LGBTQ差別のない社会を「実現する」。G7首脳宣言に「現状との乖離があまりに大きい」の声

G7首脳宣言について話すPride7の寺原真希子さん(右)と神谷悠一さん

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日本が議長国を務めたG7広島サミットが5月19〜21日、広島県内で開かれた。2月の前首相秘書官の差別発言を受け、当事者経済団体企業などが、LGBT差別禁止法や結婚の平等などの法整備を求めてきたが、自民党議員の反対意見を受け、理解増進法すら成立されないままでの開催となった。

一方でG7の首脳宣言では、ジェンダーに関する項目で「性自認、性表現あるいは性的指向に関係なく、暴力や差別を受けることなく生き生きとした人生を享受することができる社会を実現する」と明記された。昨年のドイツ・エルマウサミットの宣言よりも、踏み込んだ表現となった。

G7に向けて、LGBTQ当事者の人権保護などを目的に設立した『Pride7』実行委は、「国が普段やっていることと宣言の乖離があまりに大きいです。今後しっかりと法整備をしていかなければ、国際社会から信頼を失うと思います」と指摘する。

◆G7首脳宣言で、LGBTQにはどう踏み込んだ?

LGBTQに関する首脳宣言のポイントは以下の通りだ。

1.暴力や差別のない社会を「実現」

「あらゆる人々が性自認、性表現あるいは性的指向に関係なく、暴力や差別を受けることなく生き生きとした人生を享受することができる社会を実現する」と明記。差別や暴力について、「完全なコミットメントを再確認する」とした昨年のドイツ・エルマウサミットの宣言よりも、踏み込んだ表現となった。

2.トランスジェンダーやノンバイナリーが削除

「差別や暴力のない社会」に関する記述について、昨年はあった「トランスジェンダー及びノンバイナリーの人々の間の平等を実現することに持続的に焦点を当て」という表現が削除された。

3.ジェンダー平等に「努める」

ジェンダー平等について「社会のあらゆる層と共に協働していくことに努める」と表現。差別や暴力のない社会については「実現」としたのに対して、弱い表現となった。

◆現実との乖離

Pride7の実行委で、結婚の平等を目指す弁護士らでつくる『公益社団法人Marriage For All Japan ―結婚の自由をすべての人に』の共同代表の寺原真希子さんは、「性自認や性的指向による差別のない社会を作るという文言自体は素晴らしいと思います。だからこそ日本の現状との乖離があまりにも大きい」と指摘する。

そもそもPride7を立ち上げたのは、前首相秘書官が性的マイノリティについて「見るのも嫌だ」などと差別発言したことがきっかけだった。以来、国に対してG7広島サミットまでに、以下の3つの法整備を求めてきた。

・LGBT差別禁止法
・結婚の平等(法律上の性別が同じふたりの結婚)
・(「生殖腺を取る手術を受けること」などの要件を定めた)性同一性障害特例法の改正または新設の整備

自民党は重い腰を上げ公明党と5月18日に、G7広島サミットにギリギリ間に合わせる形で、「LGBT理解増進法案」を国会に提出。だが「差別は許されない」が「不当な差別はあってはならない」、「性自認」が「性同一性」などと変更され、内容が後退した修正案で、当事者からは「国際社会に向けた『やってる感』を演出するだけでG7広島サミットをやり過ごそうとするのは到底許されません」といった声が上がる

また現在、30人を超えるLGBTQ当事者らが、結婚の平等を求めて国を訴える「結婚の自由をすべての人に」訴訟が、全国6つの地裁・高裁で進んでいる。国は裁判で、「結婚は子を産み育てるもの」などと主張。すでに判決のでた3つの地裁のうち、2つでは「違憲判決」が出ているのにもかかわらず、法制化に向けた具体的な議論はいまだにされていない。

 LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は、今回の首脳宣言について「前回から前進も後退もしなかったというのが総論です。差別や暴力のない社会に向けて、具体的にどう実現するか書かれていません」と指摘。その上で、こう話した。

「議長国として首脳宣言を取りまとめたがゆえに、LGBTQ当事者に対して人権を保護していないという現状が海外に知れ渡ったと思います。意識の甘さを自覚して、コミュニケ通りに政策を進めてほしいと思います」

