防災のためにも気候変動対策が必要だ。能登豪雨にも影響と気象庁が分析。

能登半島地震の仮設住宅も、大雨により浸水した。2024年9月22日午前、石川県輪島市

能登で復興ボランティアをする大島さん(仮名)は、泥かきをしながら思った。「被災地に心を寄せる人は多いけれど、災害が起きる原因に目を向ける人はどれくらいいるだろうか」と。

9月21日と22日、年始に起きた地震から少しずつ復興が進んでいた石川県・能登半島を記録的な豪雨が襲った。20以上の川が氾濫し、15人が亡くなった。

気象庁などは12月9日、この大雨について地球温暖化の影響を評価したところ、総雨量(9時間積算雨量)が15%増加していたことを確認したと発表した。

大島さんは、6月に気候変動によって激甚化する災害などで被害を受けるのは人権侵害として、日本弁護士連合会に人権救済申立て※を行った365人のうちの一人でもある。

だからこそ、訴える。防災のためにも気候変動対策が必要だーー。

※「人権救済申立て制度」は、基本的人権が侵害されるおそれがある事態について、被害者や関係者が弁護士会に対して人権救済申立てを行い、弁護士会の調査の結果、人権侵害またはそのおそれがあると認められた場合は、人権侵犯者やその監督機関に対して、勧告や警告などの措置を行う仕組み。

2024年9月に撮影された、能登豪雨直後の被災地

「海洋熱波」が、記録的な雨量の要因

大島さんは春頃から、能登で復興ボランティアとして、泥かきや現地で生活に困っている人のための居場所づくりを行ってきた。

地震の爪痕がまだ色濃く残りながらも、やっと仮設住宅が完成し、スーパーや飲食店が再開し、多くの人が未来に向けて何をしようかと考え始めていた。そんな矢先に能登を襲った豪雨は、「現地の人にとって精神的にかなり堪えるものがありました」と話す。

「河川が氾濫して浸水した家屋が非常に多く、完成して数カ月しか経っていない仮設住宅が浸水して退去しなければならない状況に陥った地域もありました。学校が浸水してしまい、隣町の学校まで通学しなければならないような子どもたちもいます」

気象庁によると、9月20日から22日までの総降水量は石川県で500ミリと、たった2日で平年の9月の月降水量の2倍に上った。特に21日には能登で線状降水帯が発生し、輪島市では3時間降水量観測史上1位を大幅に更新。たった3時間で1カ月分の雨が降った

東京大学の中村尚教授は防災学術連携体の速報会で、能登豪雨当時、「輪島沖の海面水温は28度と熱帯並みに高く、平年より4度も高かった」と説明。秋雨前線の停滞など大雨になりやすい気圧配置に加え、この「海洋熱波」とも言える高い海面水温が、記録的な雨量の要因の一つだと指摘した。

地球温暖化の熱の9割以上は海洋に蓄積されており、日本近海でもその影響が指摘されている。このまま地球温暖化が進めば大雨がより激しく、頻繁に起きる可能性が高い

大島さんは、「能登のような豪雨災害と気候変動を結びつけて考える人が少ないと感じています」と危機感を訴えた。

気象庁レーダー画像に赤い楕円で示された能登半島北部の線状降水帯(2024年9月21日、気象庁)

「あなたも、この災害の当事者の一人」

現地の人は今、目の前の生活で手一杯だ。だからこそ、「僕のようなボランティアを含め、周りの人が声を上げるべきだと思いました」と大島さんは話す。

「能登現地の人が気候変動に目を向けるには時間が必要だと思いますが、今、水も電気も十分に使える人が、気候変動による災害を『自然災害だからどうしようもない』と考えるのは、全く違う話ではないでしょうか」

また、「この記事を読んでいるあなたも、この災害の当事者の一人です」と大島さん。

「世界的な産業活動、消費活動によってもたらされた気候変動の影響が、今回たまたま能登に被害を与えました。次はあなたの住んでいる地域に線状降水帯が発生するかもしれないし、あなたの大切な人が被害を受けるかもしれません」

地震と豪雨の「複合災害」に見舞われた能登。地震発生からもうすぐ1年が経とうとしているが、復興の道のりは未だ遠い。国は2026年中に防災庁の設置を目指す予定だ。大島さんは「気候変動に対する優先順位を、あと2段階は引き上げてもらいたいです」と、防災と気候変動を結びつけて対策を取るべきだと訴える。

「災害が起こった後のことも大事です。しかし、災害が起こる前のことの方が、もっと大事だと伝えたい。気候変動はエネルギー、生活、防災、経済、さまざまな側面に影響を及ぼす、少子化と並んで国の存続に関わる非常に大きな課題です」

「気候危機による人権侵害は、既に現実化している」

豪雨災害や危険な暑さによる熱中症など、気候変動は日本でも既に人々の命を奪っている。

日弁連に人権救済申立てを行った気候訴訟ジャパンの日向そよさんは、「気候変動はただの自然災害ではなく、発電方法など社会のシステムを変えれば食い止められることなんだという前提を作りたい」と話す。

「これまで気候変動は防災、エネルギー、経済など単体のカテゴリーでしか議論されてこなかったように見えます。しかし、気候変動はすべてのカテゴリーに横断する問題であり、命と人権の問題として横断的に取り組むべきです」

日弁連は10月、「気候危機による人権侵害は、既に現実化している」とした上で、人権保護として再生可能エネルギーを選択することや、気候変動の被害を最小限に抑えるための世界目標「1.5℃目標」と整合する方法で温室効果ガスの排出を削減することなどを求める決議書を公表した。

日向さんは、この日弁連の決議書は「希望です」と話す。

「上下関係や権力のもと、無力感や諦めでいっぱいになりそうになる今のような社会には、希望がとても大切だと思います。日弁連のような組織が権力に対して国民のために声を上げることはそのひとつだと感じます」

今後日向さんらの人権救済申立てに対して、日弁連の調査の結果、人権侵害またはそのおそれがあると認められた場合は、人権侵犯者やその監督機関に対して、勧告や警告などの措置が行われる。司法は市民の声を希望につなげられるか。

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防災のためにも気候変動対策が必要だ。能登豪雨にも影響と気象庁が分析。

Maya Nakata