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裁判傍聴でレインボーのピンバッジを外すよう求められる。裁判所はどこまで制限できる?

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横浜地方裁判所横浜地方裁判所

レインボーカラーのピンバッジやアクセサリーは外してください――。

東京都内在住の30代女性は4月23日、横浜地裁の裁判傍聴で、カバンやパソコン、スマホなど、持ち物すべてを預けるよう指示された。 

普段、体調管理のためにつけているスマートウォッチも、「通信機能があるから」という理由で預けさせられたという。

さらに、身につけていたトランスカラーやレインボーカラー、レズビアンカラーのネックレスやピンバッジもすべて外すよう言われた。

レインボー柄をめぐっては、2023年に福岡地裁でも着用が禁止され、傍聴人が靴下の柄を隠さなければならなかった。

女性は、「スマートウォッチに至っては何のシンボル性もないのになぜ外せと言われたのだろうと思いました」と疑問を呈する。

 法廷で、傍聴人の身なりや装飾物はどこまで規制できるのか。

憲法を専門とする慶應大学法学部の駒村圭吾教授への取材などをもとに、「表現の自由」「裁判官の中立性」「説明責任」といった観点から、この事象を考える。

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どんな裁判?横浜地裁の説明は

女性が傍聴したのは「女性スペースを守る会」が台湾文学研究者の劉霊均氏を訴えている裁判。

女性スペースを守る会」は、トランスジェンダー女性が、女性トイレなどを使うことについて「公認されて良いかを問い、諸々の課題がある『性自認』について立ち止まって十分な国会審議を求める会」だ。

トランスジェンダー女性の女性トイレ使用に慎重論を唱えている同会を「悪質トランス差別団体だ」とSNSに投稿した劉氏を相手に、名誉毀損だとして裁判を起こしている。

女性スペースを守る会がnoteで公開している資料によると、同会は4月23日の裁判についての上申書(3月14日付)で、レインボーやトランスカラーは「劉氏を支援する人たちの運動マークである」と説明。

法廷の静ひつを守り、原告や傍聴に来る女性に対する心理的な圧迫があってはならないという理由で、レインボーやトランスカラーのグッズやマークを禁止するよう裁判所に要請していた。

横浜地裁は、劉氏の訴訟における法廷への持ち込み規制について「当該事件においては、傍聴に必要とする以外の手荷物は所持品預かり所に預けていただいた」とハフポスト日本版の取材に説明した。

スマートフォンの持ち込み制限や、レインボーカラーのピンバッジ、アクセサリーの禁止理由を尋ねると「持ち込み制限は、裁判体の指示により行ったものである」と回答。具体的な理由については「お答えしていない」と明かさなかった。

また、女性スペースを守る会から警備強化やレインボーカラー禁止の要望があったかどうかについては「答えない」とした。

裁判所はどこまで規制できるのか

表現の自由は憲法で保障されている。

一方で、慶應大学の駒村圭吾教授によると、法廷は「表現のための場」ではないため、傍聴人の自己主張や表現の自由は大幅に制約されるという。

また裁判所の「傍聴についての注意」や「裁判所構内における注意事項」の中で、旗やプラカードなどの持ち込みの禁止や、はちまき、ゼッケン、たすき、腕章を着用しないよう求めている。

駒村氏によると、ゼッケンやたすき、はちまきが禁止されているのは「ある種のメッセージを発するもので、公正な裁判を阻害する可能性がある」と考えられているからだ。

その観点から考えれば、レインボー柄もメッセージ性があるため、見える場所につけられているピンバッジやネックレスは、規制の対象になりうるという。

さらに、裁判官には「法廷警察権」が与えられており、法廷の秩序や静寂を守るために、装飾品や持ち込み物を規制できる。

その一方で、駒村氏は「だからと言って、裁判所は何でも(規制)できるわけではない」とも話す。

例えば、靴下や指輪といった見えないようなものにまで禁止が及べば、「過度の規制」と捉えられる可能性もあるという。

「裁判所に法廷警察権があるのは、秩序を維持し、公平な裁判をしなければならないからです。そうであれば傍聴人に表現の自由があるという主張は難しくても、他方で、『秩序を維持して公正な裁判をするという統治目的のために本当に妥当な措置だったか』を客観的に問うことはできます」

「一般的に、靴下のような見えないものが法廷の秩序を乱すとは考えられません。それまで取り締まろうとすると逆に『裁判官の過剰反応であり、むしろ予断と偏見に囚われているのではないか』と受け止められ、裁判の公正性を疑われる可能性も出てきます」

中立の立場で判断したか

駒村氏は、規制を行う際には「裁判長(裁判官)が中立の立場で自ら判断したか」も重要なポイントになると指摘する。

今回の裁判では、「女性スペースを守る会」が、レインボーカラーのグッズなどが傍聴する女性らへの心理的な圧迫になるとして、禁止するよう裁判所に求めていた。

駒村氏は「もし、裁判官が一方の当事者の要求だけを全面的に認め、求められるがままに規制すれば、公平性に疑いが生じる」と話す。

「裁判官は双方の意見を聞いた上で、公平、中立に判断しなければなりません。最終的に一方の当事者の言い分と全く同じ結論になるとしても、裁判官が自ら主体的に判断することが重要です」

「また、判断が中立であることを示すためにも、公権力を持つ裁判所には、従来の傍聴慣行と異なる措置をする場合、その理由を説明する責任があります」

従来と違う判断には説明が必要

今回の裁判では、携帯電話やスマートウォッチの持ち込みも禁止された。

裁判所の「傍聴のルール」では、「法廷では携帯電話などの電源を切ること」とあるが、持ち込み自体は禁止されていない。

駒村教授は、通常とは異なる措置であり、説明が必要だと話す。

「裁判官には法廷警察権があるので、持ち込み禁止にすること自体は可能です。ただし携帯電話やスマートウォッチの使用制限を超えて持ち込み自体を禁止するのは従来とは異なる扱いである上、一時的にせよ、大事な物品を預かるわけです。その理由は説明しなければならないと思います」

「そうでなければ、過剰に法廷傍聴者を疑っていることになり、その疑い自体が、裁判の当事者や、支援団体に対する偏見に基づいているのではないかと捉えられかねません。裁判所の公正が疑われる可能性が出てきます」

今回の裁判以外でも、傍聴人がバッジなどを外すよう要請されるケースが相次いでる。

静岡新聞によると、4月に行われた袴田巌さんの再審では、静岡地裁が弁護団に支援団体のバッジを外すよう要請したり、傍聴人の上着に書かれた「HAKAMADA」の文字をテープで隠すよう指示したりした。

静岡地裁は理由について「いずれも回答しない」としているという。

駒村氏は、こうした規制について裁判所に説明を求める仕組みが現状ないため、理由を問うには裁判所を相手に裁判をするしかないと話す。 

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