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「天才」の言葉を預かること『時給はいつも最低賃金』和田靜香さんがオードリー・タン評伝の著者に聞く

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立憲民主党・小川淳也議員との対話を通して書き上げた『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』の刊行を記念して、著者の和田靜香さんがノンフィクションライターの近藤弥生子さんと対談しました。   

近藤さんによるオードリー・タンさんの評伝『オードリー・タンの思考 IQより大切なこと』に「すごく励まされた」という和田さんのたっての願い。情熱と共感が往来する120分でした。

『オードリー・タンの思考 IQより大切なこと』の著者・近藤弥生子さん(写真左)と『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』の著者・和田靜香さん

予想の500億光年ぐらい先から答えが返ってくる

和田 オードリーさんにインタビューしたきっかけは何だったんですか?

近藤 台湾で別の仕事をしていたころ細々とブログを書いてたんですけど、それをご覧になったYahoo!ニュース編集部デスクの神田憲行さんが「何か書いてみないか」とお声がけくださって、オードリーさんに取材することになったんです(※1)。

和田 最初は戸惑いませんでしたか?

近藤 すっごく緊張したし、めちゃくちゃ戸惑いました。いざ話を聞けば知性に圧倒されるし、調べれば調べるほどひと筋縄ではいかないというか、今ここにいるのが奇跡みたいな人なんだな、って。でもそれを日本語で説明するには自分の知識が足りなさすぎるんですよ。

和田 はっはっは。わたしと同じですね。

近藤 わたしも和田さんの本を読みながら「同じだ!」と思いました。ただ、うらやましいのは、和田さんと小川さんは日本語で話せるじゃないですか。わたしは中国語がヘタな上に、オードリーさんめっちゃ頭の回転が速いから、相手の時間を奪ってるってヒシヒシとわかるんですよ。申し訳ないから朝ごはんを買っていって「食べててください。わたし、その間に考えます」とか言ってました(笑)。

和田 わたしも小川さんに全然ついていけなくて、泣きそうになってましたから。近藤さんもわたしと同じで自己肯定感が低かったそうですけど……。

近藤 今も低いです(笑)。どうしても分不相応な機会を与えてもらったって意識が強いですね。だから会ったことで満足せず、オードリーさんから預かったものをどうやって世の中に役立てていけばいいか、いつも考えてます。和田さんはどうしてオードリーさんのことが好きなんですか?

和田 人間性がすごく興味深くてすてきな人だなと思ってて、そういう人が政治の分野にいるのがすばらしいなって。g0v(ガヴゼロ)とか、オープンソースの思想とかもね(※2)。日本で「いいな」って言ってるだけじゃダメなのもわかるし。

近藤 和田さんがやられてることがたぶんいちばん難しいとわたしは思うんですね。日本の人に「台湾の話だと思うと、自分と切り離して冷静に、客観的に聞ける」と言われたことがあって、日本にいて日本のことを言ってもなかなか聞いてもらえないじゃないですか。だからわたしも、申し訳ないけどオードリーさんの力を借りてるところがあります。オードリーさんが言うと聞いてくれるから。もちろんオードリーさん自身、誰よりもそんなことはわかってるんですよ。めちゃくちゃ頭がいいから。質問すると、予想の500億光年ぐらい先から返ってきます。すっごく戸惑うんですけど、とりあえず「わかりました」って返事して、家に帰って文字起こしをしながら考えて。

和田 わかる! わたしもまったく同じでした。山の向こうのまた向こうから何か言われてるみたいな感じがして、瞬時には咀嚼できない。

 

「オードリーさんは天才」で終わらせないために

近藤 和田さんと小川さんの組み合わせがすてきだなと思ったのは、実は和田さんのほうが冷静なんですよね。わたしはすぐ入れ込んじゃうので、軸足がブレないのがかっこいいなと思いましたし、すごく勉強になりました。

和田 この本は「わたし」で書くことにこだわったんです。小川さんに話は聞くけど、主人公は自分。だから距離を詰めすぎないように、連絡はすべて秘書の方を通すとか、すごく気をつけました。

近藤 わたしは自分がなくて恥ずかしいです。ただ、どうやって「天才」で終わらせないようにするか、ということはずっと考えてます。読んでくださった方の考え方が少しでも変わるきっかけとして、心の中にオードリーさんを宿してもらえたらいいなって。

和田 そこから「一人の天才を生むことは難しいが、一人ひとりの心に小さなオードリー・タンを作ろう」っていう言葉が生まれたんですね。

近藤 ツイッターでつながっている方からヒントをもらったんです。オードリーさんを記事で紹介すると、反響をいただくのはもちろんうれしいけど、「台湾がうらやましい」「それにひきかえ日本は」というコメントばかりなのが悔しかったんですね。英雄を待ってるだけじゃ何も変わらないのに、と思って。それで「筆者は日本にもオードリーさんのような人材がきっと存在すると思っている。/肝心なのはそのような人材が、たとえ皆が思い描く政治家のイメージと幾ばくか違っていたとしても、より良い社会のためにその人物を起用できるかということなのではないだろうか」(※3)と書いたら、ツイッターに「私も彼女の0.01%ぐらいかもしれないけど、いろんな人の力になれる小唐鳳でありたいと思います~」(※4)というコメントをいただいたので、引用させてもらったんですよ。だからあの、何から何まで他人様の力で……。