◆性自認、性的指向などで、暴力や差別を受けることない社会を

首脳宣言で、LGBTQ当事者に関する主な項目は以下の通り。

42.ジェンダー平等及びあらゆる女性及び女児のエンパワーメントの実現は、強靭で公正かつ豊かな社会のための基本である。我々は、あらゆる多様性をもつ女性及び女児、そしてLGBTQIA+の人々の政治、経済、教育及びその他社会のあらゆる分野への完全かつ平等で意義ある参加を確保し、全ての政策分野に一貫してジェンダー平等を主流化させるため、社会のあらゆる層と共に協働していくことに努める。この観点から、我々は、長年にわたる構造的障壁を克服し、教育などの手段を通じて有害なジェンダー規範、固定観念、役割及び慣行に対処するための我々の努力を倍加させることにコミットし、多様性、人権及び尊厳が尊重され、促進され、守られ、あらゆる人々が性自認、性表現あるいは性的指向に関係なく、暴力や差別を受けることなく生き生きとした人生を享受することができる社会を実現する。我々は、ジェンダー平等アドバイザリー評議会(GEAC)の活動を歓迎し、その更なる強化に期待する。我々は、ジェンダー・ギャップに関するG7ダッシュボードの最初の改訂と、ジェンダー平等を前進させるための過去のG7のコミットメントを監視することを目的とする、最初の実施報告書の本年の公表を期待している。

43. 我々は、特に危機的な状況下で女性及び女児の権利が後退することに強い懸念を表明し、世界中の女性及び女児並びにLGBTQIA+の人々の人権と基本的自由に対するあらゆる侵害を強く非難する。我々はさらに、SRHRがジェンダー平等並びに女性及び女児のエンパワーメントにおいて、また、性的指向及び性自認を含む多様性を支援する上で果たす、不可欠かつ変革的な役割を認識する。我々は、安全で合法な中絶と中絶後のケアへのアクセスへの対応によるものを含む、全ての人の包括的なSRHRを達成することへの完全なコミットメントを再確認する。国内外において、ジェンダー平等及びあらゆる多様性をもつ女性及び女児の権利を擁護し、前進させ、守ることにコミットし、この分野における苦労して勝ち取った進展を損ない、覆そうとする試みを阻止するために協働する。この観点から、我々は、WPSフォーカル・ポイント・ネットワークとのパートナーシップ及び国家行動計画の策定への支援を通じて、防災への適用を含む「女性・平和・安全保障(WPS)」アジェンダの前進、実施及び強化並びに交差的アプローチの推進にコミットする。我々は、暴力的紛争の予防、救援・復興活動の提供、永続的な平和の構築における女性の主導的な役割を強調し、和平及び政治プロセスにおける女性の完全で、平等で、意義のある参加を支持することを誓う。我々は、紛争に関連した性的暴力及びジェンダーに基づく暴力を撲滅するための取組の強化及びサバイバー中心のアプローチを用いて、被害者・サバイバーに包括的な支援と意義のある参加を提供する重要性にコミットする。我々はさらに、あらゆる形態の、性的及びジェンダーに基づくオフライン及びオンラインにおけるハラスメントや虐待、援助に関連した性的搾取や虐待を撲滅することにコミットする。我々は、全ての人々への教育の権利確保にコミットし、安全でジェンダー分野で変革的な質の高い教育への公平なアクセスを促進するとともに、科学、技術、工学、数学(STEM)の分野、教育及びデジタルにおけるジェンダー格差を解消する措置を講じる重要性を強調する。我々は、これが、気候、自然及び開発の課題に対処するために不可欠の土台である女性の起業家精神を促進するための鍵であると考える。我々はまた、リスキリングと技能向上の促進、働きがいのある人間らしい労働条件の促進、あらゆる多様性をもつ女性の金融包摂の強化及びジェンダー間の賃金格差の解消にコミットする。我々はさらに、女性の完全なエンパワーメントと、指導的地位を含むあらゆるレベルの意思決定プロセスへの完全かつ平等な参加を促進するためのコミットメントを改めて表明する。我々は、質の高いケアは、我々の社会及び経済の機能において不可欠な役割を果たすが、そのジェンダー不平等な分配によりジェンダー不平等の主要な原因となっていることを認識する。

 <取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>

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Takeru Sato