【合わせて読みたい】モネ展やキュビスムに話題の和食展も。東京の美術館、冬のおすすめ展覧会17選【2024】
惑星規模での環境危機が叫ばれる昨今、現代美術の分野においても「気候変動」「生態系」などを主題とする作品やプロジェクトが注目を集めている。世界の美術館・ギャラリーでは「エコロジー」をテーマにした展覧会が数多く開催され、そうした波は日本にも訪れている。
東京都内では2024年3月31日まで、「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」(森美術館)と「オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」(麻布台ヒルズギャラリー)が開催中。また崔在銀や大小島真木の個展(それぞれ1月28日、1月14日まで)は、より小規模な展示ながら、自然と人間の関係性をアーティストの視点で鋭く問い直す企画だ。
都会の足元に生える草花の存在に目をこらしたり、資源の利用と循環について考えを巡らせたりーー。そうしたきっかけをもたらしてくれる、4つの展覧会を紹介する。
会場:森美術館(東京都港区)
会期:2023年10月18日〜2024年3月31日
休館:会期末まで無休
料金:平日一般2000円など ※WEB予約も可
公式サイトはこちら
森美術館が開館20周年記念として開催しているのが、企画展「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」。本展には「環境危機に現代アートはどう向き合うのか?」という副題が添えられ、世界16カ国34人のアーティストによる約100点の作品が展示されている。
会場は「全ては繋がっている」「土に還る」「大いなる加速」「未来は私たちの中にある」の全4章で構成。昆虫たちの「コロニー」を映し出すアピチャッポン・ウィーラセタクンの短編映画や、ニューヨークのビル街に麦畑をつくったアグネス・デネスのプロジェクトなど、現代アートの多様な実践が紹介されている。
床一面に貝殻を敷き詰めたニナ・カネルのインスタレーションは、観客がそこを歩くたびに貝が砕け、きれいな音が響くというもの。会期中に粉砕された貝殻はその後、セメントなどの建材の原料として再利用される予定といい、自然と人工の循環プロセスの一端を体験できる試みとなっている。
高度経済成長期の日本で、さまざまな環境問題にアーティストがどう対峙してきたのかをたどる章も見どころの一つだ。公害や環境保護の動きをまとめた年表とともに、大量のプラスチックごみを焼き固めた殿敷侃の作品資料などが並び、核放棄の訴えや物質文明への痛烈な批判を読み取ることができる。
また本展では、別の展覧会で使った展示壁を再利用したり、100%リサイクル可能な石膏ボードを採用したりすることで省資源化にも取り組んでいる。環境に配慮した展示デザインを提案し、これからの展覧会の在り方を考える取り組みなのだという。
会場:麻布台ヒルズギャラリー(東京都港区)
会期:2023年11月24日〜2024年3月31日
休館:会期末まで無休
料金:一般1800円など ※WEB予約も可
公式サイトはこちら
気候変動対策をはじめ、社会的課題への積極的な取り組みで知られるアイスランド系デンマーク人のアーティスト、オラファー・エリアソン。2023年11月に開業した麻布台ヒルズギャラリーの開館記念展では、水、光、風といった自然現象や、物理的な力を可視化するエリアソンの作品を紹介している。
麻布台ヒルズの開業にあたり、森JPタワーの吹き抜けロビーには、エリアソンのパブリックアート《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》が設置された。本作で使われているのは、リサイクル素材としての亜鉛だ。ゴミを燃やす時に出る、有害な煙を浄化する過程で集められたものだという。
