カンボジア人技能実習生たちが、受け入れ先の企業や監理団体から強制帰国させられ人権侵害を受けたと訴えていた問題で、支援団体は3月25日までに、実習生側と監理団体が和解したことを明らかにした。
どんな事案だったのか
実習生たちを支援するNPO法人「POSSE」によると、8人のカンボジア人技能実習生たちは、現地の送り出し機関を通じて日本に派遣された。このうち7人が、来日から半年ほどたった2016年春、強制帰国させられたと訴えていた。
実習生だったある女性は、監理団体と送り出し機関の職員が寮に押しかけ、女性や他の技能実習生のパスポートを取り上げたと証言。空港までの移動中は逃走しないよう拘束され、トイレに行く時も手をつかまれて見張られたと主張していた。
POSSEによると、多額の借金をして来日し、突然帰国を余儀なくされたため困窮する実習生もいたという。
受け入れ企業へのサポートなどを担う監理団体は「全国中小事業協同組合」。実習生たちは、受け入れ先である「トオカツフーズ」で食品製造の業務をしていた。
トオカツフーズは帰国させた理由について、母国語であるクメール語の読み書きができないことが来日後に判明し、監理団体に相談した結果、「実習生の合意を得て実習を中止し帰国するとの提案があり了承した」とハフポスト日本版の取材に説明。「本人の意に反して強制帰国させた事実はない」と否定していた。
POSSEによると、実習生たちは帰国の同意書にサインをしていなかったり、同意書の内容を理解しないままサインさせられたりしたと訴え、団体交渉では監理団体に謝罪や賠償金の支払い、再発防止策を求めていた。
一方、同協同組合は、書面や口頭で実習生たちから帰国の同意を得ていたと主張。「強制ではなかった」と否定していた。
実習生らと監理団体は2021年12月に和解した。POSSEは、守秘義務があり合意内容を明らかにできないとしたが、「実習生たちの納得のいく水準で合意できた」としている。
問われる企業の社会的責任
支援者らは、トオカツフーズと取引関係にあったスターバックスやファミリーマートの対応も問題視していた。
実習生を直接雇用しているわけではない取引先の責任を、なぜ追及するのか。
背景には、原材料の調達から製品が消費者に届くまでのサプライチェーンの中で行われることに対する企業の社会的責任を問う動きが、国際社会で広がっていることがある。
スターバックスコーヒージャパンは2021年3月、「外部の専門家による調査の結果、当該サプライヤー(トオカツフーズ)の当時の対応については、法的な問題があったとは認められませんでした」とのコメントを発表した。
ファミリーマートは、強制帰国という人権侵害行為があったかの認識について「答えられない」とハフポスト日本版の取材にコメントしていた。
POSSEの佐藤学さんは、これらの企業の対応に触れ、「サプライチェーンで起きる人権侵害に元請けなどの企業が関与するのは、世界的には当たり前になってきている。日本でも取引関係にある大手企業が積極的に関与し、社会的責任を果たすべきだ」と指摘する。
制度廃止を求める署名も
パワハラや暴行、妊娠中絶の強要など、外国人技能実習生の人権侵害をめぐる事案は後を絶たない。
こうした実態を踏まえ、POSSEは技能実習制度の廃止を目指すプロジェクトをスタートすると発表。ネット上の署名ページで賛同を募っている。
プロジェクトの中心メンバーである田所真理子ジェイさんは、「この制度自体が、外国人技能実習生の権利行使を不可能にしている。『今の仕組みはおかしい』と声を上げる人が増えることで、現状を変えられるはず」と呼びかけている。
27日には発足シンポジウムを開催し、相談支援の現場で見えた技能実習制度の問題点などを報告する。イベントの申し込みは専用ページからできる。
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「手をつかまれ、トイレも見張り」強制帰国を訴えた技能実習生ら、監理団体と和解