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子どもの「興味」の裏側にあるものは…。大学生が作った「森林保全ゲーム」で開く“エコ”の未来

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「林業」と聞いて、何を思い浮かべるだろう。

山や森の中で行う力仕事や、大きな機械を操縦する“職人”を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。また、中には「パワフルな男性の仕事」というイメージを持っている人もいるかもしれない。

「『子供が大人になった時に、林業が職業選択の一つになるように』と調査をしていたら、驚きの発見があったんです」

そう語るのは、同志社大学の教授で、ソーシャルマーケティング研究センター長の瓜生原葉子さん。自身が大学で開講している「ソーシャルマーケティングゼミ」では、学生たちと「森林保全ゲーム」を開発。研究や子どもたちとの交流などを通して、環境保全や林業の未来を模索している。

瓜生原葉子さん瓜生原葉子さん

「ソーシャルマーケティングの研究者なのに、なぜ森林保全を?」

そんな素朴な疑問をぶつけてみたところ、そこには森林保全や環境問題だけに囚われない、多様な「エコ」への眼差しがあった

ドローンで苗木を運ぶ?意外と知らない「林業」

ーー数ある社会課題の中で、森林保全に取り組まれたのはなぜですか?

元々は医療をテーマに研究をしていたのですが、SDGsの視点で未来を考えたとき、既に取り組んでいる分野以外のアプローチも必要だと思ったのがはじまりです。

そこで頭に浮かんだのが、ゼミの卒業生でもあり「土砂災害での人的被害をゼロにする」というビジョンの元でソマノベースを立ち上げた奥川季花さん。山林活用支援事業、木材製品プロデュース事業、木育事業を展開している会社です。

奥川さんは高校生の頃に土砂災害に遭って、友達を亡くすという辛い経験をされています。私は常に次世代の育成を大切にしていることもあり、情熱を持って林業に取り組まれている奥川さんをお手伝いできないかと思ったんです。

ーー林業というと「山の中でパワフルな男性が木を切って、機械を使いこなして」といった光景が思い浮かびます。

実はそれだけじゃないんです。土砂災害を少しでも防ぐために山をお手入れしたり、切った木を加工したり、届け先を考えたりなど、そのサプライチェーン全体が林業なんです。

なので、女性でも特別に参画が難しいということはありません。特に最近は木をドローンで運ぶこともあったり、世間のイメージと実際の林業とでは違っていることも多いのが現状です。

そこで「子供が大人になった時に、林業が職業選択の一つになるように」という思いの元、ソマノベースのバックアップを得て、森林保全の課題解決に向けて踏み出しました。

自然もお金も大切。「環境保全ゲーム」と考える未来

ーー子どもたちに、林業や森林保全を身近に感じてもらうために選んだのが、ゲームという手段だったんですね。

はい。今の最新版に至るまで、2年の試行錯誤を学生と共にしました。

初年度は中学生と大学生を対象に企画・実施したのですが、実装を通して調査をする中で、年齢的に既に関心が定まっていている人が多く、職業選択の1つにはし難いことが分かってきました。そこで対象を小学生にシフトしたところ「小学生にどうやって森林保全を教える?」と疑問が生まれ、辿り着いたのがゲームだったんです。

環境保全ゲームの前後には、ソマノベースの奥山さんによる事前説明や、振り返りの時間も。 環境保全ゲームの前後には、ソマノベースの奥山さんによる事前説明や、振り返りの時間も。  

イマココラボの「SDGsカードゲーム」をモデルにしたすごろくゲームで、必ず各グループにゲームやディスカッションをリードするファシリテーター(学生)がいるのが特徴です。

ここでポイントなのが「社会にいいことしよう」だけでは社会課題は解決できないということ。持続性のためにはお金も大切ですよね。しかし、お金が第一目的になることがあってもいけません。森林保全ゲームでは、ゴールに着いたときに「お金」と「自然」のポイントの差が小さくて、トータルが大きい人が勝ちです。その設計が本当に大変でした(笑)。

マス目に何を入れるかは、先行研究や調査から抽出しました。しかし、小学生の集中力が切れてしまうのを防ぐために、絶対に止まるディスカッションのマスや、遊び手が新規事業を考えるマスを作り、クリエイティヴに遊べる仕組みも施したところ、これが大正解でした。

ーー小学生が新規事業を考えるんですか?

はい。最初は「大丈夫かな?」と心配していたのですが、意外と面白いアイデアが出てくるんですよ。コロナ禍で大声を出せない環境が続いたので「山で大合唱をする」なんて斬新なアイデアが出たりもしました。とても盛り上がりますし、ただマスを進むよりも集中力が持続します。

学生たちとの努力の結果もあり、子どもたちからは「自分で企画を考えるのが楽しかった」という声に加え「今まで知らなかったことを知れた」という声が聞こえたり、とても嬉しかったです。

大学生が地域でボランティアするときや、地域で交流イベントをしたいというときにもぴったりのゲームだと思います。

人や社会を動かしたい。そんなときに必要なのは…

ーー森林保全ゲームの開発や実装をする中で、特に印象的だった出来事はありますか?