エリアソンによれば、「亜鉛の金属分子は煙突から吐き出されるスモッグの中に存在しますから、この作品は私たちが日々呼吸する空気から取り出したもの」ということになる。「工場の煙突の稼働を止めて、金属を取り出して別のことに使う必要があるのです。気候変動が現実に起きている今、すべてを考え直さなければなりません」
ギャラリー内では、同じくリサイクル亜鉛を用いた新作《呼吸のための空気》も披露。また目玉作品である《瞬間の家》は、暗闇に放たれた水をストロボの光で瞬間的に照らし、全長20メートル超の空間に美しい曲線が浮かび上がる大型インスタレーションだ。
このほか、カタールの砂漠で太陽光や風力などの自然エネルギーを使って描いたドローイング・シリーズなども展示されている。気候危機や未来への責任について、現代アートの分野から積極的に発言してきたエリアソン。その深い問題意識に触れる機会にできそうだ。
会場:メゾンエルメス銀座フォーラム8・9階(東京都中央区)
会期:2023年10月14日〜2024年1月28日
休館:会期末まで無休
料金:無料
公式サイトはこちら
メゾンエルメス銀座では、森美術館「私たちのエコロジー」展の関連企画として、韓国・ソウル生まれの崔在銀(チェ・ジェウン)の個展を開催している。
1980年代からアーティストとして活動する崔は、自然や環境との対話をテーマに制作を続ける。これまでに、朝鮮半島を南北に隔てる非武装地帯(DMZ)に森林の復元を試みる「大地の夢プロジェクト」「自然国家」などを展開してきた。
今回の展示では、これらのプロジェクトのために制作した植生計画の地図や、地雷原となったDMZに種子を散布するためのアイデアを紹介。自然との理想的な共存関係を再び構築しようと、研究者や建築家らと模索を続けてきた過程を、映像や大型パネルの形で掲示している。
一方、展示空間に無数の白いサンゴを並べた《白い死》は、沖縄の浜辺で大量のサンゴの死骸を見たことを機に制作した新作だ。崔は沖縄県の許可を得て現地のサンゴを採取。「亡骸のように残酷でありながらも同時に美しさも覚えずにはいられない切迫した」光景をそのままギャラリーに持ち込むことで、海の生態系の破壊がもたらす悲劇を観客に強く訴えかける(サンゴは会期終了後、元の海へ変換される予定という)。
本展は「エコロジー:循環をめぐるダイアローグ」と題した企画の第1弾。第2弾となる「つかの間の停泊者 ニコラ・フロック、ケイト・ニュービー、保良雄、ラファエル・ザルカ」は、2月16日から開催予定だ。
会場:調布市文化会館たづくり(東京都調布市)
会期:2023年10月7日〜2024年1月14日
休館:会期末まで無休
料金:無料
公式サイトはこちら
生命の絡まり合いや循環などをテーマに、作品を発表しているアートユニット・大小島真木。1月14日まで調布市で開催している個展「千鹿頭 CHIKATO」では、長野県・諏訪地方で滞在制作した新作の映像作品などを展示している。
御柱祭で有名な諏訪大社が鎮座する諏訪盆地は、かつて70頭余りの鹿の頭を神に捧げる儀式が行われていたとも伝えられ、狩猟や肉食をめぐる文化が色濃く残る土地だ。個展会場には、諏訪でのリサーチ活動にもとづく中編の映像作品2本を中心に、人獣一体となったオブジェや絵画、狩猟をめぐるフォトエッセーなどが並ぶ。
諏訪はまた、中央構造線と糸魚川―静岡構造線の二つの断層が交差する特殊な条件を背負った土地でもある。《根源的不能性》と題した映像作品は、そんな諏訪の地形をひもときながら、揺れる列島の上で暮らす人々の信仰や生命観を考察したもの。
一方、諏訪の森を舞台にした《千鹿頭 CHIKATO》は、狩人と森の精霊のような存在が交わる場面などを描いた「創作神話」だ。「性」「食」「葬」といった要素が散りばめられた詩的な映像からは、人間を中心に据えた世界観に対する、静かな異議が聞こえてくるかのようでもある。生と死、自然と文明といった二項対立を揺さぶり、深い印象をもたらしてくれる展示となっている。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
現代アートで考える〈エコロジー〉とは。森美術館や麻布台ヒルズで、地球の未来に向き合う東京の展覧会4選