【トランスジェンダー女性のトイレ使用制限】最高裁判事5人の意見は?「共生を目指し、職員に性的マイノリティの法益尊重の理解を求めて」

最高裁第三小法廷、裁判官5人の判断

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戸籍上の性別を変更していないことを理由に職場で女性用トイレの使用制限などをされるのは違法として、経済産業省の女性職員が国に処遇改善などを求めた訴訟の上告審の判決で、最高裁の第三小法廷(今崎幸彦裁判長)は7月11日、トイレ使用制限は「違法」という判断を示した。

裁判官5人の全員一致の意見として、使用制限を「適法」とした二審の東京高裁判決を覆した

どんな裁判?

原告の職員は戸籍上男性で、性自認は女性。性同一性障害の診断を受けており、健康上の理由で性別適合手術を受けていない。経産省と協議の上、2010年から女性の服装で勤務し、健康診断も女性枠で受けている。だが経産省は、勤務フロアから2階以上離れた女性トイレの使用を求めた。

これに対して職員は、この制限を撤廃する行政措置を人事院に求めたが認められず、判定の取り消しを求めて国を提訴していた。

トイレの使用制限について、一審判決は「違法」と判断。だが二審判決は「女性職員側の違和感や羞恥心」などを理由に、経産省の対応や人事院判定を「適法」とする判断を示した。

この理由付けや、女性職員への配慮・影響に関して、第三小法廷の各裁判官はどのような意見を示したのか。

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今崎幸彦・最高裁判所判事(裁判長)

今崎幸彦・最高裁判所判事

(1957年11月10日生)

元東京高裁長官

2022年6月24日 最高裁判所判事

◇◇◇

原告の職員が、勤務フロアから2階以上離れた女性トイレを使用していた約4年10カ月の間に「何らの問題も生じていない」と指摘。この事例の教訓として、施設の管理者や人事担当者らは「トランスジェンダーの人々の置かれた立場に十分に配慮し、真摯に調整を尽くすべき責務がある」と提言した。

また、同様の事例があった場合に「同じトイレを使用する他の職員への説明(情報提供)やその理解(納得)のないまま自由にトイレの使用を許容すべきかというと、現状でそれを無条件に受け入れるというコンセンサスが社会にあるとはいえない」と指摘。

説明や話し合いの場を設けたとしても「消極意見や抵抗感、不安感等が述べられる可能性は否定できず、そうした中で真摯な姿勢で調整を尽くしてもなお関係者の納得が得られないという事態はどうしても残るように思われる(杞憂であることを望むが)」と不安視した。

現状の解決策としては「トランスジェンダー本人の要望・意向と他の職員の意見・反応の双方をよく聴取した上で、職場の環境維持、安全管理の観点等から最適な解決策を探っていくという以外にない」と結論づけた。

また、今回の判決は「トイレを含め、不特定又は多数の人々の使用が想定されている公共施設の使用の在り方について触れるものではない」と説明。「この問題は、機会を改めて議論されるべきである」とも付け加えた。

宇賀克也・最高裁判所判事

宇賀克也・最高裁判所判事

(1955年7月21日生)

元東京大学法学部教授

2019年3月20日 最高裁判所判事

◇◇◇

宇賀裁判官は「原告の自らの性自認に基づいて社会生活を送る利益」「同僚の職員の心情」の両方への配慮が必要と言及。

原告職員と同じトイレを使うことに対する女性職員の違和感や羞恥心を重視した経産省の対応について、原告職員の利益の制約として正当化できるか検討したところ、「(原告が)女性トイレを使用することにより、トラブルが生ずる具体的なおそれはなかった」と指摘した。

人事院判定が出た時点で、原告が女性の服装での勤務を始めてから4年10カ月以上が経っていた点を踏まえて、次のように評価した。

「原告がMtFのトランスジェンダーで戸籍上はなお男性であることを認識している女性職員が、本件執務階とその上下の階の女性トイレを使用する可能性があったとしても、そのことによる支障を重視すべきではなく、原告が自己の性自認に基づくトイレを他の女性職員と同じ条件で使用する利益を制約することを正当化することはできないと考えられる」

女性職員が抱く可能性がある違和感や羞恥心などについて「トランスジェンダーに対する理解が必ずしも十分でないことによるところが少なくないと思われるので、研修により、相当程度払拭できる」と付け加えた。

その上で、こうした違和感や羞恥心を「(人事院判定は)過大に評価し、原告が自己の性自認に基づくトイレを他の女性職員と同じ条件で使用する利益を過少に評価している」と結論づけた。

長嶺安政・最高裁判所判事

長嶺安政・最高裁判所判事

(1954年4月16日生)

元外交官

2021年2月8日 最高裁判所判事

◇◇◇

長嶺裁判官は、人事院判定時に原告が4年以上も女性の身なりで勤務していたことを踏まえて、経産省の対応の是非をこう論じた。

「本件説明会(部署の職員に対し、原告の性同一性障害について説明する会)において担当職員に見えたとする女性職員が抱く違和感があったとしても、それが解消されたか否か等について調査を行い、原告に一方的な制約を課していた本件処遇を維持することが正当化できるのかを検討し、必要に応じて見直しをすべき責務があった」

渡邉惠理子・最高裁判所判事

渡邉惠理子・最高裁判所判事

(1958年12月27日生)

弁護士出身

2021年7月16日 最高裁判所判事

◇◇◇

渡邉裁判官は「生物学的な区別を前提として男女別トイレを利用している職員に対する配慮も必要」とした上で、「女性職員らの利益を軽視することはできないものの、原告にとっては人として生きていく上で不可欠ともいうべき重要な法益」と指摘。

「性的マイノリティに対する誤解や偏見がいまだ払拭することができない現状」 があると触れ、こう意見した。

「女性職員らの守られるべき利益(原告の利用によって失われる女性職員らの利益)とは何かをまず真摯に検討することが必要であり、また、そのような女性職員らの利益が本当に侵害されるのか、侵害されるおそれがあったのかについて具体的かつ客観的に検討されるべきである」

また一般論として、トランスジェンダーの人が自認する性別のトイレを利用することへの違和感について「(当初は)持ったとしても、当事者の事情を認識し、理解することにより、時間の経過も相まって緩和・軽減することがある」とも説明した。

原告職員による女性トイレ使用(勤務フロアから2階以上離れたトイレ)にあたって開いた説明会では、女性職員から異議は出なかった。

渡邉裁判官はこの点「気後れした可能性がないとは言い切れない」としつつ、記録を根拠に、次のような理由も考えられるという見解を示した。

「戸惑いながらも原告の立場を配慮するとやむを得ない」

「反対することは適切ではないのではないか」

「自認する性別のトイレ利用を認めるべきであるとの認識の下で異議を述べなかった」

この点を考慮せず、高裁判決が「(女性職員の)性的羞恥心や性的不安などの性的利益」を根拠に制限を認めたとして、「多様な考え方の女性が存在することを看過することに繋がりかねない」と懸念を表明した。

施設管理者に対してこう提言した。

「女性職員らが一様に性的不安を持ち、そのためトランスジェンダー(MtF)の女性トイレの利用に反対するという前提に立つことなく、可能な限り両者の共棲を目指して、職員に対しても性的マイノリティの法益の尊重に理解を求める方向での対応と教育等を通じたそのプロ セスを履践していくことを強く期待したい」

林道晴・最高裁判所判事

林道晴・最高裁判所判事

(1957年8月31日生)

元・東京高裁長官

2019年9月2日 最高裁判所判事

渡邉裁判官の補足意見に同調した。

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