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「兄弟から性被害」「親から暴力」帰る場所がない大阪・グリ下の若者たち。新しい“居場所”としてのユースセンター。ミナミの若者支援の今

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大阪・ミナミの繁華街のグリ下大阪・ミナミの繁華街のグリ下

大阪・ミナミの繁華街の通称「グリ下」、グリコの看板下エリアには、虐待や性暴力などで家庭に居場所がない若者が集まる。

年末年始に合わせて大阪府警は12月20〜21日にも一斉補導を行い、中学生を含む10代の男女14人を補導し、保護者に連絡し帰宅を促すなどした。

しかし、グリ下に集まる若者の多くは家庭で問題を抱えており、安心して帰れる家がないというのが実情だ。

ミナミの繁華街にそんな若者たちが安全に集まれる新たな「居場所」が必要だと考え、NPO法人「D×P(ディーピー)」(大阪市)が2023年夏からユースセンターを運営している。 

グリ下の若者が置かれる状況や支援の“今”とは。ユースセンターを訪れた。

D×Pが大阪・ミナミで運営するユースセンターD×Pが大阪・ミナミで運営するユースセンター

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◆グリ下に代わる「居場所」に

D×Pが運営するユースセンターは、グリ下から徒歩5分ほどの場所にある。

センターに足を踏み入れると、繁華街の雑多な喧騒とは打って変わって、友人の家に迎え入れられたような、あたたかな雰囲気を感じる。

多くの10代の若者の部屋がそうであるように、漫画やギター、ぬいぐるみ、ゲームなどが置かれ、思い思いにくつろげるスペースが各所に作られている。

若者たちは、虐待や性暴力、経済的搾取などを経験し、居場所を求めてユースセンターに足を運ぶ。センター内では、安心して自分の話をすることができ、意見を尊重される「セーフスペース」であることを目指している。

若者が安心して過ごせるよう、センター内には漫画やぬいぐるみなどが置かれている若者が安心して過ごせるよう、センター内には漫画やぬいぐるみなどが置かれている

1日50~60人ほどがセンターを訪れ、暖をとりながら安心して休み、友人たちと温かい食事を摂る。

センター内にあるキッチンではスタッフが食事を作り、訪れる若者が共に調理をすることもある。これまで延べ5000食以上を提供してきた。

令和の若者の居場所らしく、TikTokの撮影場所も。様々な事情を抱えた若者が集まることから、「TikTok撮影場所」と書いたついたてが設置され、撮影中の映り込みを心配しなくていいような対策もされている。

D×PのユースセンターD×Pのユースセンター

◆低年齢化するグリ下。小学生の子どもたちも

2023年6月にオープンしたユースセンターは、週に2回、午後4〜10時の時間帯で開所している。夜に仕事をする20代の若者も出勤前に立ち寄れる時間帯を想定して設定された。

利用者の主な年齢層は13~17歳で、25歳までの20代も利用可能だ。

グリ下に集う若者は、SNSの影響もあり年々、低年齢化しているという。

D×P理事長の今井紀明さんは「以前と比べて小学生も増えている」とし、グリ下の現状についてこう話した。

「SNSを介して繋がった若者がグリ下に集まっています。『死にたい』や『オーバードース』などのキーワードを辿って繋がる子たちもいます。個人的には、人と繋がり、コミュニティーを作る力があるの良いことだと思っていますが、グリ下が性的搾取や犯罪に繋がりやすい場所になってしまっていることは大きな課題です」

犯罪に巻き込まれることなく安心して集まれ、必要な支援や福祉に繋げられるようなグリ下の代わりとなる場所が必要だと強く感じ、ユースセンターの開設に至った。

ユースセンターで話す、D×P理事長の今井紀明さんユースセンターで話す、D×P理事長の今井紀明さん

◆グリ下でテントを設置。「長期支援や安全に集まれる場所の必要性感じた」

D×Pがまず始めたのは、グリ下でのテントの設置だった。

2022年8月からグリ下でテントを張り、16〜25歳の若者を対象にフリーカフェを展開。弁当の配布などを始めた。

当時はまだ、グリ下の若者をサポートする支援団体もなく、なんとか若者たちと関わりを作り、支援に繋げようと努力を重ねた。

グリ下で運営していたフリーカフェ。ユースセンターをつくるきっかけとなったグリ下で運営していたフリーカフェ。ユースセンターをつくるきっかけとなった

D×Pでは、LINE相談から食糧支援・現金給付などの実物支援につなげる「ユキサキチャット」を運営しているが、LINE相談という機会まで辿り着かない若者が多くいることを課題として感じていたという。

