人種差別的な職務質問(レイシャル・プロファイリング)の問題を考えるシンポジウムが5月27日、東京・新宿で開かれた。
弁護士や研究者、新聞記者が登壇し、日本の警察による人種差別の現状や、レイシャル・プロファイリングが当事者の精神的な健康に与える影響などについて報告した。
宮下萌弁護士は、外国にルーツのある人を対象に2022年に東京弁護士会が行った調査の分析結果や、レイシャル・プロファイリングをめぐる近年の警察庁などの対応を説明した。
谷公一・国家公安委員長は2022年9月、職務質問について「法に基づいて行われるものであり、人種、国籍などを理由として行うことは許されない」と発言した。
これに対し、宮下氏は「現場で職務質問を行っている警察官に、そのことが十分周知されていると言えるだろうか」と疑問を呈した。
宮下氏が中心メンバーに加わる市民団体「STOPレイシャルプロファイリング」は、人種差別的な職務質問の改善を求める署名を募っている。
キャンペーンでは、警察庁と国家公安委員会に対し、人種差別に関する研修の実施や、職務質問の記録を取ることなどを求めている。
東京大学の高谷幸准教授は、「現代日本における非正規移民の『犯罪者化』・再考」と題して講演した。
高谷氏は、1990年代前半までは、警察組織の中でオーバーステイなどの入管法違反事件は入管当局が対応する問題だという意識が一般的だったと報告。その後、1993年の『警察白書』に「不法滞在者」という表記が登場するなど、警察側の認識に徐々に変化が見られるようになったという。
さらに、1990年代末〜2000年代半ばに日本社会で治安悪化の意識が高まり、その元凶として「不法滞在者」がある、と強調されるようになったと指摘。高谷氏は「不法滞在者」という呼称について、「警察が外国人と犯罪を結びつける時に使われるようになったカテゴリー」だと話した。
2006年には、埼玉県警が日本国籍の女性を入管法違反の疑いで誤認逮捕した事件が起きた。当時の新聞報道によると、警察官は「目が大きく、彫りが深かったため、外国人だと思い込んだ」と説明していたという。
高谷氏は、このケースについて「明らかに見かけで(外国人と)判断していることが分かる出来事だ」と指摘した。
また、入管法が規定する旅券や在留カードの常時携帯・提示義務に加え、職務質問の法的根拠である「警察官職務執行法」が後押しとなり、警察内で人種や身体的差異が「違法性」と結び付けられやすくなったと述べた。その上で、高谷氏は在留カードの常時携帯・提示義務の見直しの必要性を訴えた。
東洋大学の高史明准教授は、社会心理学とレイシャル・プロファイリングをテーマに発表した。
高氏は「特定の人種や国籍の人が、特定の種類の犯罪に関わりやすい」という説は事実無根とは言えないとする一方で、こうしたステレオタイプを犯罪捜査に持ち込むことのリスクについて言及した。
「犯罪捜査で(データを基に母集団の特性を推測する)統計的推論を行うことは、有効で合理的な場合もある一方で、それが『公正』だとは限らない」と指摘。
「公正に扱われていると認知することは、精神的健康にとって非常に重要。レイシャル・プロファイリングは、当事者の『公正認知』を損なう程度が大きいと考えられる」と述べた。
さらに、高氏は外国人に偏見を抱いている人の場合、意図しなくても外国人の行動を不審なものと解釈しやすく、職務質問に正当な理由がない場合でもそれを見出してしまう傾向にあると問題提起した。
こうしたバイアスを避けるためには、バイアス自体を意識的に認知することや、事前に教育を受けることが必要だと話した。
<取材・執筆=國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版>
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「公正に扱われていると感じることが、精神的健康にとって重要」レイシャル・プロファイリングめぐりシンポ