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「選択的夫婦別姓実現に、可能性が」。政府に厳しい指摘、国連女性差別撤廃委員会の元委員長、林陽子さんに聞いた

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2024年10月、国連の女性差別撤廃委員会で、8年ぶりに日本のジェンダー平等の取り組みについて審議が行われました。結果をふまえ、委員会は選択的夫婦別姓の導入などを求める勧告を日本政府に出しました。

主な勧告内容は以下です。

1、民法を改正し、選択的夫婦別姓を導入すること。
2、女性が意思決定の場で平等に代表されるよう、国政選挙の供託金300万円について、暫定的な措置として引き下げること。
3、すべての女子が緊急避妊薬を含む近代的な避妊方法にアクセスできるようにすること。
4、女性が妊娠中絶を求める際に配偶者の同意を必要とする母体保護法の要件を撤廃すること。

さらに、委員会は日本は「根強い『家父長的な態度』や「深く根付いた『ジェンダー・ステレオタイプ』の存在」に懸念が残ると指摘しています。

この委員会は2015年から2年間、林陽子弁護士が委員長を務めていました。現在は「市川房枝記念会女性と政治センター」の理事長を務めている林さんに、この勧告の意義と展望を聞きました。

林陽子弁護士林陽子弁護士

――今回の女性差別撤廃委員会の勧告について、どう感じましたか??

今回の勧告内容には、私自身が日本に必要だと考えるポイントが全て網羅されていて、過去5回にわたる勧告の中では一番よくできていたと思います。委員の質問もよく準備されていました。

ただ、日本政府の反応については、「国民世論の動向を見ている」と答える場面が多く、自分たちが条約の趣旨を実現するためにこういう努力をしている、という部分が少なかったのは残念でした。

――今回の審議では、特に選択的夫婦別姓の問題が注目されましたね。

選択的夫婦別姓の問題はフォローアップ事項(最重要勧告)であり、大きな財政的負担がかかるわけではないのに、何度も同じ勧告を受け続けている。

多くの委員たちは、障害となっているのは日本社会の「世帯主は男性で、その名字に統一することは子どもにとってもいい」といった家父長的な意識であり、日本だけがこのような制度を続けていることに違和感を抱いています。また、政治の意思決定の場に女性が少ないために政策が進まないとも指摘されました。

今回の勧告に「供託金の引き下げ」が入ったのも、一見唐突に見えるけれども、女性議員が少ないのは選挙制度の問題でもあると一石を投じてくれて、鋭い指摘だと感じました。

――勧告は2年以内に取り組むよう求めていますが、選択的夫婦別姓などが実現する可能性についてはどうお考えですか?

2024年の衆院選で、自民党が少数与党となったことで、選択的夫婦別姓に反対しているのは国民ではなく自民党の中の一部であり、石破茂総理も総裁選までは「反対する理由がわからない」と発言していた。総裁選前、今年6月には自民党の支持基盤である経団連さえ夫婦別姓導入を求める意見書を出していた。

だから、新政権となり、衆議院の法務委員会の委員長に、選択的夫婦別姓導入に賛成する立憲民主党の西村智奈美議員が起用されたことで、私は実現のための仕組みが整ったのではないかと非常に期待しています。

――勧告に対しては「強制力がない」という指摘もありますが。

確かに勧告には法的拘束力がありませんが、女性差別撤廃条約に署名し、批准している国として、誠実に対応する義務があります。また、女性差別撤廃委員会の委員は、日本も関与して選出していますので、勧告に対して真摯に向き合うべきだと思います。

林陽子子弁護士(左)に話を聞く山本恵子林陽子子弁護士(左)に話を聞く山本恵子

 「女性差別撤廃条約」署名のキーパーソン、市川房枝

――今回行われた、国連の女性差別撤廃委員会による審査は、「女性差別撤廃条約」に日本が署名、批准したことから、ジェンダー平等の取り組みについて定期的に行われているものです。そもそも、1979年に国連で採択された「女性差別撤廃条約」、日本は署名に及び腰で、署名を見合わせることを決めていました。

しかし、女性の地位向上に取り組んでいた市川房枝さんら女性議員や女性団体が政府に働きかけ、1980年に署名、国内法として「男女雇用機会均等法」を整備し、1985年の批准に至ったと聞いています。「女性差別撤廃条約」に果たした、市川房枝さん、女性たちの役割とは?

