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選挙時に政治家へ気候危機について聞く活動を行う若者団体「#選挙で聞きたい気候危機」の阪田留菜さん(大学4年生)は4月26日、参考人として出席した衆院環境委員会で、当初参考人として推薦していた高校生の出席が叶わなかったと明かした。
衆議院の環境委員会は26日、気候変動について活動を続ける若者を、温暖化対策推進法案の改正をめぐる議論にあたって参考人として招致した。
野党は当初、高校3年生の角谷樹環さんを推薦していたが、委員会の協議で、「高校生には難しいのではないか」などの意見が出たとして、推薦を同若者団体に所属する大学4年生の阪田留菜さんに変更して参考人が決定していたことが関係者などの取材で明らかとなった。
角谷さんが成人になり、衆院選の投票権を得るまでにはあと3ヶ月かかる。だが、現在の衆院が任期満了を迎える時には有権者になっている年齢だ。高校の同じクラスには、すでに有権者になっている人も少なくない。
角谷さんはハフポストの取材に対し、「根底には若者に対する偏見があるのではないかと思いました。気候変動の影響をより多く受ける若者などの当事者の意見を、もっと意思決定プロセスに組み込んでほしいです」と語った。
経緯は?
4月16日、「#選挙で聞きたい気候危機」のメンバーの1人のもとへ野党が連絡。温暖化対策推進法案の改正をめぐり、環境委員会で若者の立場から気候危機について提言をしてくれる人はいないか、と相談したという。
そこで同団体は「#選挙で聞きたい気候危機」のメンバーの1人である高校3年生の角谷さんを推薦。野党は立憲はこの提案を受け、参考人として角谷さんを委員会に推薦した。
ところが委員会内の協議で「高校生で大丈夫か」と懸念の声が上がり、推薦が受け入れられなかったという。
その後、野党は推薦の件を持ち帰り、代わりに同じ団体の大学4年生を推薦し直し、参考人として招致されることとなった。
参考人を選ぶ基準は?
参考人招致とは、国会での審議のため、衆議院・参議院の委員会が審議する案件の関係者らの出席を求めて意見を聞くものだ。「証人喚問」とは違って出席を拒むこともでき、仮に虚偽の発言をした場合の罰則もない。
では、委員会の参考人は誰がどのように決定するのか。
公式の手続きとしては委員長が参考人に出席を求める。環境委員会の委員長を務める自民党の務台俊介衆議院議員はハフポストの取材に対し、「参考人は委員長が司会を務め、与党筆頭理事と野党筆頭理事で協議して決めています」と説明した。
参考人の選定において、年齢に関する条件や決まりは特段なく、高校生を選ぶこともできるという。一方で、務台議員は「国会は格式が高い」として、改正法案や環境全般の保護制度の枠組みへの理解をもち、国会議員からの質疑にしっかりと答えられるなどが求められると説明した。
「最初は、将来環境からいろんな影響がある世代だからそれでもいいかと思いましたが、さすがに法案審議で、専門家として国会議員からの質問にお答えいただくのに、本当に高校生で大丈夫か、耐えられるのか、という議論がありました」
「筆頭理事同士の話し合いで高校生にするということであればそれでもいいですが。立憲は環境委員会の格式を汚さないような判断をしたんだと思います」
務台議員はまた「代わりに出てくる大学生の人はもっと活動履歴もある人で、立派な人」と話していた。
「#選挙で聞きたい気候危機」に確認したところ、高校3年生の角谷さんは中学3年生の頃から活動を行っており、今年で気候危機について活動して4年目になる。参考人として招致された同団体に所属する大学4年生の坂田さんは活動を始めて5年目で、その差は1年だ。
環境委員会の野党筆頭、立憲民主党の森田俊和衆議院議員に経緯を聞くと、「法案に対して知見がある方を委員長が推薦するのが参考人で、そこにそぐうかどうかで判断をしたということだと思います。具体的なところはお答えできません」と説明した。
推薦する人を変更した理由について重ねて聞くと、「(当初の推薦人を)突っぱねられてしまったので、推薦しなおしたという感じです。私たちの意見に近い参考人を出したいというのはあるので、突っぱねられてそれで終わりという風にはできないというのはあります」と答えた。
参考人を与野党の筆頭理事が推薦し決めることは公式の手続きではなく、委員長が参考人に出席を求めるまでの事務的な段取りの中で行われるものだが、その判断基準は曖昧な部分が見える。
高校3年生が国会で伝えたかったこと
2021年には、当時大学2年生で19歳だった中村涼夏さんが衆議院の環境委員会に参考人として出席したこともある。
角谷さんは参考人としての出席は叶わなかったが、随行人として委員会に同席することはできた。務台議員とも話したといい、「若者を政策決定のプロセスに組み込むことに前向きだと話してくれました。審議会に組み込むのも良いんじゃないかと言っていただきました」と話す。
「高校3年生で進路相談もありますが、気候危機が悪化すれば自分の将来があるかどうかも分かりません。気候危機の影響を受ける当事者の1人だと思っています。専門家に比べると専門知識が十分ではないかもしれませんが、気候変動の影響を受ける将来世代の当事者としての声を政策の中に入れてほしいです」
角谷さんが国会で政治家に伝えたかったことは、「今の政策のままではパリ協定の1.5℃目標を達成できない。1.5℃目標を達成できるよう、科学的な根拠にもとづいた政策をしてほしい」ということだという。
「3年前、中村さんが国会で行った気候危機を訴えるスピーチを、今そのまま伝えても何の違和感もないというのが恐ろしいです。気候変動の影響をより多く受ける若者などの当事者の意見をもっと重視して意思決定プロセスに組み込み、意思決定の透明化を進めてほしいです」
気候危機は、科学や気象の問題であると同時に「格差」や「不平等」の問題でもある。真っ先に気候変動による被害を受ける構造を是正する「気候正義」の視点を忘れてはならない。
例えば世界全体のCO2排出のうちの約70%もの量が、上位10ヵ国によって占められているというデータもある中で、その代償を払わされている途上国、貧困層の存在がある。
また、これまで多くのCO2を排出してきた過去・現役世代の「ツケ」を払わされるのは、これからを生きる若者世代だ。ユニセフ(国連児童基金)は、『気候危機は子どもの権利の危機である』と指摘している。
果たして日本の政策決定の場に、気候危機の影響を大きく受ける当事者である若者の声は届いているのか。2024年3月21日の参議院の環境委員会では、地球温暖化対策計画の検討を行った中央環境審議会地球環境部会下の気候変動対策検討小委員会の平均年齢は57.5歳だったことが明らかとなった。
一方、気候変動に関する政策を行う際に若者が参画するべきではないか、と国会で意見する議員も出てきている。
26日の環境委員会で公明党の中川康洋衆議院議員は、「将来に向け影響を受ける若者たちこそ気候変動やエネルギー政策に関する政策決定の場に参画し、その意見を反映させるべきだという声がある」と言及した。
若者団体による政策提言も積み上がってきており、将来を生きる若者の声を政治に届ける試みもが広がっている。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
国会の参考人「高校生は難しい」地球温暖化対策に関する衆院環境委員会の裏側で起こったこと