘する。
「(結婚の平等訴訟は)法律上同性同士の婚姻を、異性カップルと平等にしてくれという訴訟です。しかし、ここまではっきりと被告がこのような主張をしているとなると、同性カップルだけにとどまらず、日本における婚姻制度はどういうものなのかが問われる訴訟になります」
寺原弁護士は「結婚は子どもを産み育てる人だけを保護する制度」という国の主張は、結婚について定めた法律の要件や社会的認識とも合致しておらず、改めてこの主張に反論していくと述べた。
一方、大阪地裁の判決では、この国側の主張を認める判断になった。
判決の後、SNSには「国は自分達を認めていない」「生きていくのがつらい」といったコメントがたくさん投稿された。
寺原弁護士は「裁判所には、婚姻の平等の問題は、結婚だけではなく、生死に関わる話だということを認識してほしい」と強調する。
「結婚という選択肢がないということで、日々生き悩んでいる人がいます。(裁判所には)扱っている問題の大きさ、そして影響があるということを認識して、判決を書いてほしいです」
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「二級市民して生涯を終えたくはない」結婚の平等裁判、原告が不平等からの解放を訴える【東京2次5回】