ゲーム開発の事前調査を小学校で行ったところ、小学生が何かに関心を持つきっかけになる要素に「誰かのためになる」が浮かび上がったのが印象的でした。

既に「楽しい」以外の喜びを感じている。自分の行動には外の世界に変化を及ぼすパワーがあることを実感している。この事実にハッとして、ゲームの要素にも「誰かのためになる」という要素を取り入れました。

ーー「森林保全ゲーム」では「自分ごと化する」もテーマになっています。自分ごと化することは、社会課題と向き合う上でどのように生きてくるのでしょうか?

「自分ごと化」を平たく言い換えるなら、「相手の気持ちに思いを馳せる想像力」という言葉が良いかもしれません。

森林保全の例で言えば、鹿などの動物が餌を求めて山から街まで降りて来たというニュースが、時々テレビでも流れていますよね。そこで「けしからん」と声を荒げることもできますが、変わりに「どうして鹿が降りてくるんだろう?」と想像して根本の原因を探れば、その背景にある森林伐採の問題などが見えてくるかもしれません。そこで初めて「自分にできる行動はあるかな」と建設的な問いが立つんです。

森林保全ゲームをする小学生と、ファシリテーターの大学生森林保全ゲームをする小学生と、ファシリテーターの大学生

事象だけを見ずに、相手の靴を履いて背景を想像する習慣は、世代やステークホルダーを超えた会話でも生きますし、社会課題の解決に向けて誰かを動かしたり先導したりする立場になったときにも欠かせないスキルです。

よく行動変容という言葉が使われますが、誰かに何かをしてほしい、社会を変えたいと思ったときに問われるのは、伝える力でも教える力でもなく、相手の気持ちを想像する力だと私は思うんです。

例えば、企業が「この社会課題が大切だから取り組むぞ」と意気込んでも、ついて来る人はごくわずかでしょう。新しいことへの挑戦には不安も伴いますし、「社会に良い」だけでは面倒だと思うのも無理はありません。

人が自発的に動くのは納得しているときなので「この人はどうしたら納得してくれるかな」と想像することがすごく大切なんです。すごく手間かかる、面倒くさい作業ですが、そこでいかに手抜きしないかが、人や社会を動かすポイントだと思います。

エコ=グリーンだけじゃない。医療のエコ活動とは?

ーー今年の11月3日と11月4日には、名古屋でエコデーが開催されますね。
はい。私のゼミでは3年生時に研究テーマの社会実装を行うので、エコデーはその一環でもあります。2年前は森林保全、去年は医療のエコ活動をテーマに設定したのですが、今年はパワーアップしていろいろなテーマでやります。

医療のエコ活動は聞きなれない言葉ですよね。すごく簡潔に言うと必要な医療や医薬品を必要な人に将来にわたって提供するために、国民一人ひとりができる医療資源にやさしい活動です。

現在の日本は国民皆保険があるので、病院に行っても医療費が比較的安く済みます。しかし、医療資源も有限なので、高齢化で病院に行く人が増えればこのシステムが持続できなくなるかもしれません。今後の「本当に医療が必要な人が、医療を受けられる仕組み」を守っていくためには、私たち個人が健康でいる努力をすることが大切なんです。

先天性疾患の方々もいますし、どんなに気を使っていても病気にはなります。そういう人たちにお薬もお金も使ってほしいじゃないですか。なので、この有限の医療を大切にすることを「医療のエコ活動」と呼んでいるんです。

ーーエコ=グリーンではなく、広義の意味でのエコ。具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。

栄養バランスのとれた朝食をとることも、医療のエコ活動の1つです。

去年のエコデーでは「世界の朝食展」と題して、朝食欠食率が高い20代に向けて、朝食の啓発活動を行いました。朝食を食べたらチェックをするカレンダー作って配布したり、「朝食を食べていない人は、食べている人の5倍肥満になりやすい「トマトとアボガドの食べ合わせは生活習慣病の予防に役立つ」などの朝食のメリットや気を付けたいことをクイズしたり、学生が作った朝食をSNSで発信する「共に創る朝ごはん」を企画したり、とても盛り上がりました。

今年は森林保全と朝食の他に、生物多様性、オーラルケア、運動系など、たくさんのメニューを同時にやるので、今からワクワクしています。

ーーすごい。エコ万博みたいですね。

まさに万博ですね。私はタッチポイントは広くあるべきだと思っていて、数あるテーマのどれかが、当日足を運んでくださった方々が、広義の意味でのエコに興味を持つきっかけになってくれたらいいなと願っています。

また、森林と医療をはじめ、異なるステークホルダー同士が「エコ」という言葉を通じて横串で繋がり、多様なエコを学び合い、実装していくきっかけになればとても嬉しいです。

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子どもの「興味」の裏側にあるものは…。大学生が作った「森林保全ゲーム」で開く“エコ”の未来

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