和田 わたしもいろいろな方に意見を聞いて、取り入れました。それこそが民主的な作り方だと思って。

近藤 和田さんのお友達の川内有緒さんが書かれた『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(集英社インターナショナル)と『時給はいつも最低賃金』を並べて、誰かと通じてできた本だってどなたかが紹介されてましたけど、わたしの本も、レベルは全然違うけど、オードリーさんによって導かれたなって思います。

和田 オードリーさんと対話しつつ、読んだ人とも対話していることがわかります。対話ってすごい。

 

対話、そして知ることで問題解決に向かう

近藤 オードリーさんにしても小川さんにしても、例えばジャーナリストとの対話と一生活者であるわたしや和田さんとの対話って、論点も何も全然違うわけじゃないですか。相手もこちらの態度を見て話してくれるわけだから、「この人なら話してみようかな」って思ってもらえるように勉強していくのは、最低限しなくちゃいけないことかなって思いました。和田さんもすごい量の本を読まれてましたよね。

和田 わたしのペラペラさに耐えてもらわなきゃいけないんだから、勉強しないと失礼ですよね(笑)。この本にみんながびっくりしたのは、日本だと一般の市民が政治家とこんなに話すことってないからなんですよ。オードリーさんは日ごろから開かれていて、小学生からおばあちゃんまで、いろんな人と対話してるじゃないですか。

近藤 「いろんな人の話を聞くためにやってるんですか?」って聞いたら「いやいや」と。対話は全部公開されてるんですけど、それを見た別の人が「これは問題だ」と思って話しに来てもらうためにやってるんですって。問題を共有する人同士が出会ってもらうのが目的なんだと言ってました。

和田 対話のプラットフォームみたいな。

近藤 そう。自分をプラットフォームにしてるんですよ。これまで密室で交わされていた対話をオープンにするって、すごく大事な一歩ですよね。

和田 わたしの本もそうですね。小川さんが「読者の中から第2、第3の和田靜香が出てきてほしい」と言ってますけど、読者が当事者意識を持つきっかけになればいいなと思います。

近藤 オードリーさんは、コロナ対策においても民主主義においても、スーパー専門家みたいな人を集めることより、多くの人たちが関心と一定水準の知識を備えることのほうがずっとずっと大事なんだと言ってました。『時給はいつも最低賃金』を読んだ方が和田さんの7割ほどの関心と知識を身につけるだけでも、すごい変化だと思いますよ。

和田 小川さんも「みんなが何が問題かが見えて、そこに向かって歩き出した時点で解決したようなものだ」っていつも言っていますね。

 

賢者の言葉を預かる重み

近藤 わたし本当にヘロヘロなんですよ。先月、中国語がヘタで質問が伝わらなかったみたいで、「もう一度確認するけど、あなたが聞きたいのってこういうこと?」って言われたんですけど、その要約がわたしの質問よりうんと高度なので「そっちのほうがいい! それでお願いします」って言ったら、「自分で言って自分で答えるのは面白いね」って笑いながら3秒ぐらい考えて、500文字ぐらい答えてくれました(笑)。

和田 でも、だからこそ対話ですよね。そうして高め合っていくわけじゃないですか。二人で作ってるから意味があるんですよ、やっぱり。

近藤 そうだといいんですけどね……。賢者はすごいです。

和田 賢者の言葉を預かるって重くないですか?

近藤 重いです。「もっと意味があったんじゃないか」か思って、自分の解釈で書くのが怖くなります。特にわたしの場合、翻訳もしなきゃいけないし。

和田 抽象的な話も多いですもんね。小川さんはほとんど政策の話だったから具体的だけど、相手がわたしじゃなくてもっと優秀な人なら、その意味や背景をちゃんと深めて膨らませてあげられただろうなって。だから申し訳ないんですよ。

近藤 わたしもいつも「自分でいいのか?」って思ってばかりです。

和田 近藤さんは大丈夫ですよ。わたし、『オードリー・タンの思考』を読んで、近藤さんがすごい情熱を持って書いているのがわかって、自分もこれでいいんだと思えたんです。何よりもそのことが励みになりましたから。

近藤 ありがとうございます。北尾トロさんのメルマガで和田さんの本を知って、すぐに買って「いい本だな」と思って読んでたら、最後に自分の本が言及されてて「えーっ!」って大声を出して家族にびっくりされたんですよ(笑)。なので本当にうれしいです。

(構成:高岡洋詞)

※1 https://news.yahoo.co.jp/feature/1517/

※2 オードリー・タン氏が参加するシビックハッカーコミュニティ。シビックハッカーとは、政府が公開したデータを市民につなげるエンジニアのこと。

※3 https://www.nippon.com/ja/japan-topics/g00850/

※4 https://twitter.com/okiraku_tw/status/1248805918101266432

プロフィール

和田靜香(わだ・しずか)

相撲・音楽ライター。1965年、千葉県生まれ。著書に『世界のおすもうさん』、『コロナ禍の東京を駆ける――緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(共に共著、岩波書店)、『東京ロック・バー物語』(シンコーミュージック)などがある。猫とカステラときつねうどんが好き。

近藤弥生子(こんどう・やえこ)

台湾で編プロを経営するノンフィクションライター。1980年、福岡県生まれ。『オードリー・タンの思考 IQよりも大切なこと』(ブックマン社)、2021年11月発売予定の『オードリー・タン 母の手記「成長戦争」』(KADOKAWA)など、オードリー・タンへの取材を続けている。

(2021年10月26日の左右社の特設サイト掲載記事「対談『「天才」の言葉を預かること』近藤弥生子 x 和田靜香」より転載)

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「天才」の言葉を預かること『時給はいつも最低賃金』和田靜香さんがオードリー・タン評伝の著者に聞く

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