人生を「5°」だけ変えてみる。キャリアブレイクという“隙間”が生み出すものと「履歴書の空白」の捉え方

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「キャリアブレイク」という言葉を知っているだろうか。

キャリアブレイクとは、一時的に離職・休職し、働くことから離れるブレイク(休憩)期間のこと。職を離れる期間を旅行や留学、学び直しなどにあて、自身の“仕事観”や“人生観”を整えるという文化が広まりつつある。

社会課題解決に特化した求人を提供する「WORK for GOOD」は11月8日、「働かない時間が『社会を変える』きっかけになる?“社会派キャリアブレイク”のすすめ」と銘打ったトークイベントを実施した。

キャリアブレイクをはじめ、人生に“小休止”を打つことで、どんな効能が得られるのだろうか。キャリアブレイクの意義やそのインパクトについて語り合ったイベントをレポートする。

無職の人々は「社会のお荷物」ではない

イベントには、一般社団法人「キャリアブレイク研究所」の北野貴大さん、北海道東川町で大人の学び舎「School for Life Compath」を運営する安井早紀さんが登壇。WORK for GOODの山中散歩さんがファシリテーターを務めた。

北野さんは法政大との共同研究から、キャリアブレイクについて「中心的な役割を手放し人生と見つめ直す期間」と定義する。

キャリアブレイクに興味を持ったのは、妻からの「1年、無職をしてみたい」との相談がきっかけ。離職を“よい転機”とし、友人との再会や旅行、学び直しを経て新たな人生を整えていく姿にワクワクしたという。

「それまでは無職=だめな状態だと思っていましたが、自ら小休止を挟んで人生をつくるのは“カッコいい文化”だなって。キャリアブレイクを文化として広げて、社会の固定化されたリズムをアップデートしたいと思い、起業しました」

2022年にキャリアブレイク研究所を設立。キャリアブレイク中の人々や経験者らが気兼ねなく語り合える場として「無職酒場」などのイベントをひらき、のべ5000人以上のコミュニティを育んできた。

研究所の活動に共感し、農園や寺社、地方自治体など「サードプレイス」となる事業者との連携も増えている。キャリアブレイク中の人々が被災地のボランティアに参加したり、農業などの季節労働に従事したりするなど、「キャリアブレイクという文化に社会的効能があることも見えてきた」という。

「無職の人々はぼーっとしている社会のお荷物のように思われてきましたが、自己投資して『転機』をつくっていることが可視化されたことで、さまざまな事業者が参入するようになりました。キャリアのブランクが人生を不利にするというのは呪いでしかなく、その期間を堂々と過ごし始めた瞬間に就職が決まるなど、新たな道が開けていくと感じています」

今後は、キャリアブレイクを社会のバッファー(ゆとり)――漢方やサウナ、旅のような「エンタメとケアの間の文化」に育てていきたいという。

https://twitter.com/kitanothiro/status/1856519733392388116?ref_src=twsrc%5Etfw

人生を「5°」だけ変えてみる

安井さんは、デンマークで“人生の学校”と呼ばれる「フォルケホイスコーレ」をもとにした大人の学び舎「School for Life Compath」を運営している。

幼い頃から長女気質で生粋の「休みベタ」(安井さん)。大学卒業後は、大手企業の人事を担当するも「楽しいけれど、上りのエスカレーターをずっと駆け上がっているような状態だった」と振り返る。

2017年、2週間の休暇でデンマークに赴き、フォルケホイスコーレに出合った。

フォルケホイスコーレとは、17歳以上であれば国籍を問わず誰でも入学できる全寮制の学校。高校卒業後のギャップイヤーで利用する若者から、キャリアの見直しを考える中高年まで、さまざまなバックグラウンドを持つ人が集う場だ。

「アートやジャーナリズム、サステナビリティなどさまざまなテーマを持つ学校がありますが、その知識や技術を習得することより、それを通じて自分自身を探索する、世界を広げるのが一番の目的です。

自分の価値観って、忙しく働いていると見えなくなる瞬間がありますよね。心のコンパスがどこを向いているのかは、離れて眺めてみないとわからない。問い直しや自己理解を深めるのがフォルケホイスコーレの役割で、日本にもそういう場が必要だと思っています」

また、キャリアブレイクについて「大きな変化を起こそうと意気込むのではなく、人生を5°だけ変えてみる気持ちも大事」と語る。

「人生の方向性は、“ほんの少し”を何年か積み重ねた上で変わると信じてやってみるといいんのでは。個人的におすすめなのは、違う環境に身を放り込んでみること。知らない人や土地とつながることは、想像より遠い場所に自分を連れて行ってくれますから」

キャリアブレイクの「成功」はいつ決まる?

二人の対談パートは、参加者からの「キャリアブレイク自体に失敗しても、その後大成功することもありますよね」との一言から、「キャリアブレイクは何を持って成功といえるのか」とのテーマからスタート。

北野さんは「たとえば職場でのパワハラや親の介護など、納得できないような理由でキャリアブレイクが始まることもある。そういう出来事は『キャリアの失敗』というラベルを貼りたくなるけれど、いつ評価してあげるかが大事」と回答。

また、仏教の四十九日を例に挙げて「あるお坊さんに『悲しみなどの感情を生きる希望に変えるには七週間(四十九日)かかる』と教えてもらいました。ネガティブな出来事も、時間をかけて発酵させれば栄養になって花を咲かせることもあると思う」と語った。

キャリアブレイクの「四つの入り口」

キャリアブレイク研究所は、経験者らへの聞き取りを通じて、キャリアブレイクには図のように「四つの入り口」があるとしている。その上で、二人は、起業や学び直しなど特段の理由がないキャリアブレイクにも「意味がある」と強調。

安井さんは、「この社会はハイスピードで動いていて、“隙間”を開けないと息苦しくなることもあります。そんな中でキャリアブレイクで立ち止まること自体が目的になり得る。余白を取ることで物事が上手く回り始めることもあるのではないでしょうか」と語った。

「履歴書の空白」=人生をよく考える期間

キャリアブレイクは欧米では一般的に浸透しているものの、日本では働いていない時間=無職となり、ネガティブな印象を持たれやすいのが現状だ。

履歴書の空白期間を「ブランク」とマイナスに捉えるのか、それとも「学び直しや見つめ直しの期間」と前向きに認めてくれるのか。北野さんは「経歴で見ているのか、それとも人で見ているのか、会社としてのスタンスの違いだと思う」と指摘した。

安井さんは「デンマークでは空白期間を『とても深く考えたうえで(採用試験を)受けてくれたんだね』と評価する文化がある」と紹介した上で、日本の現状についてこのように語った。

「手当たり次第に応募して間を開けずに転職するより、『これから歩みたい人生ってなんだろう』『作りたい社会ってなんだろう』と時間をかけて考えることを『いいね!』と思ってくれる会社がどれだけあるでしょうか。人的資本経営という言葉が流行っている中で、本当に人を資本だと思うのなら経歴ではなく、人で見てくれる会社が増えてほしいですよね」

働き続けるのがよしとされる社会で、いったん「休んでみる」のは勇気がいることだ。ただ、一時的に距離を置いて自分を見つめ直すことで、仕事の意義や価値づけといった「仕事観」を整えることもできるのではないだろうか。

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人生を「5°」だけ変えてみる。キャリアブレイクという“隙間”が生み出すものと「履歴書の空白」の捉え方

Yu Shoji