テントを出すと、1日20〜40人の若者が訪れ、真夏の暑さや真冬の寒さも関係なく、何時間もテントに滞在する若者たちがいた。

テントでの雑談からの延長線上で相談を受ける中では、「親から暴力を受けている」「10万円稼いでも全部親に取られてしまう」「兄弟・親族から性被害を受けている」といった悩みを打ち明ける若者も。

必要に応じて、産婦人科などの病院や児童相談所、警察に同行し、緊急的な支援に繋げることも出てきた。

「長期的な支援や、安心して集まれる安全な場所の必要性を強く感じました」(今井さん)

大阪・ミナミのグリ下大阪・ミナミのグリ下

「若者のセーフティーネットとなる居場所を作りたい」とユースセンターの開設を企画し、クラウドファンディングで活動資金を募った。

今では、年間延べ5000人が利用する場所となった。

ユースセンターは若者と一緒に意見を出し合いながら内装なども充実させ、共に作り上げるスタイルも大切にしている。

「学校の先生に虐待や経済的搾取などを相談しても何も対応をしてくれなかったり、家にいるとしんどいから離れたのに警察に帰らされたりといった経験をし、大人への不信感や抵抗感が強い子どもたちがたくさんいます。信頼関係を築き、頼れる大人がいることを知ってもらえれば」

病院とも提携し、1カ月に2回ほど助産師に来てもらい、気軽に相談できる環境を整えている。

医療や住居の支援のほか、生活保護の申請ができる場合は申請のサポートをすることもある。

グリ下には酒や市販薬のオーバードースの問題を抱える若者も少なくない。ユースセンターでは飲酒やオーバードースに関するルールもあり、常時スタッフが見守る体制を取っている。トラブルが起きるのを防ぐため、同所の利用人数にも制限を設けている。

センター内の黒板には利用者が、感想やリクエストを書き込むセンター内の黒板には利用者が、感想やリクエストを書き込む

◆2割が自宅外で寝泊まり。若者が置かれる厳しい状況

居場所は作れたものの、まだまだ課題は山積している。

センターのスタッフや今井さん自身も、「夜10時にセンターが閉まった後に『帰る場所』がない若者が多い」と感じていたが、ユースセンターの利用者にアンケートで聞いてみると、深刻な状況が明るみになった。

D×Pが7〜10月、ユースセンターを利用した13〜25歳の若者200人を対象に実施したアンケートでは、直近1カ月に24%が主に自宅以外で寝泊まりしていたことがわかった。回答者を成人に絞ると、その割合は33%まで上がった。

実家に戻れない理由がある若者たちは、友人や交際相手の家、またはネットカフェなどに寝泊まりしており、半数以上が宿泊場所を必要としている状態にあった。

回答者の平均年齢は17.6歳。最も多かったのが16歳の37人で、17歳が29人、13歳も12人いた。

D×Pでは、シェルター等の施設との連携などの対策の強化も視野に入れている。

「周りの大人や社会に伝えたいことは」という設問の自由解答欄では「生きにくい」「孤立している人に目を向けて」「さびしい、しんどい」と、世の中に対する叫びのような悲痛な声も寄せられた。

グリ下という場所についても「グリ下は居場所」「警察も橋の下にいる子どもたちに寄り添ってあげてほしい」「おうちに帰せばいいと思わないで」との声があがった。

《今の私を認めてくれて、たくさん話しかけてくれて、怒ってくれる人や好きになった人がいるからグリ下を抜けられない》

《未成年の居場所がない子たちを見守れる場所を増やしていってください》

大阪・ミナミのグリ下大阪・ミナミのグリ下

◆大阪府や市との連携も

グリ下がニュースなどで注目を集め始めると、大阪府知事や大阪市長も視察に訪れ、行政からの注目も高まった。

ユースセンターがオープンした時期とも重なる2023年夏からは、グリ下の課題に対応するための府市・官民連携の「グリ下会議」がスタートし、会合を重ねている。

そこにD×Pも参加し、現場で感じる課題や必要な支援などを提案している。

ユースセンターの運営を含むD×Pの活動費の大半は寄付で賄われている。資金面の課題やNPOのみで出来る範囲の限界もあるため、各セクターで協力できる形を議論する場となっている。

9月にはD×Pは大阪市と連携協定を締結。調査による実態把握など、官民連携でどのように連携して対応していけるかを探っていく。

(取材・文=冨田すみれ子)

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「兄弟から性被害」「親から暴力」帰る場所がない大阪・グリ下の若者たち。新しい“居場所”としてのユースセンター。ミナミの若者支援の今

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