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出身地で学生を就職差別。1冊数万円の「部落地名総鑑」を企業が買っていた事件から学ぶべきこと

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46年前、全国の名だたる企業が採用選考で、被差別部落出身者を排除していた事件が発覚した。その選別に使われたのが、当時非公式で売られていた「部落地名総鑑」だった。

総鑑を買っていた企業は糾弾され、その後、人権啓発に取り組んできた。しかし、2011年に国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択され、企業に求められる人権意識はさらに高まっている。

長らく「人権対策といえば同和問題(部落差別)」とされてきた日本企業。国際標準の「ビジネスと人権」に、その教訓を生かすことができるのか。

被差別部落の所在地などが書かれた「部落地名総鑑」

企業はなぜ部落地名総鑑を買ったのか

「どうしてこういう本を買ったのか、部落解放同盟などの糾弾や事実確認が行われました」

大阪同和・人権問題企業連絡会(大阪同企連)理事長で、関西電力出身の柄川忠一氏はハフポスト日本版の取材に、その「事件」の経緯を語った。大企業を中心に、現在約140社が参加する大阪同企連が結成されるきっかけになった出来事だ。

1975年11月、差別解消に取り組む運動団体「部落解放同盟」大阪府連合会に、匿名の告発文書が届いた。企業向けに「部落地名総鑑」の購入を案内するチラシが同封されており、採用選考にあたって、部落出身者の排除をそそのかす文言が書かれていた。

「総鑑」には全国の被差別部落の所在地などが記載され、価格は1冊数万円。発行者は「企業防衛懇話会」という東京都内に実在する事務所だった。法務省などの調べで、その後、計10種類ほどの部落地名総鑑や、それを電子化したものが各所で見つかった。購入者は全国の上場企業を中心に、大学・個人を含め200を超えたいう。

オンラインで取材に応じる大阪同企連の柄川忠一理事長

就職差別で部落は「貧困の連鎖」に

「当時の企業には、被差別部落に対する差別や偏見の意識が根強くあったのでしょう」

柄川氏は1970年代の企業意識をそう指摘する。部落差別にもとづく身元確認は戦前からあったとされるが、そうした就職差別によって、被差別部落では経済的、文化的な水準が上がらず、大学進学率も低迷。それによって、さらに就職差別に遭いやすくなる「貧困の連鎖」が続いてきた。

部落地名総鑑を購入していた企業は解放同盟から厳しい追及を受け、事件の教訓を生かすために各地で連絡会を結成した。大阪では1978年に大阪同企連、東京では翌79年に東京人権啓発企業連絡会(東京人企連、現在約120社が参加)が発足。地名総鑑を購入していない企業も加わり、人権啓発を進めてきた。

部落解放同盟大阪府連が回収した部落地名総鑑のコピー

根強い部落差別。49%が「いまだにある」

部落差別は結婚や就職、土地購入の際に顕在化しやすい。法務省が2019年度に全国を対象に行った意識調査では、「部落差別はいまだにある」という回答が全有効回収数の49%にのぼった。

16年には部落差別解消推進法が制定され、「部落差別のない社会を実現する」と初めて明記された。しかし、ネット社会の拡大で人々の差別意識は表面化しやすくなっており、その規制も難しいのが現状だ。

同年、川崎市の出版社が被差別部落の地名を載せた書籍を出版すると告知し、地名リストをネットに公開した。これに対し、部落解放同盟などは「差別を助長する」として、出版差し止めやリスト削除を求めて提訴。21年9月27日に東京地裁で判決が言い渡されるが、「学問や表現の自由」を主張する出版社側に、どのような司法判断が出るのか注目される。

部落差別解消推進法が賛成多数で可決、成立した参院本会議=2016年12月、東京・国会内

DHCの差別発言に国際的な批判

この数十年、「人権対策といえば部落差別」ととらえてきた日本企業だが、求められる人権意識の水準は、時代とともに高まっている。

2011年、国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択され、人権保護の対象をサプライチェーン全体に広げた「人権デューデリジェンス(DD)」の取り組みが、強く要請されるようになった。

人権DDの法制化が進む欧米に対し、日本は各企業の判断に委ねられており、対応の遅れが目立っている。

また、化粧品大手ディーエイチシー(DHC)が吉田嘉明会長名義で、在日コリアンへの差別的な文章を自社サイトに掲載した問題は、国際人権NGOなどから厳しい批判を受けた。「ムーミン」の著作権を管理するフィンランドの会社は「いかなる差別も容認しない」として、8月にDHCとのコラボ商品の展開を中止することを明らかにしている(参照記事)。

株式会社ディーエイチシー本社(東京都港区)

同和問題を学べば、心の中に「抗体」

部落地名総鑑事件の教訓は、国際標準の「ビジネスと人権」に生かされていないのか。

企業研修の経験が豊富な近畿大学人権問題研究所の北口末広主任教授は、同和問題に取り組んできた大阪同企連や東京人企連には「人権DDのほか、障害者やLGBTQなどの差別問題に熱心に取り組んでいる企業が多い」と指摘する。

「一つの差別問題に取り組めば、差別を助長する誤った情報を受け入れない『抗体』が心の中にできる。それが他の差別問題にもプラスになっていく」

外国人労働者に対する人権侵害も、開発途上国への差別意識が根底にあるとされるが、「抗体」によってそうした偏見は防ぎやすくなるという。

オンラインで取材に応じる近畿大学の北口末広教授

「システム」が人の心を変える

しかし、日本社会全体を見渡せば、人権意識の遅れは否めない。根強い差別意識を解消するカギは、法制度などの「システム」にあると北口氏は言う。

「国連で法務部長を務めたオスカー・シャクター氏は『法は人の行為を変え、行為は人の態度を変える。さらに心を変える』と述べている。理念法とはいえ、部落差別の解消を目指す法律ができた意義は大きい。東京証券取引所も今年6月、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)を改訂し、『人権の尊重』を盛り込んだ。こうしたシステムの整備が人権教育と併せて進めば、意識の改革も大きく前進するはずだ」

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Source: ハフィントンポスト
出身地で学生を就職差別。1冊数万円の「部落地名総鑑」を企業が買っていた事件から学ぶべきこと

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