あわせて読みたい>>「正当な差別は、法律上存在しない」自民党のLGBT法整備の遅れ、経団連や弁護士からも非難の声
◆
LGBTQ当事者やアライの人らが5月16日、東京都・永田町の衆院第2議員会館で抗議集会を開いた。自民、公明両党がこの日に了承した「LGBT理解増進法案」の修正案の内容が、2年前に超党派議員連盟で作成し国会提出が見送られた当初案から大きく後退していることを受けてのものだ。
修正案では「差別は許されない」という文言が「不当な差別はあってはならない」に変更された。主催した「LGBTQ+国会議会運営委員会」の浅沼智也さんは「『差別を許さない』ことを躊躇し、差別言説の影響を受けて『修正』された法案などいりません」と指摘。
法案は19日のG7広島サミット前に、議員立法として国会に提出される予定だが、「国際社会に向けた『やってる感』を演出するだけでG7広島サミットをやり過ごそうとするのは到底許されません」と訴えた。
抗議には、5日間で全国52の当事者団体などから賛同が集まっている。
自民党が了承した「LGBT理解増進法案」は、どんな変更があったのか。「LGBTQ+国会議会運営委員会」などによると、主な変更点は以下の通りだ。
当初案には、条文の「基本理念」と「目的」の2カ所に「性的指向や性自認に関する差別は許されない」という表現があった。
だが、目的からこの一文が削除され、基本理念では「不当な差別はあってはならない」という文言に修正された。
「性自認」の文言が削除され、「性同一性」に変更された。東京新聞によると、自民党内で「自らの認識で性を決定できると解釈されれば、社会の混乱を招く懸念がある」「男性が『今日から女性になる』と言って女性用トイレに入るなど悪用の懸念がある」という主張があるといい、これに配慮したものとみられる。
国や地方自治体などに努力義務を課す第12条「相談体制の整備等」と、第13条「民間の団体等の自発的な活動の促進」を削除し、「着実な知識の普及等」の条文の項目に格下げした。
また学校現場での理解増進を求める第7条「学校の設置者の努力」も削除され、第6条「事業者等の努力」の項目に格下げされた。
また、「調査研究」を「学術研究等」に修正。「学術研究」に限定することで、国勢調査などで差別の実態を明らかにすることなど、学術とは目的が異なる調査研究の積極的な展開が阻害される可能性があるという。
「LGBT理解増進法案」の修正内容について、「LGBTQ+国会議会運営委員会」の浅沼智也さんは「“正当な差別”の存在を是認し、LGBTQ+当事者に対して差別的なまなざしを向ける内容です」と批判する。
特に「性自認」が「性同一性」に変更されたことについて、「法案の定義上は「性自認」と同じものになっています。ですが、WHOは2019年に、性同一性障害を精神疾患の分類から除外しているにもかかわらず、性同一性は「性同一性障害」を前提に医師によって診断をされるものという主張を踏まえて修正されているとみられます」と分析する。
文京区で、性自認や性的指向による差別を禁止する条例の制定に関わった経験のある日本大の鈴木秀洋教授も「『性自認』はすでに自治体の条例、行政計画、判例で広く使われています。ですが、『性同一性』は使われていません」と指摘した。
◆
一般社団法人『fair』の松岡宗嗣さんは、LGBT理解増進法をめぐる自民党議員らの以下の発言や意見をみて、愕然としたという。
・「もう十分に『骨抜き』になった」(安倍派の幹部)
・「行き過ぎた人権の主張、もしくは性的マジョリティー(多数派)に対する人権侵害、これだけは阻止していかないといけないと思います」(宮澤博行衆院議員)
・「『差別』という語は削りたかった」(片山さつき参院議員)
・「性教育だって十分にできていないのに、LGBTの教育をしてどうするんだ」「子どもが混乱する」(「学校の設置者の努力」の文言の削除に関する反対意見)
松岡さんは「修正はいずれも『どうにか差別する余地を残したい』というものでしかありません。議論をすればするほど内容は後退していき、デマや差別的な言説が広げられていく状況です」と指摘。その上で、こう求めた。
「理解増進法なのに、学校で理解を広げることを妨げようとするのは本末転倒です。骨抜きの法案をさらに後退させ、G7までに提出という『ポーズ』だけ見せても意味はありません。当事者からも諸外国からも評価されません。少なくとも当初の合意案に戻すべきだと考えます」
<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「差別する余地を残したい」自民のLGBT法案修正に識者・当事者らから「『やってる感』では許されない」と抗議の声