市川房枝さんはキーパーソンですよね。女性差別撤廃条約が国連総会に出たときに一票を投じたのが、国連公使だった赤松良子さん。赤松さんは今年亡くなりましたが、ニューヨークにいる赤松さんから「間もなく条約が採択されます」という喜びをつづった市川さん宛の手紙が、最近見つかりました。市川さんが優れていたのは「国際婦人年連絡会」というアンブレラ・オーガナイゼーション(統括組織)を作ったことで、最盛期には50を超える団体が加盟していたのですが、女性差別撤廃条約のために仲間と一緒に行動し、署名や批准が実現しました。

――今後、日本が男女平等を実現するためにはどのような取り組みが必要だとお考えですか?

重要なのは、女性団体や人権団体が連携し、実際の生活に即した政策提言を行うことです。例えば、国内人権機関の設立や包括的な反差別法の制定など、幅広い人々の声を集約する運動が求められます。市川房枝さんも多様な団体をまとめ、連携を重視して活動されていました。現在の私たちも、女性たちが真に求めるものを実現するために力を合わせる必要があると思います。

【今回の「時代のKポイント」は…脱「日本型福祉社会」】

11月の第3日曜日、11月17日は「家族の日」だと2005年に決められたことを、ご存知ですか?合計特殊出生率が1.26になったこの年、「少子化対策を進めるためには『家族・地域の絆を強化」することが重要だ』として、社会の意識改革のための国民運動として、「家族の日」や「家族の週間」が制定されました。

しかし、なぜ家族・地域の絆の強化が、少子化対策なのでしょうか?選択的夫婦別姓反対の意見でも出てくる「家族の絆」が、少子化を盾に突如登場した、国民運動としての「家族の日」制定。なんだかアヤシイ目論見を感じませんか?

「家族の日」構想の源流は、実は45年前。大平正芳総理大臣の時代までさかのぼります。「家庭は、社会の最も大切な中核であり、充実した家庭は日本型福祉社会の基礎である」と、福祉の担い手は、個人、家庭、地域を基礎だとする「日本型福祉社会の創造」を打ち出し、その重点施策の一つに挙げられたのが「家庭の日」の設置だったのです。

「日本型福祉社会」は、子育てや介護を家庭、つまり女性の仕事とすることにつながるーー。この点を批判した市川房枝さんの呼びかけで設立された女性団体などが抗議活動を展開し、この時は設置が見送られたという経緯があります。それがなぜか2005年に再びゾンビのように復活を遂げたというわけです。

国連の女性差別撤廃委員会でも指摘された、選択的夫婦別姓に反対する理由に「家族の絆」「伝統的な家族観」の崩壊を主張する人たちがいます。しかし、前提となった「家族」の姿は昭和の時代から大きく変わっています。

林弁護士も「伝統的な家族観を主張する方もいますが、現代の日本社会においてその考えがどれほど有効なのかは疑問です。介護や育児の面からも、家族の在り方を再考し、多様な家庭が受け入れられる社会を目指すべきではないでしょうか」と話しています。

女性差別撤廃委員会は選択的夫婦別姓などの勧告について取り組みの状況を2年以内に報告するよう日本政府に求めています。

自民党が過半数を割った石破政権で、選択的夫婦別姓はじめ、今回、女性差別撤廃委員会に指摘された「日本のジェンダー平等」の課題にどう取り組むのか。脱「日本型福祉社会」、「家族」をキーワードにウォッチしていきたいと思います。

(取材・執筆:山本恵子、編集:泉谷由梨子)

ジェンダー・男女共同参画担当のNHK解説委員を務めたジャーナリストの山本恵子が、キーパーソンにインタビューし、注目すべきポイントを解説。ジェンダー平等を目指す社会でここが変化の局面(K点、Kポイント)になりそうだという現在の動きを取り上げます。

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「選択的夫婦別姓実現に、可能性が」。政府に厳しい指摘、国連女性差別撤廃委員会の元委員長、林陽子さんに聞いた

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